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マーケット見通とポイント

2024年3月28日
日本企業はPBR改善、ROE向上に向けて経営改革が加速

日経平均株価は2月22日に3万9098円で取引を終え、1989年12月29日のバブル期の史上最高値3万8915円を34年2カ月ぶりに更新し、大きなニュースになった。3月に入ってもさらに上値を伸ばし3月22日には取引時間中に一時4万1000円の大台に乗せた。市場では新高値更新の背景として東証の要請を受けた企業経営の変化に対する期待などから、割安株の上昇が株式市場を押し上げたと見る向きが多い。たしかに日経平均採用の225銘柄のなかで株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る銘柄の割合は今回の株価上昇で23年年初の55%から今年2月には37%へと大きく低下した。それでも米S&P500種採用の3%や欧州ストックス600種の20%と比べるとまだまだ多い。また市場の平均PBRは日本が1.3倍程度と米国市場の4.5倍、英国の1.7倍を下回っており先進国のなかでも低い。日本にはこうした低PBR銘柄が多いことが、株式市場が依然として「割安」と評価される有力な根拠である。

日経平均株価が過去最高値まで買われた理由はほかにもある。表1は日経平均株価(225銘柄)の採用銘柄構成比上位20銘柄である。日経平均株価の計算式は簡単にいうと、「225銘柄の株価合計÷銘柄数」で算出され、株式分割や併合、指数採用株式の入れ替えなどで生じる株価変動が修正されて公表される。結果として株価が高い銘柄ほどウエイトが高くなり、指数に与える影響も大きくなる。表1のようにトップの「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが10.9%を占め、2位の東京エレクトロンが7.7%、3位はアドバンテストが4.3%を占め、採用銘柄構成比上位7銘柄合計では34%に達する。この比率は一部の銘柄の株価変動が株価指数に与える影響が大きいという意味で、S&P500指数の株式時価総額の30%強をマイクロソフトやエヌビディアなどいわゆる「マグニフィセント7(壮大な7銘柄)」(グーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの7銘柄)が占めるのと構造が似ている。採用銘柄構成比上位を20銘柄まで広げると日経平均の53%と半分超を占めることになり、これらの銘柄の変動が日経平均を大きく左右することになる。

採用銘柄構成比上位20銘柄をキーワードで示せば「ユニクロ」と「半導体関連」「円安メリット関連」である。先物を売り(買い)、現物を買う(売る)裁定買いやその逆の裁定解消では寄与度が最大のファーストリテイリングなど上位銘柄がパッケージで売買される。表の上位20銘柄の中に半導体関連(一部電子部品も含む)は7銘柄も存在する。人工知能(AI)向け半導体の販売が急増し、23年11月〜24年1月期の売上高が前年同期比3.7倍となったエヌビディアの株価急上昇に影響を受けていることは間違いない。また、海外売上比率が80%を超えるのは東京エレクやアドバンテストなど8銘柄もある。医療機器のテルモ(海外売上比率75%)、中外製薬(同48%)、第一三共(同58%)、NTTデータグループ(同53%)といった一般的に内需関連と捉えられている銘柄も意外に海外比率が高い。さらにドル・円相場が23年11月にかけて1ドル=151円まで円安・ドル高が進み、3月期決算企業ではトヨタ自動車を筆頭に第3四半期決算発表で業績の上方修正が相次いだ。

採用銘柄構成比上位20銘柄がどの程度、日経平均株価の上昇に寄与したのか確認してみよう。日経平均は直近の安値だった23年10月4日(3万0526円)から2月第3週(16日、3万8487円)まで4カ月余りで7961円(26.1%)上昇した。この期間に日経平均を上昇させた銘柄ごとの寄与度をみると、1位が東京エレク、2位がファーストリテ、3位がアドバンテストで、この3銘柄で日経平均上昇幅の43%が説明できる。いずれも上昇前のPBRは5倍を超えており、割安だから買われたわけではなさそうだ。さらに寄与度上位20銘柄まで広げると、日経平均上昇幅の約80%に達し、顔ぶれは指数ウエイト上位20銘柄と16銘柄が重なっている。一方、この期間にPBRが1倍割れから1倍以上となったのはソフトバンクグループと京セラの2銘柄のみだった。こうした銘柄への人気の集中化が今回の日経平均の値上がりをリードしたといえる。

 

