マーケット見通とポイント
世界経済の回復はワクチン接種や財政刺激などコロナ危機以降の対応力が決め手となり、先進国の中でも先行する米国の回復がグローバル経済に大きな影響を与えそうだ。とくに短期投資の良し悪しは新型ウイルスへの対応や金利、インフレ動向などに左右され、国・地域間の格差が目立ち始めると思われる。
今年3〜4月の世界経済の大きな特長は、米経済指標が予想以上に強かったことである。ワクチン接種が進展する夏場に向け、世界経済をけん引する姿が鮮明になろう。日本経済はワクチン接種が進むまで、米中向け外需の好調が不振の内需を支える構図が続きそうだ。
3月の米国の非農業部門の雇用者数は前月比91.6万人増と急増した。内容をみても、パンデミックを最も受けたレストランやバー、飲食業などのレジャー・ホスピタリティは2月に続き、3月も雇用が28万人増えた。3月は教育・健康、製造業など幅広い業種で雇用の増加がさらに広がり、経済活動の再開が広範囲にわたって始まったことを示唆している。
4月の消費者信頼感指数(コンファレンスボード)は121.7と20年2月以来の高水準で、4月までの2カ月間の改善幅は31.3と1967年の統計開始以来の大きさとなった。これは米国経済が、パウエルFRB議長がいう変曲点を迎え、当初多くのエコノミストが4〜6月期とみていた経済成長の加速が1〜3月期から始まったことを示している。そうしたなか、ひと足先に回復していた米国の製造業の景況感は目を見張る強さを示している。代表的なISM製造業景況感指数は3月に64.7と1983年以来、約37年ぶりの高水準まで回復した。5月3日に発表された4月分こそ長期化するサプライチェーンの目詰まり問題や原材料不足などが影響して60.7と予想外に低下したが、依然として60を超える好況ぶりを示している。
先行きを考えると悩ましい面もある。ISM製造業景況感指数が60を超える局面は1975年以降の46年間で7回あるが、いずれも景況感のピークを示しているからだ。同指数は企業に対して「前月」との比較で景況感を問う指標であるから、数値が高ければ高いほど時間の経過とともに前月比は鈍化していく。つまり、現在の製造業の景況感は歴史的な好況(ピーク圏)にあることを示している。一方、鉱工業生産指数に目を向けると3月はコロナ前の水準を大きく下回り、設備稼働率も3月は74.4%とコロナ前の水準に届いていない。前回ISM製造業指数が60超に達した2018年後半の設備稼働率は77%程度だったので、同じISM製造業指数60超でも設備の稼働状況は大きく異なる。従って景況感がピークを打ったとしても、その余熱(ISM製造業景況感指数の50超)が長く続き、生産活動の活発な状況が続く可能性がある。
悲観報道の割に強い日本株の背景、米景気の恩恵を受ける銘柄に注目。
米国の生産が回復基調を維持すれば、生産能力増強のための設備投資が増加。その結果、日本からの資本財輸出が拡大することが期待される。米製造業は復調著しいとはいえ、まだ設備投資に点火していない。米国の設備投資と日本の輸出の密接な関係から、米経済回復の恩恵は今後明確に表れてこよう。
日本の製造業は海外経済の回復によって、輸出の増加が期待される。米国に加え、コロナショックからいち早く立ち直った中国も回復が持続しよう。欧州については、ワクチン接種で先行するイギリスに追随し、今後、ドイツやフランスも回復力を増してくるだろう。品目別では、世界的に需要が高まっている半導体関連、アメリカと中国で販売が好調な自動車の輸出増加が期待できる。
反面、内需の低迷が日本の経済成長率の足を引っ張りそうだ。東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に3回目となる緊急事態宣言が発令(期間は4月25日〜5月11日)されたことで、経済成長率は1〜3月期がマイナス成長、4〜6月期も低い成長に留まる見通しである。政府は5月7日に緊急事態宣言の対象地域を愛知、福岡を加えて6都府県にし、期間も5月31日まで延長したが、4〜6月期の個人消費は昨年同期(前期比年率▲8.4%)のような落ち込みには至らないだろう。しかし、コロナでダメージを受ける産業には労働者に対する生活支援や企業への資金繰り・資本増強支援策などが最優先の政策課題となる。ちなみに、総務省の統計では対面サービス業(医療・福祉、小売、運輸業、宿泊業・飲酒サービス業、生活関連サービス業、娯楽業の6業種)が雇用全体に占めるシェアは約4割と高く、影響は深刻だ。
一方、株式市場へのダメージは限られる。東証1部の時価総額(3月末723兆円)のうち製造業のウエイトは54%、非製造業は46%と製造業が過半を占める。非製造業のうち、コロナでダメージを受けそうな対面サービス業(サービス、小売、卸売、陸運、空運、倉庫運輸の6業種)の時価総額は147兆円と全体の20.4%と意外に小さい。製造業のうち、業績が好調な自動車関連、ハイテク関連など7業種(電機、輸送機器、化学、非鉄・金属、ゴム、機械、精密)の時価総額は372兆円、時価総額全体の51.5%も占める。これは非製造業全体より大きい。ちなみに、日経平均225銘柄のうち製造業は6割超を占めるが、4割弱の非製造業のうち小売は7社、鉄道が8社、陸運は1社、飲食・宿泊はゼロである。悲観的な報道が多い割に、株式市場がほとんど影響を受けない理由がここにある。
米国でビジネスを展開し、業績拡大が期待できる銘柄に注目したい。信越化学は塩ビ樹脂の米子会社が住宅向けに好調。ヤマハ発動機は収益柱のマリン事業の重要市場が北米で、3密回避レジャーの人気化が追い風。TOYO TIREは北米のライトトラック向けタイヤで高いブランド力を持つ。木造住宅大手の住友林業は経常利益の多くを米国で稼ぐ。クボタはトラクタ、小型建機を中心に北米向けの売上げ比率は約3割を占める。電動工具のマキタは北米向けが15%程度で、好調な住宅市場向けが業績の追い風となる。