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マーケット見通とポイント

2025年11月25日
AIの利活用が進めば日本に100兆円超の経済価値を生み出す公算。

日本は少子高齢化により労働人口が減少しており、成長力を高めるためには労働生産性の向上が不可欠といわれる。労働生産性とは労働者1人当たりが生み出す成果を指す。計算式は分子にアウトプット(成果)としての付加価値または生産量、分母にインプットとしての労働投入量(労働者数または労働者数×労働時間)を置く。公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」によると、23年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は56.8ドル(5379円)でOECD加盟38カ国中29位。8位の米国(97.7ドル)、10位のドイツ(96.5ドル)に大きく劣後しており、28位のポーランド(57.5ドル)とほぼ同水準である。日本の労働生産性が低い理由は主に長時間労働、業務の属人化、デジタル化の遅れ、中小企業の投資不足などにあるといわれる。労働者の努力不足ではなく、制度と組織設計の問題が本質といえる。もっとも日本の順位は18年の21位から22年に31位まで落ち込んだが、順位の低下に歯止めがかかっている。経済成長率が上向いたこと、物価上昇が名目値を押し上げたことが大きい。先ほどの計算式でいう分子が大きくなったのである。

世界的にみて日本の労働生産性が低いということは、今後の技術革新への取り組みや高市政権の経済政策が機能すれば、飛躍的に改善する余地が大きいといえる。技術革新では言うまでもなくAIの利活用である。22年11月にChatGPTを公開した、生成AIの先駆者である米OpenAIは10月22日、日本がAIの経済的・社会的潜在力を最大限に生かすための政策フレームワーク「日本のAI:OpenAIの経済ブループリント(青写真)」を発表した。「AIは日本のGDPを最大16%押し上げ、100兆円を超える経済価値を生み出す可能性がある」として、戦略的なAIインフラ投資や、包摂的な社会基盤の構築などに取り組むよう提言している。同社のサム・アルトマンCEOは、ChatGPT公開後間もない23年4月に来日し、岸田元首相と面談、24年4月には、英ロンドン、アイルランドに次ぎ、アジア初の拠点として東京に日本法人を設立した。同社によると、25年10月時点のChatGPT利用者は全世界で8億人を超えた。日本のアクティブユーザー数は前年から4倍の伸びを見せており、ビジネスユーザーの数は米国に次ぎ2番手、有料会員数は世界4位、開発者市場は世界5位とOpenAIのなかでも大きな位置を占めている。

OpenAIの提言は「3本の柱」で構成される。第1は包摂的な社会基盤の構築。中小企業、行政、教育機関など誰でもAIを活用できる環境整備を急ぐべきだとしている。例えば製造業では、AIが検査や需要予測の精度を高め、中小企業の生産性を押し上げるなどの効果が見込めると指摘。行政コストの削減などで社会的コストを数兆円単位で削減する可能性があると分析した。第2は戦略的インフラ投資。半導体やデータセンター(DC)、脱炭素への投資を求めており、28年の日本のDC市場は5兆円を超えると試算した。AI処理能力の向上、安定的なAI基盤の確保、GXとの連携などが期待される。第3は教育と生涯学習の強化。AI人材の育成とリスキリング支援をサポートし、AI時代における経済成長を支える人材を育成する方針を示した。日本人はアニメを通じて「ドラえもん」や「鉄腕アトム」などのいわばAIロボットとヒトとの関わりが浸透している。AIやロボットと共存した世界はどういうものか、何ができて楽しいか、何が良くないか。「AIが人間を超える」のではなく、「人間とAIが共に価値を創出する」といったロールモデルが日本人には浸透しているように思われる。

AI活用による経済効果について、みずほリサーチ&テクノロジーズは25年1月のレポートで「AI利活用シナリオが実現した場合、経済インパクトは35年までの累積で約140兆円」と試算した。提言が着実に実行されれば、OpenAIの予測は夢物語とはいえないだろう。

 

積極財政政策のサナエノミクス相場では大成建設、三菱電機などに注目。

 

日本企業が本気で生産性改善に取り組み始めた兆候が10月1日に発表された日銀短観に表れている。25年度の設備投資計画におけるソフトウエア投資は、大企業全産業が前年度比10.7%増となったが、中堅企業は同14.6%増、中小企業は同28.1%増と急増している。24年度の中堅企業は同4.8%減、中小企業は同6.4%減なので、中堅・中小企業が大幅投資増に向けてギアチェンジした格好だ。人手不足に対応したソフトウエアへの投資と考えられる。中小企業の非製造業では卸・小売りのソフトウエア投資が24年度の前年度比23.9%減から25年度計画は同39.5%増、飲食・宿泊は24年度の同0.3%減が25年度計画は同39.5%増と急増している。実際、近くの定食屋に行けばオーダーから決済まで端末経由で自動化され、外食産業では配膳ロボットが活躍している。これらを裏付けるように、日銀が9月に発表したレビューでは、「これまで人件費が比較的安価であったために省力化・自動化投資が見送られてきた業種においても、今後、人件費の上昇や人手不足の深刻化が一層進めば、そうした分野でAIやロボットの導入が一気に進む可能性がある」と指摘をしている。日銀は「卸売り・小売り・宿泊・飲食サービスなどIT利用部門において、人手不足を背景にソフトウエア投資は増加しており、TFP(全要素生産性)成長率が大きく伸びている。こうした動きが喫緊の人手不足を補うための代替投資にとどまらず、限界生産性の向上につながることが重要だ」と指摘、AIが企業の経営戦略に大きな影響を与え始めたといえる。

高市新政権の経済政策は、緩和的な金融環境を維持しながら、積極財政によって日本経済を「高圧経済」へと導き、投資・産業政策により高い成長を促すことが特長だ。とりわけ安全保障や先端技術といった戦略分野への支出拡大で、国主導の需要を創出し、民間の創意や投資意欲を引き出すことが大きな狙いだろう。アベノミクスとの大きな環境変化はインフレに転換した点である。22年以降の消費者物価指数の累積上昇率は12%弱に達している。高市首相が重視する財政健全化指標である「政府純債務残高/GDP比」は、インフレに伴う税収増加や名目GDPの拡大を背景に低下傾向を示している。財政運営上一定の余裕が生まれているわけだ。日本が高圧経済に耐え得る基盤を整えつつある中、サナエノミクスはより積極的な財政政策を採る可能性は高いと考えられる。

現在の株高の根底には日本経済がAIの技術革新とサナエノミクスの実現でこれまでの経済が大転換する可能性を織り込み始めた可能性がある。参考銘柄は受注好調なゼネコンから大成建設、マテハンシステムのダイフク、データセンターと防衛関連に関連する三菱電機、大阪IR構想に関連するオリックスなどに注目している。

(11月20日記)

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