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マーケット見通とポイント

2024年11月3日
FRBの利下げが世界同時利下げを誘発、世界株式の追い風

9月は4日のカナダの利下げから始まり、ECB、米国、南ア、メキシコ、スイスなど日本を除く世界の主要国が相次いで利下げし、グローバル金融市場の転換点となった。不動産危機の長期化で、デフレを輸出していると批判された中国では9月後半に金融緩和や株式、不動産対策などの追加の景気刺激策が発表された。中国株式市場の反応からは共産党指導部の景気浮揚への本格的政策転換を期待させる。米国の利下げは米製造業を本格回復させる可能性があり、来年後半に再び引き締めシナリオが台頭することがリスク材料だ。

 

米FRBが4年半ぶりに0.5%の大幅利下げ、これを世界の市場が好感

 

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月18日、4年半ぶりの利下げを決定した。利下げ幅は通常(0.25%)の2倍となる0.5%で、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利誘導目標は4.75〜5.00%へ引き下げられた。グラフ1で90年代以降の米利下げ局面をみると、2001年1月や07年9月の0.50%利下げの際は、その後にITバブル崩壊やリーマン・ショックのように景気後退に陥った経緯から、今回もFRBが大幅な景気の減速を警戒しているということを示すメッセージとなりかねず、警戒された。しかし、パウエルFRB議長がFOMC会合後の記者会見で「遅れをとらないという我々の決意の表れだと思う」とコメントしたことで、市場の警戒感はすぐに後退した。

FOMCの経済見通しは、前回6月会合から9月会合(今回)にかけ、24年末の実質GDPは前回+2.1%→今回+2.0%、失業率は同4.0%→同4.4%へ下方修正された。失業率は8月の4.2%から一段と悪化を見込んでいることになる。コアインフレは前回2.8%→今回2.6%、25年末は2.2%と順調に鈍化する見通しが示された。FF金利見通し(中央値)は「現行4.875%→24年末4.375%→25年末3.375%→26年末2.875%→27年末2.875%→長期2.875%」となった。つまり今後の利下げ幅は「24年0.5%、25年1%、26年0.5%」。これを一言で表現すると、「現行の高金利を今後2年余りで合計2%幅引き下げる」ということだ。FRBとしては、FF金利が今回の利下げ後も、景気を過熱も冷やしもしない長期均衡水準のFF金利見通し(=中立金利)2.875%を大幅に上回ることを問題視している。現状の景気は底堅いものの、引き締め的な金利水準を続けると景気失速リスクが高まるので、事前に大幅に利下げに踏み切ったというわけだ。22年のインフレ退治の時に「後手にまわった」と、強く叩かれたことが生かされている。

グローバル株式市場ではFRBの大幅利下げを好感する動きが続いた。9月19日は、日経平均が前日比+2.13%(以下同)、台湾加権指数+1.68%、香港ハンセン指数+2.00%、独DAX+1.55%、仏CAC+2.29%、英FTSE100+0.91%となった。NYダウは+1.26%、ナスダック総合指数+2.51%、S&P500+1.70%となった。NYダウ、S&P500、独DAXは史上最高値を更新した。

9月はグローバル金融市場が転換点を迎えた月として記録に残るだろう。カナダ中央銀行は9月4日、政策金利を0.25%引き下げ4.25%とした。欧州中銀(ECB)は9月12日に中銀預金金利を0.25%引き下げた。6月に続いて2回目である。FRBが利下げを決定した翌日19日には南アフリカ中銀が4年ぶりの利下げ(0.25%)に転換、26日にはメキシコ(0.25%の利下げ、3会合連続)、スイス(0.25%利下げ、3会合連続)と、9月は日本を除く世界同時利下げとなった。さらに中国人民銀行は27日、預金準備率を0.5%引き下げた。27日の上海総合指数は前日比2.9%高の3087で取引を終え、1週間(23〜27日)の上昇率は12.8%と4兆元の景気対策で株価が急騰した2008年以来16年ぶりの大きさとなった。

米国はISM製造業景況感指数が底入れへ、日本の自動車、住宅関連株に注目

 

