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2019年1月7日
【NYダウは一時800ドルを超す大幅高、雇用統計や米FRB議長の発言を好感】(1月7日配信)
おはようございます。
【NYダウは一時800ドルを超す大幅高、雇用統計や米FRB議長の発言を好感】
- 1月4日の米株式市場でニューヨークダウ30種平均は3日の終値から3.2%(746ドル)高い23,433ドルで引けました。前日比の上げ幅は一時830ドルを超えました。ナスダック総合は4.2%高、S&P500種のセクター別では情報技術(IT)が4.4%高、コミュニケーションが4%高などこれまで下落率の大きい業種に買い戻しが入り、高い上昇率となりました。投資家の不安心理を示す米VIX指数は21.38とニューヨーク株式市場の下落が加速する直前の2018年12月13日(20.65)以来の低い水準となりました。このままVIX指数が安定に向かえば12月以降続いた米株式市場の下落は一旦緩和に向かい、買戻しが強まる可能性が出てきました。
- 急反発の材料は、第1に米AEA年次総会(米国経済学会)での討論会で、パウエル米FRB議長が景気の行方次第で金融政策を柔軟に見直す考えを表明したこと、第2に2018年12月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数が前月比31万人増と市場予想(17.6万人増)を大きく上回ったことで、過度な米景気懸念が後退したことでした。これに加えて中国が4日、預金準備率を1%引き下げると発表したことや、米中次官級の貿易協議が1月7日~8日に北京で開かれると中国商務省が発表したことも好感されました。
- そもそも、2018年の12月末にかけて米国株の下落が加速したのは12月19日の米FOMC後でした。米FRBが利上げと同時に進めるバランスシート縮小政策に対して、流動性が低下することを金融市場は懸念していました。FOMC後のパウエル議長の記者会見では「自動操縦」という表現を使い、従来通り一定の規模で総資産を縮小させる政策に変更がないことを強調し、投資家を失望させました。
- 1月4日の講演でパウエル議長は、「市場は世界経済を不安視しており、金融政策も柔軟に見直す用意がある」と発言。さらに「問題が発生すればバランスシート正常化も含め、修正をためらわない」と強調しました。市場の懸念を打ち消すかたちで率直に答えた格好です。さらに年末の株価下落のもう一つの懸念材料であったトランプ政権の圧力によるFRB議長職の辞任の可能性も明確に否定しました。パウエル議長の講演で、12月から続いた金融市場と米FRBのコミュニケーションのズレが修正され、今後は市場のメッセージを重視する姿勢が感じられました。
- 前日3日に発表された12月の米ISM製造業景況感指数が約10年ぶりの悪化幅となりました。米中貿易摩擦による世界経済の減速が米経済に影響するリスクが懸念されていました。米金融先物市場から算出したFF金利先物の予測は今年の米利下げを予想するほど極端に悲観的な見通しが強まっていました。米雇用統計でその懸念も払拭されました。
- 12月の米雇用統計は米景気が堅調に推移していることを示しました。12月の失業率は3.9%と前月の3.7%から0.2ポイント悪化しましたが、平均時給は前年同月比3.2%増え、賃金上昇が米個人消費を支える構図が確認されました。米経済は今後減速していくシナリオはすでに市場のコンセンサスです。大型減税効果で2018年の3%を超す経済成長率がむしろ強すぎたわけで、今後は2~3%成長の巡航速度に向かいます。米経済が「景気後退」ではなく「景気減速」に留まり、米FRBが市場の声に耳を傾けつつ利上げのスピードを調整するというシナリオはまさに「2016年型の株式相場」をイメージさせます。実現するかどうかはもちろん今後の米経済と米FRBの政策に依存します。
