あけましておめでとうございます。
【中国リスクを強く意識してスタートする東京市場の大発会】
3日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均が急落し、前日比660ドル安の22,686ドルで引けました。米アップルが2日の引け後に中国需要の低迷を理由に売上高の見通しを引き下げ、同社の株価が3日のニューヨーク市場の取引で朝方から急落。一時10%以上下落しました。スマートフォン向け部品を手がける半導体銘柄や、建機など中国関連株にも売りが波及しダウを押し下げています。また12月の米ISM製造業景況指数が前月から5.2ポイント低下の54.1となり米景気減速が意識されました。ナスダック総合は3.0%の下落、代表的な半導体株指数であるSOX指数は5.9%下落しました。ダウ30種平均の下落寄与度はアップルが106ドル、ボーイング87ドル、スリーエム48ドル、ユナイテッドヘルス・グループ45ドル、キャタピラー33ドルなど、中国関連を中心に上位5銘柄で319ドル、ダウ30種平均の下落の48%を占めています。
年明けの外国為替市場で円相場が急騰しています。2日の対ドル相場は一時1ドル=104円台と、約9カ月ぶりの円高水準を付けました。米アップルの業績下方修正をきっかけに、中国経済の減速が強く意識されリスク回避の円買いが膨らみました。それまで1ドル=108円台後半で推移していた円相場は、わずか1分程度の間に約4円(3.9%)も急騰しました。アジア市場では取引参加者が少なく、流動性が極めて低かったところに「人工知能(AI)による円買い」が加わったことが異例の急伸につながったと解説されています。3日のニューヨーク市場のドル円相場は107.7円台で推移しています。
リスクを回避したいマネーは米国債にも向かい、3日の米債券市場で米長期金利は2.55%と2018年1月以来の低い水準に低下しました。日米金利差の縮小が意識され円買いの材料となりました。
12月日銀短観の2018年度の想定為替レートは109.41円。市場で取引される実勢レートが想定為替レートよりも円高で推移すると、投資家は業績の下方修正を意識するので株式売り材料となります。2019年大発会となる4日の東京株式市場は円高・株安の波乱のスタートとなりそうです。
中国経済のリスクが世界経済の減速を加速させるといった議論は2015年後半から2016年2月頃ととてもよく似ています。ここは12月28日のこのコーナーで指摘した通りです。2016年は結果的に米FRBが利上げペースを遅らせる理由の一つになりました。また日本が議長国を務めた2016年5月の主要国首脳会議(サミット、三重県志摩市)では中国発の世界的な景気後退が懸念されたことから、安倍首相が主導する格好で政策総動員の方針が示されました。
当時と同じようなグローバルな経済環境のなかで、2019年は日本が20カ国・地域(G20)会議で議長国を務めます。安倍首相の外交的手腕が問われる局面です。
「中国の景気減速は政策によるもの」
アップルの販売不振の原因となった中国経済に関しては、12月に発表された11月分の中国の経済指標は総じて軟調で中国経済が減速基調であることを確認するものとなりました。特に年末年始に発表された中国の製造業PMIは政府版が49.4と2年5カ月ぶり、民間版は49.7と1年7カ月ぶりに好不況の分岐点である50を割り込んだことが象徴的です。
中国経済減速の背景には「デレバレッジ」の進展による信用収縮があると考えられます。社会融資総量のうち特にシャドウバンキングと絡む信用が制限された結果、地方のインフラ投資を中心に投資が大きく減速しました。同時に米中貿易摩擦による心理的な影響からくる株式市場の低迷も内需減速の一因となっている可能性は否定できません。しかし、それ以上に中国政府が改革を進めるなかで強硬にレバレッジの解消を進めてきたことが景気の減速を生み出したと考えられます。景気減速は政策によるものです。
もっとも秋口からは政策対応も同時に進めています。政府の監督が届きにくいシャドウバンキング関連を規制する一方で、政府の監督下に置きやすい特別債「専項債」という特殊な債券の発行を認めることでインフラ投資の落ち込みにブレーキをかけています。預金準備率引き下げなど金融緩和や、減税など消費をサポートする政策も打ち出しています。改革を進めすぎると副作用が大きくなるため、軌道修正を取り始めたものと思われます。
中国は2020年を達成目標とする「所得倍増計画」を重点課題にしています。2010年からの10年間で所得を倍増させる目標です。2018年の実質GDP成長率が6%台半ばで着地した場合、市場が予想する2019年の+6.2%、20年の+6.0%の成長率では目標達成がかなり難しくなる模様です。従って19年央から後半にかけて政策サポートは加速していく可能性があります。具体的にはインフラ投資サポートのための「専項債」の増額や法人税減税に加え、預金準備率など金利引き下げなどが考えられます。
2019年は日本が20カ国・地域(G20)会議で議長国を務めます。世界経済のリスクが山積するなかで、新興国を含めた世界経済の安定成長に向けて、議長国として議論を集約し、問題意識の共有を深められるかが焦点となります。さっそく1月17-18日にはG20財務相・中銀総裁代理会議が予定されています。そして6月8~9日の財務相・中央銀行総裁会議と、6月28~29日の大阪での首脳会議がヤマ場となります。世界経済が置かれた環境や局面が2016年と良く似ており、トランプ大統領とも親しい安倍首相のリーダーシップが問われる年になりそうです。
1月3日(木)
主なニューヨークの金融市場の指標
米10年国債利回り:2.55%
ニューヨーク市場ドル円相場:1ドル=107.69-107.70円
ニューヨークダウ30種平均:22,686ドル(前日比-660ドル)
ナスダック総合株価指数:6,463ポイント(前日比-202ポイント)
S&P500種株価指数:2,447ポイント(前日比-62ポイント)
米フィラデルフィア半導体指数(SOX指数):1,096ポイント(前日比-69ポイント)
米VIX指数(恐怖指数):25.45
ニューヨークWTI原油先物1バレル=47.09ドル(前日比-0.55ドル)
ニューヨーク金先物1トロイオンス=1294.8ドル(前日比+10.7ドル)
データを参照したサイト(ダウ30種銘柄の上昇・下落寄与度はこちら↓)
https://nikkei225jp.com/nasdaq/
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