マーケット見通とポイント
10月27日の衆院選で、与党である自民・公明両党は215議席と、定数の過半数233議席を下回った。一方、立憲民主党、国民民主党は議席数を伸ばし、事前の主要メディアの予想にほぼ沿った結果になった。政治資金問題が影響した面もあるが、基本的には実質賃金が上がらず、インフレに苦しむ国民の怒りが、自民・公明の与党への批判を高めたと思われる。
11月1日までに、自民党と公明党はそれぞれ国民民主党と個別に幹事長会談を開き、経済対策や税制改正を巡る政策協議に入ることで合意した。新しい政権は自民党と公明党の連立に国民民主党が部分的に協力するパーシャル連合が最も可能性が高いシナリオだ。焦点となるのは国民民主党が重視する「手取り収入を増やす」政策の実現である。25年度予算案や税制改正を通じて個人消費を喚起する政策であり、景気にも企業業績にもプラスとなる。新政権の政策は海外投資家にも評価されるだろう。10月16日に連合は25年春闘での賃上げ要求方針を24年同様の5%以上(定期昇給分含む)とすると報道された。物価を上回る賃金上昇の期待が今後も持続しよう。新しい政治の体制が固まれば、市場は徐々に政治離れすると考えられるが、新政権の経済政策に対する評価が定まるのには時間がかかりそうだ。
政治体制が固まるまで固有の成長要因や材料をもつ企業に注目。
こうした局面では固有の成長要因や材料性をもつ銘柄に注目したい。採り上げるのは国内首位の靴専門店であるエービーシー・マート、カテーテル治療のリーディングカンパニーであるテルモ、カメラ向けレンズを主力とした総合光学メーカーのタムロン、総合衣料品店をチェーン展開するしまむらである。
■エービーシー・マート(2670・東証プライム)=同社は全国に「ABC‐MART」などをチェーン展開する国内首位の靴専門店。スニーカーなどスポーツシューズが主力だが、ビジネスシューズやレディース向けも扱う。韓国や台湾など海外でも事業を展開。靴の企画・開発も行っており、国内外の委託工場でこれらの商品を生産し、国内市場に供給。店舗の立地はショッピングセンターを中心に商業ビル、ロードサイド、路面店など多岐にわたる。24年8月末現在の国内店舗数は1102店。海外(12月決算)店舗数は24年6月末時点で韓国318店、台湾64店、米国7店、ベトナム5店。今25年2月期上期(24年3~8月)決算は前年同期比11%増収、同16%営業増益となった。上期の好決算を受けて今25年2月期通期予想の売上高を従来の3658億円から今回、3715億円(前期比8%増)、営業利益は587億円から618億円(同11%増)に上方修正した。ただ、日米の金融政策や地政学的リスクなどの先行き不透明感から、営業利益は上期の上振れ分を乗せただけで、下期計画は据え置いており、保守的と考えられる。9月の既存店売上高は前年同月比6.1%増と31カ月連続で前年実績を上回っている。足もとでは高単価のスニーカーやアパレルなどの販売が伸び、客単価が上昇している。下期は大型店を中心に出店を進め、既存店売上高の増加を見込む計画としている。業績のさらなる上方修正も期待できよう。
■テルモ(4543・東証プライム)=同社は、手首から血管内に管を挿入し、心臓や血管などの疾病部を治療するカテーテル治療の普及に貢献し、関連医療器具で高いシェアを確保している。世界的な高齢化による、主力の心臓血管機器の安定的な需要増に加え、同社のカテーテル技術の治療領域を他の分野に広げる新製品を積極的に市場投入するなどして、業績を拡大している。なお、中国での売上比率は全体の9%(24年3月期)と低く、中国の景気からの影響は軽微といえる。主力の心臓血管事業の中期経営計画(22~26年度)では、新製品の発売による800億円の増収(内訳:脳卒中向け300億円、大動脈瘤向け300億円、下肢動脈疾患・がん向けで200億円)、ラジアル手技の普及による650億円の増収目標が定められ、豊富な新製品パイプラインが準備されている。これに世界的な高齢化に伴う需要増も加わり、同社の業績は順調に拡大中であり、前24年3月期の売上収益、当期利益は過去最高となった。今25年3月期も前期比10%増収、同28%営業増益を見込んでいる。世界経済の動向が不透明ななかでは、成長性に加えて、医療機器銘柄の特性の一つである業績の安定性も注目されそうだ。
■タムロン(7740・東証プライム)=同社は研究開発から生産販売まで一貫した事業体制をグローバルに展開する総合光学メーカー。一眼レフやミラーレスカメラ向け交換レンズなど写真関連のほか、監視カメラや車載用、医療用レンズなどの事業も手掛ける。中核事業である写真関連ではOEM(相手先ブランド)や自社ブランドを取り扱い、年間10本程度の新機種投入を目指す。従来ソニーグループなどにミラーレス用交換レンズを展開していたが、今年度よりキヤノン向けにも新規参入し、年末商戦に向け新製品の準備を進めている。デジカメ市場の好調や車載市場の伸長などにより同社は今24年12月期通期の業績について、前期比25%増収、同44%営業増益を計画している。3期連続で全ての利益項目で過去最高を更新し、今期からスタートした26年度までの3カ年中計目標を1年目で達成する見通しとなった。地域別では中国が好調で、20歳代の若者がSNS用に高品質のカメラやレンズを購入する傾向にあるとした。会社側によると、キヤノン向けは、今期はそれほど売上高に貢献しない想定だが、来期以降は発売を加速し、カメラのシェアが高いソニーグループ向けと同等の成長を期待している。
■しまむら(8227・東証プライム)=総合衣料品の「しまむら」、ヤング・カジュアル向け衣料品の「アベイル」、ベビー・子供用品の「バースデイ」など、衣服・服飾雑貨店チェーンをグループ合計で2236店を展開している(24年8月末)。近年、ブランド力を進化させるためサプライヤーとの共同開発ブランドを拡充、SNS活用によるデジタル販売促進などに注力している。22年2月期から前24年2月期は3期連続で過去最高の売上高、営業利益を更新した。長期経営目標として、30年2月期に売上高8000億円以上、営業利益率10%を掲げている。9月に発表した今25年2月期上期の営業利益は前年同期比5%減益の会社計画から一転、同4%増益で着地した。主力のしまむら事業では、高価格帯の自社開発ブランドや、サプライヤーとの共同開発ブランドの拡充が、1点当たりの単価と客単価の引き上げに貢献した。同時に客数も前年同期比で増加に転じた。暖かさや着心地などの機能性の追求が奏功し、節約志向の状況下でも消費者に受容されている。今25年2月期通期の会社計画は前期比4%増収、同2%営業増益が据え置かれた。同社は下期も1点当たりの単価を前年同期比5%程上昇すると見込んでいる。1点単価の上昇が収益性の改善につながるか注目される。
(11月20日記)