マーケット見通とポイント
日米株価の格差が広がっている。日経平均は2月の年初来高値から7月末までに10.5%下落したが、米国株は主要3指数が7月に史上最高値を更新、NYダウ30種平均は同期間に10.8%上昇。両指数の格差は21.3ポイントも開いた。
米国ではコロナ感染の再拡大懸念があるものの、ワクチン接種が進み経済活動が正常化しつつあり、消費者心理も上向いている。企業業績も順調で、7月28日時点で4〜6月期の決算発表を終えたS&P500種構成銘柄のうちの195社を集計すると、EPS(1株利益)が市場予想を上回った企業の割合は91%に達する。2021年通期予想のEPSも日を追うごとに上方修正されており、下期の収益も順調な見通しだ。米国株の上昇はファンダメンタルズを反映しているといえる。感染力が強いデルタ株の影響で感染者数は拡大傾向を強めているが、ロックダウンの実施といった経済活動を大幅に制限する措置の再検討はされていない。
逆に、日本では株価見送り材料が山積している。新型コロナ感染では変異種デルタ株の感染再拡大、菅政権の支持率低下による政治リスク、加えて、中国政府によるネット企業や教育、不動産業界への規制強化による中国ビジネスの不透明感などである。世界の時価総額に占める米国市場の比率(7月23日時点)は44%と2004年以来、17年ぶりの高水準となったが、日本は5.9%とアベノミクス相場時の6.5〜8.0%のレンジを下放れた。いくつかの理由が考えられるが、最大の理由はコロナ対策だろう。日本のルールの上ではやむを得ない面はあるが、感染防止対応策として「緊急事態宣言」と「まん延防止」の発動・停止を繰り返し、休業を要請する企業への不十分な補償など、コロナ対策が成功しているとはとてもいえない。五輪開幕前のゴタゴタ劇に呆れて海外投資家が見切り売りを出した可能性もある。逆に見ると日本株がここまで一人負けしたことから、相場はいよいよ「陰の極」にきたと思われる。
「セルインメイ(5月には株を売れ)」の相場格言が示すように、そもそも6〜8月に日本株が調整するのは多くの投資家が指摘するアノマリーである。特に2000年以降の過去5回の五輪開催年の7〜8月相場は共通して株価が軟調になる傾向がある。開催期間中にかけて、売買代金や騰落レシオが低下して、選別物色が強まる傾向が顕著だ。五輪が4〜6月の決算発表期やその後の休暇シーズンと重なる。東証1部市場は海外投資家が売買代金の7割を支配するのでこの影響は避けられない。過去の五輪後の株式市場は秋から翌年にかけての景況感に左右されている。過去5回のうち、2000年(シドニー五輪)はITバブル崩壊、08年(北京五輪)はリーマン・ショックでともに景気・株価は低迷したが、他の3回(04年アテネ、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ)は景況感の底入れとともに株価は回復に向かっている。
株価反転の材料が揃う秋口から日本株は反発へ、夏相場は投資のチャンス。
秋口から年末にかけては日本株の反発が顕著になると考えている。株価反転が期待される第1の要因は日本のワクチン接種率が接種先行国の英米並みに達し(2回接種者は8月で全国民の40%、9月には50%超へ上昇すると予想)、日常を回復できる可能性があるためだ。もっとも感染力の高いデルタ株が日本でも主流となり、感染が収まらないリスクも高い。だが、ワクチン接種により重症化を防げるという治験もあり、警戒しながらも人流を回復できるだろう。
第2に中国リスクは投資家心理を重くさせたが、やや過剰反応だろう。中国当局の一連の規制強化は、第14次5カ年計画に示された政府の総合開発戦略に沿ったもの。中国の教育関連企業の株価は2月から下げ足を速めており、株式市場はこうした規制強化をある程度織り込んできた。しかし、中国政府は経済の腰折れを望んでいるわけではないと思われる。
第3に日本株が日柄調整を経て株価の割高感が薄らいだ。日本企業の業績は着実に回復に向かい、予想株価収益率(PER)は13倍台とアベノミクス相場時の平均を下回った。日経平均は200日移動平均線とのカイ離が一時プラス20%を超えていたが、現状は200日線をやや下回る水準まで縮小している。逆にS&P500種は同カイ離がプラス20%を超え、過熱感がある。ヘッジファンドが年後半から来年にかけて勝負をかけるとしたら、日本株に優位性があると思われる。
日本の政局は不透明材料だがメインシナリオが実現すれば4つ目の株価材料となる。菅政権の支持率は30%台に低迷しているが、自民党への支持率が底堅いため、菅内閣の続投がメインシナリオといえる。ただし、9月17日告示・29日投開票の自民党総裁、11月下旬が確実視される総選挙で自民党が勝利できるかどうかでシナリオが大きく変わる。総選挙を控えてほぼ確実視されるのは、低迷する景気へのカンフル剤として大型の景気対策が打ち出される可能性が高いことだ。菅首相は衆院選に向け国民生活を下支えする30兆円規模の経済対策の取りまとめを自民党に指示する方針と伝えられた(7月29日の時事通信)。景況感はこの夏が最悪で徐々に回復に向かう可能性が高いだろう。
株式相場安定のベースとなる金融環境はどうか。米国では懸念されたインフレ率に落ち着きを示す兆しがでてきた。7月30日に発表された6月の米個人消費支出(PCE)はコア指数で前月比+0.4%と5月(+0.5%)よりも0.1ポイント縮小、市場予想(同+0.6%)も下回った。発表後に米長期金利が低下(債券価格は上昇)したことから、市場はインフレ率の上昇が「一過性」とするFRBの見通しを再確認した可能性がある。また7月29日に発表された4〜6月期の米実質経済成長率は前期比年率6.5%増と1〜3月期(同6.3%増)から改善したが、市場予想(同8.4%増)は下回った。
FRBの出口戦略のスケジュール感は、22年1月から1年かけて資産買入れの縮小(テーパリング)を実施。また、利上げ(1回当たり0.25%ずつ)は23年9月から開始され、順当にいけば年4回、計8回の利上げでFF金利誘導目標は2年かけて2.0%まで引き上げられるシナリオが有力だ。資金余剰の状態が継続し、リスク資産への投資環境は経済成長と超低金利が継続する「ゴルディロックス(適温相場)」がメインシナリオとなる。資金余剰下で運用難にある世界の機関投資家は株式を重要な資産として引き続き注目している。夏相場は日本株には投資チャンスとなりそうだ。
エアコン大手のダイキンは今22年3月期に業務用の回復期待があり、懸念された主要材料の銅市況の一服は株価材料となる。5Gスマホや車載向けのコンデンサ需要増に期待がかかる村田製作所、シリコンウエハと米国の塩ビ子会社の業績が堅調な信越化学、シリコンウエハ搬送装置などの受注残が積み上がっているローツェなどに注目したい。
(8月15日 記)