マーケット見通とポイント
国際情勢は様々な緊張を抱えているが、2024年の世界経済見通しは明るい。20年のコロナ禍、22年の高インフレと大幅利上げを克服し、ようやく安定した成長軌道に乗れそうだ。国際通貨基金(IMF)が4月に発表した世界経済見通しは24年3.2%、25年も3.2%と3年連続で3%台の成長が見込まれる。けん引役は24年2.7%成長の米国と24年6.8%成長のインドだ。IMFは5月29日、中国の24年の経済成長率見通しを5.0%と、4月時点の見通しから0.4%ポイント上方修正。グローバル経済に影響を受ける米製造業も今後回復が顕著になろう。
米国経済は22年以降の累積5%幅を超す利上げに耐え、何故、拡大できたのか、考えてみたい。最大の要因は資産効果である。資金循環勘定で家計の株式値上がり益を試算すると、2000年以降で累計22兆ドルに及ぶ。名目個人所得が2000年の8兆ドルから23年の23兆ドルまで15兆ドル増えているが、所得の増加分よりも株式の値上がり益のほうが大きかった。GDPの7割を占める個人消費を押し上げた株高の効果は絶大だ。
2つ目は移民の増加である。移民流入は米国の成長率を押し上げ、労働需給ひっ迫の緩和にも貢献している。23年10〜12月期に米労働力人口は移民流入により前年比0.7%も増加。それに生産性上昇率同2.7%を加えると、合計3.4%に達する。23年10〜12月期の米実質GDPは前年比年率+3.2%だったが、労働力と生産性を合わせた数値に近い。カンザスシティ連銀が5月に発表した「移民の増加が過熱した労働市場の冷却に貢献」と題したレポートで、移民が多かった職種が賃金上昇率の鈍化幅が大きいことを指摘した。米議会予算局は26年までコロナ禍前平均を大幅に上回る移民の流入が続くと予想している。実現すれば米国では景気が強くても賃金上昇率及びインフレ率が上昇しにくくなり、米経済が強いパフォーマンスを示す可能性がある。ただし、秋の大統領選でトランプ政権になった場合、再び移民排斥を行うことで移民依存型の米国経済に下振れ圧力がかかるリスクがある。
引き締め効果を削ぐ3つ目の理由は住宅価格である。従来は需要が強いことが住宅価格上昇の主因だった。しかし、コロナ後の初期にゼロ金利で住宅ローンを2.75〜3.0%の固定金利に借り換える動きが進展した。その後の引き締めで住宅ローン金利が上昇したことで、ローンの借り換えになる住み替えが停滞。よって中古住宅の売り物件の減少が住宅価格を高止まりさせる原因になった。むしろ住宅価格上昇による資産効果でシニアの消費が拡大している。マクロ的に貯蓄を取り崩しているように見えても、消費の持続性が期待できることになる。
5月21日、FRBの金融政策決定の要となっているウォラーFRB理事が、物価データの軟化が今後3〜5カ月間続けば、金融当局は年末の利下げ実施も検討できるだろう、と踏み込んだ発言をした。金融市場も年内1回程度と連続利下げ期待はさすがに影を潜めた。しかし、失望するものではない。すでに利下げに踏み切ったスイス、スウェーデンに続き、6月にはカナダと欧州中銀(ECB)がインフレの終息が確認できたとして利下げに踏み切った。米国同様に移民効果で景気が押し上げられるオーストラリアやニュージーランドも11月利下げが濃厚だ。要するに年後半にかけて世界同時利下げとなるわけだ。年初のスタートダッシュのあと、休養した世界の株式市場には再び追い風となる。
現在の米国経済は95〜98年に類似、景気は軟着陸し、株高へ。
ところで、現在の米国経済は、大幅利上げの後に「政策金利を微調整した1995〜98年型」に近い。簡単に振り返ってみよう。1989年5月からの利下げの効果で米国景気は回復に向かい、94年に入ると雇用も増勢に転じたため、FRBは引き締めに転じた(グラフ1)。翌95年2月にかけて1年間に7回、計3%の利上げを実施したため、景気は減速、インフレの伸びも頭打ちとなった。最後の利上げ後、当時のグリーンスパンFRB議長はインフレ圧力沈静の兆候さえあれば緩和の用意があることを明言。同年7月に利下げに踏み切り、翌96年1月までに0.75%の利下げを行った。景気の再加速に伴い株式市場は活況を呈したが、バブルの兆候を察知したグリーンスパン議長は有名な「根拠なき熱狂」という表現で警告を発し(96年12月)、翌97年3月、低インフレ維持のために予防的引き締めに踏み切った。しかし、97年10月アジア通貨危機、98年8月ロシア危機、同年9月にヘッジファンドのLTCMが破綻と立て続けに金融危機が発生。これに対して、FRBは民間金融機関による緊急融資と連続利下げを実施、一連の措置により国際金融市場の混乱は終息に向かった。
利上げ局面での長期金利抑制に成功したことと、当局の機敏な対応で米景気後退を回避したことで、ニューヨーク株式市場は2000年まで上昇基調が続いた(ただし、99年1月以降はITバブルの株高)。利上げ終了(95年2月)から98年12月までの上昇相場で業種別上昇率上位は情報技術、ヘルスケア、金融である。なお、米国株がその後に下落トレンドに転換したのは、「西暦2000年問題」を乗り切ったことから、2000年初より各国中銀が流動性吸収に動き出し、01年からの米景気後退→大幅利下げの局面である。すなわち米利下げ開始と株価の関係は”経済が軟着陸なら株高。景気後退なら株安“である。これを現在の相場に当てはめると、前者になる可能性が高い。
米国経済やFRBの金融政策がある程度見通せる夏場には、多くの日本企業が4〜6月期の業績が会社計画を上回る進捗が確認できるだろう。好業績が期待できる銘柄の押し目を狙う作戦が奏功するとみられる。日本や欧州でブランド力が高いアサヒグループHD(2502)、固定費削減や高付加価値化などの構造改革効果が出てくる花王(4452)、イメージセンサーがけん引するソニーグループ(6758)に注目したい。
(6月20日記)