今後、段階的にEFBの利下げが続くと仮定すれば、株価を見通すうえでの焦点は景気後退の有無となる。過去の利下げ開始局面をみると、利下げ開始から6カ月以内に景気後退とならなければ、その後のS&P500指数は概ね堅調な推移となっている(グラフ2)。ただし、カネ余りによる金融相場が行き過ぎるなど市場を楽観ムードが支配するようであればむしろ警戒したい。

先行きのリスク材料として注意しておきたい点が一つある。9月FOMCの経済見通しのなかで、長期均衡水準のFF金利見通しの水準が6月時点の2.75%→今回2.875%へと上方修正されていることだ。長期均衡FF金利は2012年の4.25%からコロナ禍を経て22年3月には2.375%まで引き下げられたが、その後は段階的に引き上げられ、今回で引き上げは4回目、2.875%まで中央値が上昇している。22年のボトムからみると、FOMC参加者19人全員が全体として中立金利を引き上げている。この変化は、22年の高インフレに対応しているのではなく、構造的に米国経済の成長力が増していることに合わせて、あるべき中立金利はもはや2.5%前後ではなく、3%前後だというコンセンサスが形成されている可能性がある。今後、中立金利は3%で留まるか、それとも3.5%の方向へ徐々に引き上げられるか、可能性としては後者だろう。そうなれば、現行4.875%のFF金利を2%引き下げると2.875%になるので、中立金利以下になる。つまり、金融市場は「今後2年余りで合計2%幅利下げ」を織り込んだものの、実際には1.5%幅程度で利下げが打ち止めとなる可能性がある。24年の利下げ0.5%はほぼ確実で、25年前半の0.5%利下げ実施も濃厚とみるが、25年後半の0.5%分と、26年の0.5%の利下げはかなり不透明だ。利下げが遅れると景気後退リスクが高まるのは事実だが、来年前半にかけて断続的に利下げを実施すると、来年後半からは景気が再加速してインフレリスクに重点を置くことになりかねない。再び引き締めシナリオが台頭する可能性がある。

グラフ3は96年以降の米FF金利とISM製造業景況感指数の関係だが、FRBの利下げから平均で10カ月後にISM製造業景況感指数が底入れし、その後は力強く回復に転じている。例えば、住宅ローン金利の低下から住宅市場が回復すれば、それに関連して鉄鋼や銅、アルミといった素材産業が息を吹き返す。金利低下を受け米銀が貸し出し姿勢を緩和すれば不動産市場だけでなく、米国の内需を支える中小の多くの製造業が生産を増やすだろう。今回の利上げで同指数は23年3月に不況期入りの46台に悪化し、その後は46〜50で往来している。足もとでサービス業の景況感が「50超」にあるが、今後製造業が回復すると経済活動を支える車の両輪がフル稼働することになる。今回ボウマン理事が利下げ幅を0.25%にとどめるように反対票を投じたが、利下げの方向は全会一致であるものの、そのペースに関しては意見が分かれるところだ。

前回の米利下げ開始局面(19年7月31日〜)は、インフレや景況感、雇用の軟化を受けた予防的なものであることなどが、今回と共通している。19年当時の日経平均の動きを振り返ると、金利低下が相対的に追い風となるグロース株が概ね優位となった。19年7月末〜19年12月末の業種別騰落率は、上位が精密機器+23.2%、その他金融+16.6%、機械+16.5%、海運+16.3%、電気機器+15.9%、医薬品+15.9%、鉱業+15.7%、不動産+15.3%などとなっている。米経済への予防的利下げの影響でプラス効果が大きいのは、ローン金利の低下で消費者心理が改善する自動車や住宅をはじめサービスなど個人消費の側面がある分野に好影響が見られた。米国でハイブリッド車の販売が絶好調なトヨタ自動車、米住宅事業を拡大させている住友林業や積水ハウス、米個人消費が堅調な場合にコンテナ船事業から恩恵を受ける日本郵船、商船三井、川崎汽船などが注目される可能性がある。

(10月20日記)

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