マーケット見通とポイント
3月末までの日本の株式市場はトランプ米大統領の関税政策の不透明感で日経平均が軟調な推移となる一方、東証株価指数(TOPIX)は底堅い動きをするなど明暗が分かれている。TOPIXは3月期の配当取りの動きもあって3月19日に年初来高値を更新、26日には昨年7月23日以来の高値を付けた。昨年8月の暴落時に付けた安値以降の日足チャートを見れば、右肩上がりのトレンドを維持している。
一方、日経平均が弱い理由は海外投資家、とくにヘッジファンドが株式と為替相場をリンクさせたポジションで投機的な売買をしている影響が大きいとみられる。年初来、「円買い・日本株売り」ポジションが大きく積み上がっている可能性がある。CFTC(米先物取引委員会)によると、投機筋の円の買い越しポジションは3月11日に13.4万枚と過去最高に積み上がっている。ちなみに1月7日時点では2万枚の売り越しだった。ドル・円相場をみると1月8日の1ドル=158円から3月10日には147円と2カ月ほどで10円以上の円高・ドル安となっている。一方、東証の投資主体別売買動向をみると、海外投資家は1〜3月(第3週まで)に現物売買で約1.2兆円の売り越しとなったが、日経平均を中心に株価指数先物では約2.3兆円の売り越しとなった。投機筋は円の買い越しポジションを積み上げながら株価指数先物を売る裁定取引を仕掛けた可能性が濃厚だ。日経平均が安値を付ける局面では、ファーストリテイリング、アドバンテスト、東京エレクトロンといった指数への寄与度が大きい値がさ株のマイナス寄与が高くなっている。今後、トランプ政権の政策次第で円高進行への限界が見えると、投機筋の円の買い越しポジションが一気に巻き戻される可能性があり、その際は、円安・日本株高への圧力となる。
グラフは海外投資家(現物)と事業法人(その他法人も含む)の売買動向、そして日経平均の月次騰落率(折れ線)を示している。売買動向(棒グラフ)は13〜24年の平均値で、25年は1月と2月、3月は第3週まで集計している。もともと海外投資家は年初に売り越す傾向があり、今年も例年どおりだ。一方、4、5月は買い越す傾向があり、年間を通じて海外投資家が買い越す局面(4、5月と10〜12月)は日経平均が上昇しやすいことが見て取れる。
TOPIXが強い理由は、円高の影響を相対的に受けにくい内需関連が多いこと、好配当銘柄などバリュー株が多いことに加えて、企業の自社株買いが影響していると思われる。グラフをみると、事業法人の売買は1年を通じて一貫して買い越しが続いている。上場企業の自社株買いの効果が大きいとみられる。14年に資本効率性の観点から資本コストを上回るROEの達成が重要だとする、いわゆる「伊藤レポート」が発表され、その後、企業の意識が徐々に変化してきた。注目されるのは今年1〜3月の買い越しのスケールである。1月の買い越しは9736億円、2月も9116億円と13〜24年平均のそれぞれ5.1倍、3.8倍と急増している。自社株買いが急増したここ3年(22〜24年平均)と比べても、2〜3倍に増えている。ROE改善や株主還元としての自社株買いに加え、最近は政策保有株、いわゆる「持ち合い株式」についても縮減・解消に向けた動きが加速、自社株買いがひとつの受け皿になっている可能性もある。大規模な自社株買いを発表する企業はトヨタ自動車やホンダ、ソニーグループなど外需関連に加えて、最近は三菱UFJFG、日本郵政、MS&ADインシュアランスG、KDDI、NTTといった内需関連が増えている。金融・保険、通信といった業種の企業は多くのグループ会社を持ち、取引社数が多く、ビジネスの慣例で古くから株式を相互に保有し合う企業が多い。さらに自社株買い実施企業数も近年は急増、24年は全体で951社と21年の613社と比べて1.6倍に増えている。多くの内需関連銘柄が自社株買いを実施していることで、市場の売り圧力を吸収、これが日経平均と比べてTOPIXが底堅い動きをしている要因と考えられる。
企業の潤沢な内部留保が株主・社員への還元や成長投資に向かう
法人企業統計調査によると23年度末の企業の「内部留保(利益剰余金)」は600.9兆円となり、2000年度末と比べほぼ3倍になった。手元の現金・預金も301.8兆円であり、内部留保、現預金とも空前の規模に積み上がっている。24年度も好業績が続く見通しに加え、政策保有株の売却で手に入れたキャッシュはどのように活用されるのか。25年春闘(第1回)の賃上げ率は定昇込みで5.46%、ベアで3.84%と、33年ぶりの高い賃上げ率であった24年を上回る好調ぶりだ。帝国データバンクが2月に実施したアンケート調査では、25年4月入社の新卒社員に支給する初任給を「引き上げる」企業の割合は71.0%と7割に達した。12月の日銀短観によると、24年度の大企業全産業の設備投資は前年度比11.3%増と23年度の同10.6%増を上回る強気な計画だ。同じく研究開発投資は6.7%増と23年度(同4.7%増)を上回る計画となっている。企業の潤沢な内部留保や現預金は、自社株買いや増配といった株主還元だけでなく、従業員への還元強化、生成AIの活用など研究開発投資や自動化投資に回る好循環に入りつつあるのではないか。日本企業の好実体、古い慣習からの脱却、資金を溜め込む一方から株主、従業員への還元強化、成長分野への挑戦などが評価される余地は大きいと考えられる。日経平均、TOPIXのどちらの株価指数を重視するかは自由だが、株価指数にはそれぞれ特性があり、見通しの際には冷静な分析が必要だ。
カテーテルなど心臓血管分野に強みを持ち、中長期的な成長期待が大きいテルモ、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」を運営、インバウンド需要もあり、好業績が続くパン・パシフィック・インターナショナルHD、3月の防衛事業説明会で、重工3社に続く防衛銘柄として再評価されつつある三菱電機に注目したい。
(3月20日記)