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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2025年6月1日
米国の製造業と雇用を支える最大の投資国は日本、米製造業復活に重要な役割を果たす日本企業に注目

今年1月にスタートした“トランプ2.0”は、第1次トランプ政権で追及してきた「米国第1主義」を加速させる4年間となる。政策の主軸となる保護貿易化を通じた米国国内への生産回帰を促す動きは、日本企業にとってリスクだけでなく、事業機会をもたらす可能性がある。すでに現地生産化で先行する自動車関連だけでなく、中長期的に半導体、化学、造船、ロボットなど幅広い分野に影響が及びそうだ。

米国への製造業回帰の流れは、第1次オバマ民主党政権から始まっている。同政権はリーマン・ショック直後の2010年に「米国を新規雇用と製造業を引き付ける磁石にする」方針を打ち出した。当初、効果は限定的だったが、グラフ1のようにここ数年の米国の製造業建設投資支出は急増している。第1次オバマ政権の政策を受け、14〜15年にかけて一旦回復し、第1次トランプ政権下で19年に再び動意付き、バイデン前政権下で21年以降、右肩上がりに急増している。第1次トランプ政権時の米中貿易戦争やコロナ禍で世界的なサプライチェーンの見直しが加速したことが背景とみられる。ところが雇用の面では伸び悩んでいる。12年9月に米ボストンコンサルティングが、「20年までに500万人分の製造業雇用が米国へ回帰する」との予測を出した。しかし、実際に79年6月に1955万人だった製造業雇用者の減少傾向は止まらず、19年6月に1279万人まで40年で676万人も減少した。バイデン前政権が半導体やEV、太陽光パネルなどに巨額の補助金を拠出するなど製造業回帰を支援したが、25年1月時点でも推定1276万人とほぼ横ばいに留まっている。企業の利益と効率性の追求により自動化やAIの利用化が進み、必ずしも雇用の顕著な増加につながらない可能性が示唆される。

ピーターソン国際経済研究所の試算によると、米国の総雇用者数に占める製造業の割合は1970年代の30%から23年6月には8%まで低下している。これは自動化、生産性の向上、国内需要のモノからサービスへの移転という構造的な変化を示唆している。トランプ政権の製造業重視の政策を受け、米国の製造業回帰は進むとみられるが、雇用が増大するかは見通しづらい。

米国の製造業はコンピュータや半導体、医療機器などを中心に他国への依存度が高い。トランプ政権が米国内への生産回帰を推進する過程では、インフラ整備や関連部材の需要拡大が見込まれる。こうしたなかで米国の製造業復活に重要な役割を果たすとみられるのが日本企業だ。1年前の24年3月に発表されたJETRO(日本貿易振興機構)の「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2023年度版)よれば、米国内生産回帰に伴うインフレ整備や、中国企業からの調達切り替えを背景に、化学、医薬、自動車部品などで需要が増加するとの見方が示されている。トランプ2.0がスタートしたことで、米国内で生産する動きはさらに加速するとみられる。

また、内閣府の資料によると、わが国にとって米国はすでに最大の投資相手国である。23年の対外直接投資残高は全産業ベースで289兆円あり、うち米国向けは101兆円(34.9%)を占める。製造業の対外直接投資残高は108兆円で、うち米国向けは約31兆円と28%を占めている。一方、米商務省によると、23年の米国の対内直接投資残高5兆3941億ドルのうち日本は7833億ドル(1ドル=145円換算で114兆円)と最大であり、19年以降5年連続で首位となっている。日本企業による米国現地での雇用者数は全産業で97万人(22年)と英国に次いで2番目、製造業に限ると約53万人と英国、カナダを大きく上回っている。石破首相は2月にトランプ大統領と初めて会談した際、同残高を1兆ドルに引き上げることを表明した。日本は米国の製造業復活を支える先頭を走っている。早くから米国に進出し、成功を遂げている自動車メーカーのノウハウを参考に、日本は製造業、非製造業を問わず米国でビジネスを拡大する可能性があるといえよう。

 

米国の個人消費市場は巨額、自動車のほか、造船、FA関連などにも商機

 

米国は、先進国では人口が増え続けている数少ない国である。23年の米国の個人消費は18.8兆ドルと名目GDPの約7割を占め、世界第2位の中国のGDP(18.3兆ドル)と並ぶ巨大な市場を持つ。1人当たり名目GDPは8万2253ドルと日本の2.4倍もあり、質・量とも魅力的な市場だ。トランプ政権の関税政策を受けて、海外から米国に生産拠点を移す動きが加速している。例えば、米アップルは2月、今後4年間に米国内で総額5000億ドル(約73兆円)以上を投資すると発表。テキサス州に新工場を建設し、人工知能(AI)サーバーを生産する。米エヌビディアは4月、最新のAI半導体「ブラックウェル」とAIサーバーをこれまでの台湾から、米国で生産すると発表した。生産委託先と協力し、今後4年間で最大5000億ドル(約72兆円)分を国内でまかなう計画だ。韓国の現代自動車グループは米国で今後4年間に210億ドル(約3兆円)を投資。米国での自動車生産能力を7割増の年間120万台に増やす計画だ。

