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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2025年12月30日
AIなど巨大市場の出現とインフレ転換で設備投資が動き出す。

世界半導体市場統計(WSTS)によると、世界の半導体の市場規模は25年に前年比11.2%増加し、7009億ドル(約108兆円)に達する見通しだ。生成AIの普及によるクラウド需要の爆発的拡大、電動車(EV)や自動運転の普及、防衛関連市場の拡大などを背景に、業界では30年に1兆ドル(約155兆円)に達するとの見方が強い。半導体はすそ野が広く関連企業は大きなチャンスを迎えている。
リーマン・ショックやコロナ禍による落ち込みを経て、日本の企業は再び投資を増やし始めている。法人企業統計によると24年度の設備投資(ソフトウエアを除く)は54.4兆円で、30年前(94年度)に比べて28%増えた。半導体のように成長が見込める分野を中心に伸びている。内閣府によると、企業が支払った賃金総額を示す名目雇用者報酬は316兆円と同20%増、個人消費は332兆円、同23%増である。設備投資が増えて、賃金が増え、消費が活性化するなど好循環が生まれているように見える。しかし、実はここ30年間で企業の利益はもっと早いスピードで増えている。法人企業統計によると、24年度の経常利益は114.7兆円と30年前の5.2倍になった(グラフ参照)。内部留保は同637兆円で4.6倍、現預金は同301兆円(うち東証プライム企業に限ると115兆円)と30年前の2倍に膨らんだ。つい最近までデフレの時代が長く続いたため、個人消費が低迷し、企業は設備投資に極めて慎重だった。大手証券や大手金融機関の経営破綻など90年代後半から2000年代前半まで続いた金融危機は企業が現預金を積み上げる強い誘因になった。ヒトへの投資も足りない。物価変動の影響を除いた実質賃金は30年以上にわたってマイナス基調となっており、24年度も前年度比0.5%減に沈んだ。
しかし、インフレに転換したことで企業行動や消費の環境も大きく変貌しそうだ。長期に低迷していた企業の設備投資は加速しそうだ。デフレ経済下ではしばしば値下げを競う「我慢比べ」や「消耗戦」になりがちだが、時間とともに価格が上昇するインフレ経済は「早いもの勝ち」の側面が強い。インフレであらゆる名目資産の価格が上昇する局面では、自社製品(から生産される財)の期待キャッシュフローが高まりやすい。また設備投資費用は値上がりが予想されるため、設備投資の意思決定が迅速化される可能性がある。家計と同様に企業が保有する巨額の現預金はインフレにより目減りする事態に直面する。
個人消費を取り巻く環境も変わりそうだ。優秀な人材を獲得するため多くの企業は初任給を引き上げ、ベースアップも積極化しはじめた。人手不足も加わり、最低賃金も上昇している。新NISAの導入や株高が続いたことで、2200兆円もの膨大な個人金融資産が動き出している。
高市首相はかつて自身の著書で企業がため込む現預金への課税を主張、24年の自民党総裁選では膨大な内部留保の活用を促す企業統治(コーポレートガバナンスコード)の改定を主張した。これが影響したのかは不明だが、金融庁は25年10月、企業統治指針の5年ぶりの改訂に向け、議論を始めた。企業が手元の現預金を有効に活用できているか、説明責任を求める方向だ。人工知能(AI)という巨大市場の出現もあり、企業は設備投資、研究開発費、人材投資など前向きな使途に経営資源を振り向けるだろう。企業がため込んだ巨額の資金を積極活用することで、本当の経済の好循環が始まるとみられる。

成長投資など高市政策も後押し、ダイキン、安川電機などに注目。
環境の変化を受けて、高市政権も政策面で強力に後押しする。高市首相は25年10月の所信表明演説で、「日本列島を強く豊かにする」と経済の再興と安全保障の強化に取り組むと表明した。「日本成長戦略会議」を立ち上げ、経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、健康医療安全保障、国土強靭化対策など、様々なリスクや社会課題を解決する危機管理投資を戦略的に実施すると宣言した。11月21日に政府が閣議決定した総合経済対策では、一般会計からの支出は17.7兆円とし、積極財政により景気を下支えする。一般歳出額の内訳では、生活の安全保障・物価高への対応として最大の8.9兆円を投じるが、危機管理投資・成長投資による強い経済の実現に6.4兆円、防衛力と外交力の強化に1.7兆円を投じる。造船業の再生にむけた基金に1200億円を計上したほか、AIや量子コンピュータ、宇宙分野などでサプライチェーン(供給網)の強化を図る。
これとは別に26年から日米関税交渉で約束した「総額約5500億ドル(約80兆円)規模」の対米投資も動き出す。主に半導体、造船、エネルギー、重要鉱物など経済安全保障上の分野に集中しており、高市政権の26年度予算案には重要な経済政策支援として織り込まれよう。
企業の国内投資を後押しするため、政府は26年度の税制改正で「設備投資促進税制」(5年間の時限措置)を検討している。投資の規模や収益性に応じて投資額の8%を法人税から差し引く税額控除を設けるほか、米国の関税措置の影響で対米輸出が減少する場合は税優遇を15%に広げる案が有力だ。さらに研究開発税制も拡充する方針。経済安全保障や産業振興で重要な領域として、政府が「国家戦略技術」として指定する「AI・先端ロボット」「半導体・通信」「宇宙」「量子」「核融合」「バイオ・ヘルスケア」など6分野への研究開発投資について、投資額の最大40%を法人税額から控除することなどが柱だ。
政府主導の企業統治改革第1段階では、企業は事業の選択と集中、自社株買いや増配など株主還元、持ち合い株式の圧縮に取り組んできた。円安の効果などもあり、日本企業の業績は大きく改善し、1株当たり利益(EPS)だけでなく、株価純資産倍率(PBR)の上昇を通じて株価上昇につながった。企業統治改革第2段階ではインフレへの環境変化と強い経済実現への政策を追い風に、いよいよ設備投資主導の景気拡大が株高のエンジンになるだろう
参考銘柄としては、11月27日に北米のデータセンター向け冷却事業の売上高を30年度に足もとの約3倍となる3000億円以上にする方針を発表した空調大手のダイキン工業、25年10月にエヌビディア、富士通と提携し、AIロボットの開発を進める安川電機、日米で計測機器、米国では医用機器などが好調で今26年3月期業績の増額修正が期待される島津製作所、船舶用塗料の世界的メーカーで経済安全保障(造船)に絡む中国塗料などに注目したい。

(12月20日記)

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