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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2023年8月2日
来年の米大統領選を考えれば利下げは年明けが好都合、「安定感」と「構造変化」への期待を背景に日本の株価上昇続く

年内の利下げ期待は後退したが、米景気は減速し、利上げは最終局面へ

 

7月26日、米FRBはFOMCで政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.25%(上限)から5.50%(同)に引き上げることを決定した。FRBが前回6月会合で金利を据え置いたのは、同時点では今後の利上げに確信を持つに至らなかったのが理由と考えられる。その後に発表されたデータでは、7月7日発表の6月雇用統計で非農業部門雇用者数は過去の改定値と合わせて前月から9.9万人(6月+20万人、4、5月が計11万人分の下方修正)の増加にとどまったほか、7月12日発表の6月消費者物価指数(CPI)は前年比+2.97%と3%を割り込む水準まで鈍化した。パウエルFRB議長は6月会会合後の記者会見で「我々の政策はデータ次第」としていたが、実際のデータが雇用と物価の減速を示すなかで7月FOMCで利上げを再び決定したのは、市場の利上げ織り込みが進んだことが大きな理由だろう。FF金利先物市場では7月12日時点で、7月利上げを89%織り込んでいた。今回は市場が利上げを概ね織り込んでいたことから、利上げを見送ることでかえって市場に混乱を招くことを警戒した可能性が高い。

今後は追加利上げの有無がポイントだ。労働市場がタイトで賃金インフレの懸念があることに変わりないが、これまでの累積利上げ効果がラグを伴って経済と物価を抑制するので追加利上げは必要ないとみられる。しかしパウエル議長が利上げ打ち止めを宣言すると、市場がはしゃいで株高となりインフレが再加速するので、手綱を緩めない姿勢を示したものと思われる。またコア・インフレが鈍化しておらず、インフレ目標2%に近づけるには時間を要するため、今後の賃金・物価統計次第では年内追加0.25%幅の利上げ余地も残しておきたいのが本音だろう。いずれにせよ、今回の利上げ局面はいよいよ終盤にあり、仮に追加利上げがあるにしても、それが最後になる確度が高いと考えられる。

そこで、過去の利上げ打ち止め後の米国株式市場の状況を見てみよう(表1)。

1989年以降、6回の利上げ停止局面におけるNY株式市場は上昇することが多かった。唯一の例外は2000年のITバブル崩壊時である。最終利上げ日を基準にすると9ヵ月後にはS&P500で11%下落、ナスダック総合指数は同35%の大幅下落となった。これには2つ理由がある。第1に99年末に至る5年間でS&P500は3.2倍になるなど株価がバブル化していたこと、第2に実質GDP成長率がその後にマイナス成長に転じたためである。今回は株価に関しては、18年12月末から23年6月29日までの約4年半でS&P500は75%上昇したものの、ITバブル期ほどではない。しかも22年は年初に付けた史上最高値から同年の年間最安値まで約25%も下落するなど一度ガス抜きが終わっている。従って大きな注目ポイントは2つ目の景気動向となる。

7月27日に発表された23年4〜6月期の米実質GDP(国内総生産)の速報値(前期比年率)は2.4%増となった市場予想(同+1.8%、Bloomberg)を大幅に上回り、前期(同2.0%)からも伸び率は加速した。加速の主因は在庫投資寄与度のプラス転換(前期▲2.4%→+0.14%)と、設備投資の加速(同+4.2%→同+7.7%)だった。これまでの引き締めで米経済は減速が予想されるものの、失速とは程遠い状況だ。ちなみに6月FOMCで示された経済見通し(SEP)では、23年末の経済成長率は3月時点の0.4%から1.0%へ上方修正された。景気を心配するのは昨年から続いている金利上昇の累積効果がでる24年以降ではないか。

リスクは商業用不動産市場だろう。全米抵当貸付銀行協会(MBA)によると、米国だけでも23年と24年に1兆4000億ドル(約200兆円)相当のローンが満期を迎える。巨額の元本を返済する期限が到来したとき、不動産保有者は返済のため新たな借り入れをするよりデフォルト(債務不履行)を選ぶかもしれない。問題は、商業用不動産の調整が経済全体を不安定化させるほどの規模になるかどうかである。商業用不動産は地域限定のビジネスであり、地域金融機関の経営と不動産市場の問題が米国経済全体へ広がらなければ、このリスクは乗り越えられる可能性がある。

 

日本は、緩和的な金融環境や企業のROE向上などへの期待で株高が続く

 

