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マーケット見通とポイント

2024年2月29日
海外投資家が名目GDPの伸びを評価、再び日本株を積極買い

1月第1週から第4週の海外投資家の買い越し額(現物)は約1.9兆円と23年5月(約2.4兆円)以来の買い越しとなった。第2次安倍政権が発足した2012年12月以降、15年にかけて海外投資家の買い越し額は約20兆円(累積)まで膨らんだ。アベノミクス政策への期待が背景だった。その後、徐々に関心が低下し、22年末には買い越し累計は2兆円まで10分の1に落ちた。23年は年間で3.1兆円の買い越しとなったが、買い余力はまだありそうだ。

日本が40数年ぶりのインフレ経済への転換となるなか、注目されるのは実質金利の動向だ。政策金利からインフレ率を差し引いた実質金利は、一般的にプラス圏で推移するのが正常な状態だが、インフレ環境下ではマイナス域となる。ゼロ金利の日本で2%のインフレが定着すると実質金利はマイナス2%となる。実質金利のマイナス化を背景に企業の投資行動は前向きに変化する。これまでのデフレ下では需要が低迷するため企業は投資を抑制し、内部留保の積み増しを優先した。しかし先行きインフレ継続が見込まれれば、企業は成長投資に資金を振り向ける。また、インフレで債務が実質的に目減りするため、借金の返済より配当など株主還元が選択されるだろう。一方、家計も消費や投資に前向きになる。デフレ下では賃金が伸びず、消費抑制と貯蓄が優先された。しかし、インフレ下では賃金上昇が見込まれ、自動車など高額の耐久財は値上がりする前に買おうとするインセンティブが働く。株価が上昇すれば資産運用も注目される。インフレ転換のタイミングで新NISA制度がスタートしたので海外投資家は2100兆円の家計金融資産の山が動くか注目している。

日銀出身のエコノミスト熊野英生氏によると、昨年1年間で家計のタンス預金が1兆円ほど減ったという。インフレが原因というよりも7月3日の新紙幣発行開始が理由のようだ。切り替え後も旧紙幣は引き続き流通するが、前回(2004年8月10日)の新札発行(現行紙幣)への切り替えのときも、切り替え実施日の9カ月ほど前からタンス預金が減り始めたという。6月に所得減税と給付金の支給があるが、この資金もタンス預金に向かわず、熊野氏はトータルで4〜5兆円のタンス預金が流動化すると試算している。

今年1月に米国の投資家を訪問したエコノミストの話を聞いた。長年日本市場に投資してきたベテラン投資家から、日本に関心がなかった投資家までが日本株に関心を示しているという。投資家が最も高い関心を示したのが、日本の名目GDPの上方シフトを説明した時だという。雇用者所得と企業所得の同時改善、税収の改善に加えて、名目GDPと株価の相関に、多くの株式投資家に強い反応がみられたという。物価の動きを含む名目GDPと日経平均の相関は経験則的に高いことが知られている(グラフ参照)。企業の売上高、利益、給与、国の税収など実体経済はすべて名目額で表示される。物価が上がれば企業が生み出す利益の額も増えるため、名目GDPが増える局面は株価も上昇しやすい。

政府は23年末に、今23年度の名目GDPは前年度比5.5%増の597.5兆円、来24年度は同3.0%増の615.3兆円まで膨らむと予想している。日経平均と名目GDPの相関関係(2005年1〜3月から23年7〜9月)、政府が予想する名目GDPの水準を参考に23年〜24年度の日経平均株価を推計すると、今23年度は3万3026円、来24年度は3万7157円と試算される。詳細の説明は割愛するが、統計的なブレを考慮すると来24年度の日経平均の下限は3万4368円、上限は3万9947円と4万円近い。エコノミストのプレゼン資料には26年度の名目GDPは640兆円とされており、海外投資家が高い関心を示すのもうなずける。

企業業績が好調、賃上げも進み、いよいよ実質賃金がプラス圏へ。

 

インフレを背景に企業収益は拡大傾向が続く。法人企業統計調査によると22年度のわが国企業(金融・保険業を除く)の売上高は前年度比9%増、経常利益は同13.5%増の95.2兆円と過去最高となった。3600社を集計対象とする会社四季報(24年新春号)によると、経常利益の伸び率は、今期(23年10月〜24年9月)は前期比12.7%増、来期(24年10月〜25年9月)は6.3%増の予想だ。

好業績を背景に賃上げも進む。23年の春闘における賃上げ率は前年比+3.6%と30年ぶりに高い水準となった。しかし、物価上昇分を越えられず、実質賃金はマイナス状態が続いたため、一般の人は賃上げを実感しづらい状況となっている。今年の賃上げ率については、民間エコノミストの予想平均は+3.85%となっている。足もとでは物価の伸びが鈍化していることもあり、今年の秋には実質賃金がプラスになるとの見方が増えている。すでに要求方針を明らかにしている産業別労働組合も強気の姿勢を示している。予想以上の賃上げが実施されれば、物価と賃金の好循環、すなわち賃金上昇によって家計の懐に余裕ができるため、企業側が販売価格を上げやすくなり、販売価格の上昇が売上高の増加につながるため、企業収益増加→更なる賃上げ、といった好循環が生まれる。そこで初めて日本はデフレ経済から完全に脱却し、「賃上げを伴ったインフレ型経済」へ移行したと評価できるわけだ。

国の一般会計ベースの税収は、22年度は71.1兆円、23年度は73〜77兆円と順調に拡大が見込まれる。このうち所得税は22年度までの2年間の税収増加分(3.4兆円)が「税収増の国民還元」という名目で今年6月の所得減税及び給付金の原資となる。

実はインフレで最も得をするのは政府部門だ。日本政府の債務は約1000兆円。平均残存期間は9.2年だ。物価動向について積極的に発信する東大・渡辺努教授によると、インフレ率2%が実現するとゼロ%の場合と比べて、9年強で物価は1.199倍に上振れ、政府債務の実質的な残高は834兆円に減る。つまり政府はインフレ2%経済への移行で166兆円を得るという。国債の格付けにも影響するだろう。

海外投資家は安定して高い収益を上げる企業を好む。また、そもそも海外投資家が知らない企業は投資対象となりにくい。さらに現物買いについては年金や政府系ファンドなどは運用額が大きく、大型株が選好されやすい。トヨタ自動車、ソニーグループ、信越化学、中外製薬、JT、ブリヂストン、テルモ、三井不動産などに注目したい。

(2月20日記)

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