欧米企業と同じくROEの2ケタ定着がみえてくれば日本株は持続的に上昇

ところで、世界の主要株式市場は論理的に価格が形成されており、自己資本利益率(ROE)と株価純資産倍率(PBR)には強い正の関係がある(グラフ参照)。日本のPBRは1.3倍程度と欧州の1.8倍程度、米国の4.5倍と比べて低い水準にある。これは日本のROEが8.5%と米国(18%)、欧州(12%台)と比べて低いことで説明できる。上場している多くの企業のROEが低いことが、低PBRに評価されている理由といえる。

現在の投資環境として、米国経済の軟着陸期待や日銀の緩和基調の継続方針、中国経済が先行き不透明であることなどを背景とした投資マネーの日本シフトなど、相対的に日本株の投資魅力は維持されている。上げ下げを繰り返しながらも当面堅調に推移するとみられる。もっとも一極集中的に物色されている相場は環境変化にもろくなりがちだ。短期的に株価が行き過ぎた場合は一時的に調整を余儀なくされる場面もあるだろう。日本株が持続的に上昇するには、今度こそ日本企業が低ROE経営から脱皮する必要がある。

それではどうすればROEを高められるか。表2の2にあるようにROEは①売上高純利益率、②総資産回転率、③財務レバレッジの3つに分解できる。欧米企業と比較すると日本企業は、総資産回転率はやや上回るが、売上高純利益率と財務レバレッジが劣っている。売上高純利益率の改善方法は、付加価値の高い製品の販売を強化する、原材料高を価格転嫁する、安売りを止めて量から質を重視した経営への転換、などが考えられる。総資産回転率は売上高を増やす、利益に貢献しない資産を減らす、不採算事業からの撤退による不稼働資産の圧縮などが考えられる。最近のニュースで話題になった大手損保業界の「政策保有株ゼロ」の経営方針はこれに当てはまる。また、財務レバレッジの改善では、総資産に対して自己資本が過大な場合、自社株買いなどで適正な水準に減らす、借入金など他人資本を増やし、成長分野などを強化するなどが考えられる。新聞を細かく読んでいるとこうした取り組みを強化している企業が最近増えていることに気付く。

企業がROEの改善に取り組む姿勢が顕著になったのは東証による市場改革の加速も影響している。2014年に経済産業省が通称「伊藤レポート」を公表、自己資本利益率(ROE)8%を目安に資本効率を重視した経営に転換するように訴えた。その後に東証は資本コストに言及したガバナンスコードの導入・強化など、資本コストの改善につながる施策を進めてきた。23年3月には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請、24年1月にはこの要請を受けて実際に開示した「企業の一覧表」の公表に踏み切るなど、その勢いは加速している。東証は今後も追加的な施策を検討しており、この流れは続くだろう。

企業行動は明確に変化しており、投資家の期待は持続するだろう。例えば上場企業の自社株買い枠の設定額は20年度以降に大きく拡大。23年は9兆6000億円と2年連続で過去最高となった。24年に入ってもその勢いは衰えておらず、百貨店のほか、総合商社や医薬品関連の一角が積極的な自社株買いを公表している。

既存事業の売却や成長事業への集中投資、事業買収によって資本効率の改善を図る「事業ポートフォリオ」戦略を追求する姿勢も足もとで強まっている。企業による子会社や固定資産の売却案件数は高水準であり、既存事業の見直しも徐々に進んでいる。事業買収では同業種、異業種を問わずM&Aが増える可能性がある。24年に入って流通大手のイオンは28日、北海道を地盤とするドラッグストア2位のツルハHDを27年末までに子会社化すると発表した。また大手通信会社のKDDIによるコンビニエンスストア、ローソンへのTOBが公表された。事業構成の見直しは日本企業の課題克服という観点からも広がるだろう。国内外企業との競争激化や原材料コストの高騰リスク、慢性的な人手不足及び人件費の先高感などを考慮すると、低採算事業を手放す動きや、M&Aによってコストの削減を図る動きが今後も増加すると予想される。

株主還元の積極化や事業ポートフォリオの最適化を推進することで日本企業のROEは中期的に改善するだろう。グラフのROEとPBRの関係をみると、概ねROE8%を超えてくるとPBRが2倍前後に高まっている。ROE8%という最低ラインを固めるだけでなく、欧米と同じ2ケタ定着への視界が開けてくれば、持続的株高の手掛かりになると期待される。

25年に向けてROEと1株当たり利益(EPS)の成長が見込まれる大型株のうち、PBRが1.5倍以下の主な銘柄(2月末時点)は大和ハウス、アサヒグループHD、サントリーBF、富士フイルムHD、ブリヂストン、三菱電機、オリックス、大和証券グループ本社などだ。

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