景気の行方は政策がカギとなる。2023年も7月から後半に入ったが、表2のように目先では8月のジャクソンホール会議が重要だ。経験則ではFRBの景気認識と年後半以降の金融政策のヒントが示されるからだ。さらに重要なイベントは24年11月の大統領選である。

あと1年半も先の話題だが、スケジュールをみると年明けの1月には共和党党員集会、2月には民主党の予備選など半年後には事実上の大統領選入りとなる。ウクライナ支援も対中政策もすべて選挙にらみで決定されている。なかでも大統領選で重要視されるのは景気、インフレ、株価など国民に身近なテーマである。過去のケースを見ると、実質経済成長率から失業率とコアPCEインフレ率を差し引いて算出した「悲惨指数」を落ち込ませた大統領は再選されていない(グラフ1)。

すなわちマイナス成長、失業率の上昇があってはならないのである。FRBはホワイトハウスへの忖度ではなく、その政策が選挙を左右することを避けなければならない。

ここで米インフレ問題と金融政策、景気動向、ウクライナ支援・米中対立などのテーマを簡単にまとめてみた(表3)。

大統領選を考えると利下げは年内よりインフレ動向をみて来年前半が良いことがわかる。来年前半からインフレが落ち着き始め、利下げを受けて景気が回復に転じるならばバイデン大統領の再選の追い風になる。これがベストシナリオだ。景気が登り調子の時に選挙なら与党に有利になるからだ。

米国の景気をISM製造業景況感指数で代用し、インフレ率との循環図(時計回り、グラフ2)を見ると興味深い。

22年に入りインフレ率が前年同月比+7%を超え、6月には同+9%に達したが、今年の4月と5月は同+5%割れまで伸び率は鈍化してきた。ISM製造業景況感指数はコロナ禍の20年6月に好不況の分岐点である50を超えたが、22年11月には30ヵ月ぶりに50を割り込み、5月まで7カ月連続で50割れが続いている。「景気過熱・高インフレ」(グラフ2の右上)のゾーンから「景気低迷・高インフレ」(右下)のゾーンにシフトしたことになる。サービス業も含めた景気全体では「低迷」ではないが、製造業の経済活動が鈍っているのは間違いない。今後、時間の経過とともにISM製造業景況感指数が底入れし、徐々に50超へ、そしてインフレ率が2%方向に向かうならば「景気低迷・低インフレ」(左下)ゾーンに接近する。ただし、今回はインフレ率が2%を割り込まずにいきなり真上の「景気過熱・高インフレ」(右上)のゾーンに移行する可能性も否定できない。

現在の高インフレ、景気低迷(減速)の状況はコロナ禍で景気を立て直すためにバイデン政権が21年1月以降に採った政策の結果である。国民はバイデン政権の経済政策に対して強い不満を抱いているに違いない。しかし、来年に入りインフレ安定、利下げ、景気回復となれば上述の悲惨指数を回復させることができる。まさにバイデン政権への評価は高まり、支持率は上向くと考えられる。バイデン大統領も選挙を視野に入れれば今は我慢の時と言える。

さて、日経平均は7月3日に3万3753円と1990年以来33年ぶり高値水準まで上昇した。背景には日本株の投資環境を巡る「安定感」が評価されていることに加え、わが国のマクロ・ミクロの「構造変化」に対する期待感の高まりがある。これらが為替の円安・ドル高の追い風を受けつつ有機的に結びついた結果である。

米国や欧州、中国と比べた安定感とは、①当面は緩和的な金融環境が維持される可能性が高く、②インバウンド需要の回復を含めた経済再開が続くことに加え、③相対的に地政学的・政治的リスクが低いことである。次に、わが国のマクロ・ミクロの構造変化に対する期待感とは、ⓐ賃金・物価は上がらないというマクロ的な経済構造の変化、ⓑ日本企業は株主よりも内部留保の蓄積を優先し、事業再編や新陳代謝が遅いというミクロ的な社会通念(ノルム)から抜け出し、ROE(自己資本利益率)の向上といった変化への期待である。80年代後半のカネ余りを背景したバブル的な相場の動きとは明らかに異なる。6月にみられたような"スピード違反"的な上昇は収まり、日本株は「安定感」と「構造変化」に大きな変化がない限り、着実に上昇すると考えられる。物色動向はどうか。海外投資家による買い越しが続く場合、大型で、かつ高い流動性の銘柄が選好されやすい。日本の看板業種である電機、自動車、機械セクターなどに多い。また、インバウンド需要の回復を含む消費増大を想定すると、断続的に生じる海外からの"外的ショック"に対する耐性も強い食品、医薬品、百貨店、鉄道・観光など内需関連も注目されそうだ。

(7月31日記)

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