マーケット見通とポイント
1月20日、トランプ氏が米国の大統領に就任、「トランプ劇場」の第2部(Season2)が始まった。トランプ氏は就任初日にさまざまな大統領令に署名した。初日に発動された大統領令はバイデン前政権の78の大統領令の撤回やパリ協定からの離脱、WTOからの脱退、グリーン・ニューディール政策の終了とEVの義務化の撤廃、国家エネルギー緊急事態の宣言など46本だったが、最終的には100〜200本になるといわれている。一気阿世で政策が打ち出されているが、具体化がみえていない項目は、減税、エネルギー以外の規制緩和、中国、カナダ、メキシコ以外への関税引き上げ、ウクライナ停戦、政府の効率化、連邦債務上限への対処、ドル政策などが挙げられる。
米経済のファンダメンタルズは良好だ。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(1月17日公表)によると、25年の米国のGDP成長率見通しは昨年10月時点の2.2%から上方修正され、2.7%が見込まれている。労働市場については12月FOMCのSEP(経済・政策金利見通し)によると、25年第4四半期の失業率を4.3%とみているが、24年12月の失業率は4.1%、非農業部門の雇用者数の前月比伸び率は市場予想を大きく上回るプラス25.6万人だった。JOLTS(求人労働移動調査)の求人件数も増加するなど、労働需給の引き締まりも続いている。一方でインフレについては、PCEコアが24年11月まで3カ月連続で前年同月比プラス3.3%であったが、12月は同プラス3.2%に落ち着いた。12月の平均時給の伸び率は同3.9%上昇と市場予想を下回った。当面、米経済の良好さが崩れる心配はほとんどないと考えられる。
トランプ劇場Season2が始まると米経済にどのように影響を与えるか。一般的に、インフレが再燃する、財政収支の悪化の弊害に見舞われる、不法移民送還はサプライショックでスタグフレーション(経済の停滞と高いインフレ率)効果をもたらす、関税賦課は経済活動を委縮させるなど悲観見通しが先行しがちだが、実際は杞憂だろう。減税については、現行の17年のトランプ税制の延長だけであれば、財政悪化のマクロ経済への追加的な賦課にはならない。関税については海外企業が製造拠点を米国内に移すなど米国への直接投資を拡大させる。トランプ氏は関税措置から得られる収入を個人・法人税収入と同じように活用し、低所得者向け減税措置の財源に充てる考えを持ち、実現すれば景気のサポートとなる。輸入物価上昇がインフレを誘発するという懸念も、基調的なインフレ率まで上げるとは言い切れない。トランプ大統領は液化天然ガス(LNG)など化石燃料の大増産でエネルギー価格が低下することでインフレ率の低下と国際情勢の安定化を狙っている。何よりエネルギーの安定供給によってエネルギーのほぼ全量を輸入に依存する日本経済にとっても大きなプラスインパクトになる。
FRBは1月29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置いたが、ウォラーFRB理事が1月16日のテレビのインタビューで物価抑制の進展に自信を示したように、利下げ路線の継続が見込めよう。いずれにしてもトランプ大統領による「親ビジネス」の姿勢は米経営者の心理を明るくさせ、米国の資産市場や経済成長率にとってプラスだろう。もっとも、ディール(交渉)では相手国やマーケットに政権が本気であるとの姿勢を見せつけなければならないため、結果は穏当でもその過程では不透明感が相応に高まることは心に留めておきたい。
日銀の利上げで金融株、さらに半導体や防衛関連株にも注目。
トランプ政権初期のニュースフローは日本株の追い風と考えられる。2月4日(その後、1カ月延期)からカナダ、メキシコへ25%の関税、中国に10%の追加関税を実施すると発表したが、日本への関税は言及されていない。AI分野における新政権の野心的な計画に関する報道も、生成AIに関連する事業を手掛ける日本企業を中心に好材料と捉えられる。実際、年明けの日経平均は、大統領就任日直前の1月17日のザラバに安値3万8055円まで下落したが、その後急回復し、1月23日には一時、4万円台を回復した。投資主体別売買動向をみると、海外投資家は1月に4166億円の買い越し(現物)と3カ月ぶりに買い越しとなっている。年明け以降、海外市場と比べて出遅れが鮮明な日本株式を見直し始めた可能性がある。
トランプ大統領のメキシコ、カナダ、中国への関税実施で、企業は関税コストを引き下げるため、生産拠点を他国へ移すなど供給網を再構築する必要性に迫られる。ここで「漁夫の利」を得る可能性があるのが東南アジアやインド、そして日本だ。アジア経済研究所の試算によると、トランプ氏が当初示唆していたように中国への関税を60%に引き上げ、その他の国に一律10%の関税を課すとの前提を置くと、コストアップや輸出減の影響で米中のGDPにはマイナスに寄与する。一方で、日本のGDPは中国の輸出減を補う輸出増などにより0.02%押し上げられ、東南アジアとインドも0.3%のプラスになる。
1月24日、日銀は金融政策決定会合で政策金利を0.25%から0.50%に引き上げることを決定した。経済・物価はおおむね見通しに沿っており、賃金・物価の好循環が実現する確度は高まってきているとした。見通しが実現していけば引き続き政策金利を引き上げるとした一方、実質金利がいまだマイナスである点に触れ、緩和的な金融環境が当面の経済活動をサポートするとした。公表された展望レポートでは25年度の消費者物価指数(CPI)の見通しが24年10月時点のプラス1.9%から今回は2.4%に引き上げられた。この見通しに沿った動きとなれば、今後の利上げのトーンが高まる可能性もありそうだ。金融株、なかでも三菱UFJFG、三井住友FGやみずほFGのメガバンクのほか、ゆうちょ銀行、三井住友トラストグループなどに妙味があろう。
半導体関連、防衛関連にも注目したい。1月27日、トランプ大統領は半導体、とくに台湾製半導体の関税を強化する方針を表明した。米国内での生産を促す意図がある。世界の半導体の6割が台湾で生産されており、先端品では90%以上が台湾製といわれる。仮に関税が強化されれば、今後台湾メーカーを中心に米国での半導体工場建設が促進される可能性がある。米国での半導体工場建設では米国製半導体製造装置の購入が優先される可能性が高いが、熱処理装置、感光材の塗布と現像を行うコータデベロッパ、洗浄装置、ウエハをカットするダイサ、グラインダなどは日本製装置のシェアが高く、有力な米競合企業がいないため、東京エレク、KOKUSAI ELECTRIC、SCREENHD、ディスコ、東京精密には追い風となる。
トランプ大統領や同政権関係者はたびたび同盟国の防衛予算増額に言及している。国防次官に就任したエルブリッジ・コルビー氏はかねてから中国の軍事的台頭に警鐘を鳴らし、抑止のために米国の資源をアジアへの対応に優先すべきだと訴えてきた。日本が防衛費を国内総生産(GDP)比で3%支払うべきだとも主張している。こうした動きは三菱重工や川重、IHI、NECなどの株価材料になろう。
(2月20日記)