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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2024年4月25日
日本企業の稼ぐ力が大きく向上。賃上げと製品値上げが続く公算。

日経平均株価の過去10年間の円建てリターンは217%(ドル建てでは118%)であり、S&P500指数の237%と比べてそれほど大差はない。しかし、日経平均は2月22日に、資産バブルでつけた1989年の過去最高値を34年ぶりに更新したため、多くの内外の投資家はこれから投資するには遅すぎるのではないかと迷っているようだ。たしかに、年初来の日経平均の上昇率20%(3月末時点)というのはさすがにスピード違反と思われるが、調整を入れながらも、上昇トレンドは継続すると思われる。

3月19日に日銀がマイナス金利を解除し、金融政策の正常化に向かうことを表明した後、日本株は上昇している。ドル・円相場が円安に一段と振れたことが追い風となっているが、理由はそれだけにとどまらないだろう。今回の日銀の決定は物価上昇と賃上げのサイクルが回り始めたことを示唆しているため、長らく続いたデフレマインドが本格的に転換し、インフレが定着する可能性を織り込み始めていると考えられる。

インフレは数十年ぶりの賃金上昇と企業による製品値上げを可能にしている。コロナ後に進めた商品点数の削減など生産効率の改善策や、人件費の削減など固定費を大きく引き下げた後に販売価格の改定を進めたことで採算改善につながった企業が多い。また内需の消費関連ではインバウンド増加による客単価の上昇、輸出主体の製造業では為替の円安も利益率の押し上げ要因となった。東証プライム市場に上場する3月期決算企業の自己資本利益率(ROE)は24年3月期に9.7%と前の期から0.5%ポイント上昇した模様(日本経済新聞集計)であり、10年前から2倍に上昇した。日本企業の利益の質はここ10年で非常に改善したと言える。米モルガン・スタンレーは日本の主要企業のROEは25年度にも12%を超えると予想している。

今24年度は大企業を中心に事業環境の好調さが一段と期待できる状況にある。足もとの24年春闘で大手労働組合の平均賃上げ率は5.3%が見込まれ、23年の平均賃上げ率(3.6%)を上回る見込みだ。これは企業が今後の事業環境に自信を持っている証左と捉えられる。

日本企業の事業環境は、堅調な米国景気や国内の設備投資需要の強さなどを考慮すると引き続き良好と判断できる。一定以上の市場シェアを確保している大企業や、製品・サービスの訴求力の高い企業はその好環境のなかで更なる成長の機会を獲得していく可能性が高い。賃上げは企業側にとって労働コストの増加につながるが、値上げや生産性の改善を進めることによる効果が、コストの増加を上回ることが期待される。逆に言うと、市場競争力が平均より劣る企業は賃上げにも限界があり、優秀な人材を確保できず、最終的には市場から退場を迫られるということだ。デフレからインフレへの転換期は企業経営の巧拙が勝ち組と負け組の二極化を加速させるとみられる。

インフレや人件費の上昇が続けば国内で値上げを進める余地がでてくる。製品・サービスの訴求力が高い企業は需給を考慮した戦略的な価格戦略を展開するだろう。さらに値上げによって実質賃金が持続的に高まった場合、家計消費を中心に国内経済が活性化される可能性もある。横並びの硬直的な価格戦略から脱する環境は、企業が収益性を高められる。製品・サービスの競争力に応じた適正な価格を追求し、そのもとで賃上げにより優秀な人材も確保することができれば、中長期的に競争力が高まるストーリーが描けるだろう。

 

地政学的リスク回避で日本が生産拠点として存在感を高める。

 

地政学的リスクの軽減や円安によるコスト面の魅力を背景に、海外企業が日本への直接投資を増やす動きも日本株を見直す材料である。コロナ禍で中国に依存し過ぎた電子部品など供給網の分散が急速に進んでいる。米中対立の激化を背景に、中国への直接投資が激減する一方、日本は生産拠点の分散先として存在感を示し始めた。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県での工場建設や、最先端半導体の国内生産を目指し米IBMなど欧米勢と手を組むラピダスの動きは、半導体にとどまらず、日本の地政学的な重要性が高まっていることを映す事例として海外投資家が注目している。

日本の半導体産業はチップの設計・生産で地盤沈下が続いたが、製造に不可欠な装置や部材で高い競争力を保っている。経産省によると国・地域別シェアで素材は日本が48%と2位の台湾(16%)を大きく引き離す。製造装置でも31%と米国(35%)に次ぐ2位にある。今後、日本でチップ生産が増えれば装置や部材の需要が伸びることになる。米国の景気が堅調なことを背景に予想以上に長引く円安は日本がコスト面でも魅力的になっている。

AIが普及すると、AIを自社で開発したい場合に役立つ「AIプラットフォーム」の技術が確立するだろう。生成AIがサービスに組み込まれるようになれば、専門知識や開発経験が少ない企業でも、AIプラットフォームを使うことで、AI開発を効率的に進めることができる。AIによる業務の効率化が次の焦点となる。まず想定されるのは人間が行っている業務をAIに代替させる動きだろう。実はその兆候は既に出ている。23年5月にIBMのクリシュナCEOは、AIで代替可能と考えられる職務における新規採用を今後数年にわたり一時停止する予定であることを明らかにした。同氏によると、今後5年間で同社のバックオフィス部門の従業員の30%がAIや自動化に取って代わられる可能性があるという。米モルガン・スタンレーによると、生成AIによって影響を受ける労働者は現時点で全体の25%と推定され、3年以内に44%まで高まる可能性がある。生成AIが業務を代行することによる経済的なインパクトは米国だけで最大4.1兆ドルと推計されており、影響力は無視できない。

OECDのデータに基づく 2022年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は52.3ドル(5099円/購買力平価(PPP)換算)と、OECD加盟38カ国中30位だった。順位でみるとデータが取得可能な1970年以降、最も低い順位になっている。岸田政権はAI普及による失業問題が表面化する前に、企業の「リカレント教育」を大胆に支援する必要があるが、逆に見るとAIの普及で経済効率化の変化率が最も大きいのは日本かもしれない。過去10年間で企業の利益の質は非常に改善したが、今後10年で日本経済の体質が大きく改善する可能性に注目したい。

TSMCの工場建設で九州は半導体製造のハブになりつつある。TSMCは九州に第2工場の建設を発表しており、第3工場も検討している。この関連では電力インフラ工事会社の九電工に注目したい。また、各国が中国での追加投資をやめて米国など比較的生産コストの高い国に生産拠点を構築している。従業員の高齢化に直面するなかで自動化のためにキーエンスのセンサーに対する需要が拡大するだろう。金融政策の正常化やインフレでリース事業、ホテル事業、関空の運営を手掛けるオリックスにも注目したい。

 

(4月20日記)

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