トヨタは19年、トランプ大統領が自動車の輸入が米国の安全保障を脅かしていると主張したことに対して、「われわれは10カ所の工場を含め、米国での事業構築に600億ドル(当時の為替レートで約8.7兆円)余りを投じてきた」と実績を訴えた。トヨタはその後、21年にはノースカロライナ州に140億ドルを投資した電気自動車(EV)用バッテリー工場の新設を発表、今年4月から稼働した。また24年12月には、米ケンタッキー工場の塗装施設建設に9.2億ドルを投資すると発表した。

一方、ホンダはすでに米国で12の工場を持ち、2万3000人以上の従業員を擁しているとみられるが、トランプ大統領が相互関税の導入を発表した今年4月、主力車種の生産をカナダとメキシコから米国に移管する検討に入ったと報じられた。いすゞ自動車も約3億ドルを投じ、米国にEV用トラックのエンジンを製造(生産能力は年間5万台)する工場を27年にも新設する計画が明らかになっている。富士フイルムHDは4月12日、バイオ医薬品の開発・製造受託事業の成長を一段と加速させるため、北米拠点に約1800億円の大規模投資を決定したと発表した。現在建設中のノースカロライナ新拠点へ投資し、抗体医薬品の原薬製造設備を大幅に増強する計画だ。トランプ政権は関税を引き上げる一方、米国でモノづくりをする企業に対して減税を実施すれば、米国内で製造する方が有利なケースも出てこよう。実際、JETROが聞き取り調査した自動車産業のある在米日本企業は「米国生産はボリュームがあるので、関税をかける一方で現地生産に対して減税をしてくれれば収益は改善できるかもしれない」と回答している。

今年の春先、米国では「シップス・アフター・チップス」というワードが注目された。まずチップ(半導体)、次にシップ(船)を米国に戻すという意味だ。世界の造船能力の5割は中国が占め、商業船舶の20%程度は中国が所有しているとされる。北京が中国籍の船を止めれば、米国は海上輸送ができなくなるなど、安全保障にかかわる問題となる。ジョン・フェラン米海軍長官は4月28日、防衛省で中谷元防衛相と会談し、米国の造船業への協力を求めた。報道によると、フェラン氏は同盟国である世界造船2位の韓国、3位の日本と一体で米国の造船業復活を目指し、商業船舶を軍事転用可能な仕様で建造するほか、日本企業に米西海岸の造船業への投資を要請したもよう。造船分野では日米韓の協調体制が進みそうだ。日本の艦艇メーカーは三菱重工、ジャパンマリンユナイテッド(JMU、未上場)、川崎重工の3社がある。

米国の製造業は先進国でも人件費が高く、新興国市場以上に自動化機器の導入が不可欠だ。国際ロボット連盟などの需要動向を見ても、産業用ロボットの従来の主要ユーザーであった自動車業界だけでなく、ロボット導入は幅広い産業で加速している。自動化のニーズは特定業種のみにけん引されるわけでなく、製造業全体のトレンドだと考えられる。「FA御三家」とされるキーエンス、ファナック、SMCなどにはビジネスチャンスとなろう。

今年3月、日本経済新聞は、ソフトバンクグループ(SBG)が全米で1兆ドル(約150兆円)を投資、AIを備えた工場を集積した産業団地を造る検討に入ったと報じた。AIが需要に応じて生産ラインを設計する無人工場などが候補になるという。孫正義会長兼社長らしい壮大な構想だが、同氏はすでに今年1月、大統領就任式翌日のトランプ氏と会見、投資額をそれまでの1000億ドルから5000億ドルに拡大すると発表している。SBGの計画は製造業を強化するトランプ氏の政策の方向性に合致している。日立製作所の東原敏昭会長は1月の日経新聞のインタビューで「ドメインナレッジ(モノづくりの現場で蓄積されたノウハウやデータの意味)はGAFAMにはない知的財産だ。ここにAIを活用しビジネスに結び付けることが日本のチャンスになる」と製造分野のAI活用に自信を見せている。まさに日本企業には米国と連携し、活躍のチャンスがあるといえよう。

(5月20日記)

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