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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2021年1月4日
20年の株価大変動を冷静に判断、いくつかの株価尺度で点検するも割高観はない

「ニューヨークダウ平均が史上初の3万ドルを突破」「日経平均は29年半ぶりの高値更新」。パンデミックでメディアが「世界大恐慌以来の大不況が来た」と報じ、株式市場が一時パニックに陥った2020年3月時点では、誰もが予想もできなかったことが20年12月の株式市場で起きている。

日本株でいえば、米大統領選直前の10月30日の2万3,000円割れ(終値2万2,977円)が起点となり、11月のザラ場高値(25日、2万6,706円)まで、1ヵ月足らずで3,729円(16.2%)も上昇した。3月に付けた終値ベースの安値(1万6,552円)から1万154円の上昇、つまり年間の安値と高値(11月25日を高値と仮定)でこれほど値幅が拡大したのは、1990年の大暴落時の値幅(1万8,491円)を除くと、1992年の9,491円を上回り、1976年以降の過去44年間で最大である。なお、この期間で安値〜高値の平均値幅は4,569円であり、いかに今年の値幅が大きかったかがわかる。
米国を中心に、大規模かつスピーディな財政出動と大胆な金融緩和が奏功。企業収益は製造業を中心に回復に向かい、投資家心理も大きく改善した。ただし、11月に入り、欧州では新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、7〜9月期に急回復したユーロ圏の経済成長率は10〜12月期には2番底となることがほぼ確実視される。ワクチンが21年前半にも普及する見通しが強まり、株価はコロナ後を見据えて上昇してきた。しかし、経済のファンダメンタルズは、史上初でも29年ぶりの出来事でもない脆弱な状態を抜け出せていない点には注意が必要だ。過度な楽観も悲観も排除し、冷静に企業業績の回復を見極めたい。

日経平均2万6,000円台という水準は割高ではないかという指摘が出てきた。いくつかの投資尺度で点検してみよう。リスク資産である株式と安全資産である国債との相対的な割安・割高を測るイールドスプレッド(10年国債利回り−株式益回り)は株式が依然として割安であることを示唆している。現在の10年国債利回りはゼロ%、企業の利益を利回りベースで見た益回り(PERの逆数を用いる)は5.8%(11月末)。この差はマイナス5.8%と国債が割高で株式が割安だ。1990年頃のイールドスプレッドはプラス4〜5%で債券が割安で株式が割高だった。今回の株高のエンジンが各国中銀の超緩和政策にあることは承知の事実であり、これが投資家心理を支えている。とすると、今後長期金利が上昇するシナリオには注意が必要だが、当面このリスクは小さい。たとえば、米国では雇用が回復するまで長期金利上昇を抑え込むことが至上命題となるが、次期バイデン政権の財務長官にイエレン前FRB議長が指名されたことで、財務省とFRBの協調関係は一段と揺るぎないものになろう。

株式が割高かどうかを測るために、企業の利益との関係はどうであろうか。今21年3月期の予想ベースで日経平均(12月11日、2万6,652円)の予想PERは25倍、TOPIXベースでも27倍で、アベノミクス相場の平均14〜15倍から見れば、さすがに割高感は否定できない。仮に、予想1株当たり利益(EPS)でPER15倍が正当化されるためには、来期の業績で当期純利益が60%以上の増益が実現することが必要だ。果たして、実現可能だろうか。9月中間決算の発表が一巡した段階で、アナリストは今期と来期の業績予想作業を概ね終了した。来22年3月期の市場予想(アナリストコンセンサス、TOPIX500ベース)は当期純利益ベースで前期比51・4%増(11月末時点)の見通しだ。これを日経平均に当てはめれば予想PERは16.3倍まで低下することになり、割高感はかなり解消する。

解散価値の1株純資産(BPS)を尺度とする株価純資産倍率(PBR)はどうであろうか。現在の日経平均のPBRは1.17倍程度だ。日経平均が史上最高値を更新した1989年12月の実績PBRは5倍台で、長期的に見れば現在はかなり割安に見える。

PBRを見る場合、企業の資本効率を測る指標の株主資本利益率(ROE)との関連でも注目したい。アベノミクス相場の期間中、TOPIX500ベースのROEは平均して8%程度まで回復していたが、業績が悪化した20年は6%程度まで低下する。過去の経済ショック時を振り返ると、ITバブル崩壊後の2002年は0%、世界金融危機後の2009年は一時的にROEがマイナス圏にまで落ち込んだことから見ると、今回の悪化は限定的だ。

企業が経営指標としてROEを重視するようになったのは2015年3月のコーポレートガバナンス・コードが金融庁と東証で公表されたことがきっかけだった。コーポレートガバナンス・コードは企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的に捉え、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みのことを指す。安倍政権もアベミクスの株高政策のひとつとしてこれを支持。上場企業では不採算部門の削減、親子上場や株式の政策保有の廃止・縮減などに取り組む企業が増加した。
象徴的なのは日立だ。かつて様々な事業分野を持ち、「日本経済の縮図」といわれた日立は2009年に上場子会社は22社もあったが、20年10月時点で日立建機と日立金属の2社を残すのみである。現在はさらに2社の株式売却を進めており、同社の上場子会社の再編は9合目に入った。

さらに、潤沢なキャッシュをベースに自社株買いが再び増加する兆しがある。菅政権が推進するデジタル化や規制改革の進展からROEが上昇する企業が増えるだろう。TOPIX500の平均的なROEとPBRの関係を見ると、ROEが一定の水準(8%)を越えた辺りからPBRが切り上がる傾向がある。先行き12カ月の予想ROEが10%程度に高まると、PBRは2倍前後に評価されている。資本効率の改善効果でROEの水準が一段と高まれば、高い技術力や競争力を有する企業を中心に日本株が再評価されると期待される。

個別で注目できる銘柄をピックアップした。好調な半導体生産を背景にシリコンウエハが好調で米住宅市場の活況が塩ビ事業の追い風となる信越化学、主力事業先である自動車業界の回復期待と殺菌用紫外線LEDが注目されるスタンレー電気、ネット通販の普及で物流施設向け機器が国内外で拡大しているダイフク、自治体向けDXやGIGAスクール構想など中期の期待材料が豊富なネットワンシステムズ、空港検閲所における新型コロナウイルス検査の拡大が今後の業績に寄与する可能性があるH.U.グループHD(旧みらかHD)などに注目したい。
(12月20日記)

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