- 昨年のニューヨークダウ30種平均は1月の取引開始から4日連騰し1月26日に過去最高値更新しました。その後は下落し10月に再び過去最高値を更新しましたが、IT銘柄など一部の値がさ株の上昇がけん引する格好でダウの高値更新が実現しています。10月の過去52週新高値更新銘柄数は1月高値更新時の3分の1程度しかないことから1月の高値の方がニューヨーク株式市場全体に勢いがありました。昨年のニューヨークダウ30種平均の形は実質的には「年始高・年末安」と言っても良いと思います。今年は1月3日のダウが22,686ドルと昨年12月24日の過去52週安値(21,792ドル)に次いで安い水準を付けており、事実上、年始安でスタートしました。「2016年型」シナリオが実現すれば昨年とは逆に「年始安・年末高」もありうるかもしれません。
- しかし、1月はリスク材料が多く、高いハードルを越えなければなりません。最大のリスク材料は14日の週に英国議会で行われる予定のEU離脱法案の採決です。議会を通過する可能性が低いという報道が多く、市場の波乱要因となりかねません。現地の報道によると、3月29日までの離脱期限の延長や、離脱に関する2回目の国民投票、臨時の総選挙などの実施の可能性、などが指摘されています。
- 米国では2018年10-12月期の決算発表が1月中旬から本格化します。先週、米アップルが売上高見通しの下方修正を発表したように、事前に予想を修正する動きが出てくるかが注目されます。ただ、米株式市場では昨年来、先行して株価の大幅下落が進んだため、米企業決算への投資家の期待値は高くないとみられます。
- 今週の東京市場は米金融政策を巡る不透明感が後退したことで日経平均はいったん反発に向かう見通しです。ニューヨーク市場と同様に極端な悲観論の巻き戻しが強まると予想されます。4日の米シカゴ市場の日経平均先物は20,090円まで回復しています。その後は米中協議の行方や景気指標を受けたドル円相場をにらむ展開となり、様子見姿勢が強まりそうです。
- 中間選挙後の米国の新議会ではねじれ状態の中、年をまたいだ政府機関の一部閉鎖の打開が進むかどうかが注目されます。トランプ大統領は、表面上は強硬姿勢を貫いていますが、長期化するようであれば今後の失業保険申請件数など労働市場の統計に悪影響が表れます。意外に重要なイベントが10日の安川電の決算です。中国のスマホ需要の減退や通信機器大手ファーウェイの取引排除の動きがどの程度広がるのかが注目されます。
- 今週、注目されるイベントは以下の通りです。
1月7~11日
7日:米中次官級貿易協議(~8日、中国)
同 :米12月ISM非製造業景況指数(市場予想59、前回60.7)
9日:英議会で欧州連合(EU)離脱案の審議再開
同 :米FOMC議事要旨発表(12月分)
10日:日銀支店長会議で黒田総裁があいさつ
同 :安川電機の3~11月決算(中国向けの需要動向が注目される)
11日:米12月の消費者物価指数(CPIコア市場予想前年同月比+2.2%、前回2.2%)
以上
1月4日(金)
米国金融市場の主な指標
- 米10年国債利回り:2.67%(前日2.55%)
- ニューヨーク市場ドル円相場:1ドル=108.46-108.47円(前日107.69-107.70円)
- ニューヨークダウ30種平均:23,433ドル(前日比+746ドル)
- ナスダック総合株価指数:6,738ポイント(前日比+275ポイント)
- S&P500種株価指数:2,531ポイント(前日比+84ポイント)
- 米フィラデルフィア半導体指数(SOX指数):1,143ポイント(前日1,096ポイント)
- 米VIX指数(恐怖指数):21.38(前日25.45)
- ニューヨークWTI原油先物1バレル=47.96ドル(前日比+0.87ドル)
- ニューヨーク金先物1トロイオンス=1285.8ドル(前日比-9.0ドル)
東京株式市場
- 日経平均株価19,561円: (前日比-452円)
- TOPIX:1,471ポイント(前日比-22ポイント)
データを参照したサイト(ダウ30種銘柄の上昇・下落寄与度はこちら↓)
https://nikkei225jp.com/nasdaq/
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