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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2023年5月30日
今3月期決算発表の序盤は想定どおり、外国人買いで日経平均は堅調。

3月期決算発表の序盤(4月末時点で約2割が発表)で、今24年3月期の経常利益が市場コンセンサスを上回った企業の割合は全産業ベースでは27%と過去平均並みである。このうち製造業は19%と過去平均の25%を下回るのに対して、非製造業は36%と過去平均の28%を上回るなど明暗が分かれた。相対的に景気減速の影響を受けづらく、またリオープニングの恩恵も受ける非製造業の底堅さが目立つ。

トータルでみれば想定内の決算と言えそうだが、株式市場の動きは予想以上の好反応を示している。日経平均は米シリコンバレーバンク破綻後の3月20日に2万6,945円の安値を付けた後、上昇に転じ、5月2日には2万9,157円と終値ベースで8カ月ぶりの高値を付けた。株高の背景には海外勢の買いがある。4月の海外勢の買い越し額は約2・9兆円(現物+先物、第3週現在)に達している。海外勢が日本を見直す第1の理由は、日銀の植田新総裁が主導した4月の日銀金融政策決定会合を受けた円安進行だ。大規模金融緩和政策の継続が決定されたことで、ヘッジファンドなど短期筋は円買い・ドル売りのポジションを解消、逆に円売り・ドル買いポジションを組み始めた。

第2にインバウンド市場の想定以上の盛り上がりだ。3月の訪日外国人の数は181万人で、22年10月に水際対策が緩和されてから最多となった。ただ、新型コロナ拡大前の19年に比べると7割程度に留まっており、本格回復はむしろこれからだ。

第3に決算発表と同時に発表された株主還元の強化(とくに自社株買いの増加)である。4月28日までに発表した企業をみると、発表社数もさることながら、自社株買い規模の大きさも注目される。東京ガスは発行済み株式数の12.2%に相当する自社株買いをするほか、小糸製作所、清水建設、セガサミーHD、野村総研など大手企業が発行済み株式数の3%を超える規模で行うと発表した(表参照)。

 

東証のPBR1倍割れ改善要請やインバウンド回復が株高を後押し。

 

東証によるいわゆる「株価純資産倍率(PBR)1倍割れ問題」の高まりを受けて企業が対応を本格化させている。なかでも7月3日から公表が始まる新株価指数「JPXプライム150指数」が注目される。特徴は「価値創造が推定されるわが国を代表する企業で構成される」指数であり、東証プライム上場企業の時価総額上位500社から150銘柄を選定する。具体的には①推定エクイティスプレッドが上位の75銘柄と、②PBRが1倍を超える銘柄のうち時価総額が上位75銘柄で構成される。新指数の詳細は現在設計中だという。エクイティスプレッドは一般的にROE(自己資本利益率)から株主資本コスト(投資家の期待リターン)を引いた値で計算され、企業価値創造の基本となるものである。一般的に企業価値創造が高い企業のPBRは高く評価されている。たとえばFAセンサーで高収益のキーエンスのPBRは6倍超、半導体関連の東京エレクトロンやアドバンテストは5倍超、信越化学は2倍を超えており、エクイティスプレッドは高いはずだ。従って新指数に採用される大半の銘柄はPBRやROEは高く、過去平均の売上高成長率、利益成長率が高いわが国屈指の超優良企業が集まる指数となる。新指数が市場に定着すれば、これに連動する投資信託も登場し、この指数に採用されることがプライム市場上場企業のステイタスになるに違いない。

採用銘柄選定基準のもう一つのポイントは「PBRが1倍を超えていること」である。仮に市場が成熟しており、PBRが1倍を下回っている企業のなかで、企業規模と比べて明らかに余剰な内部留保を抱えている企業は自社株買いを実施して株価を引き上げる経営に転換する可能性がある。例えば、上述した東京ガスは日本最大の都市ガス会社で、時価総額は1兆4,440億円(5月1日)とプライム市場の120番手クラスにある。PBRは0.8倍に留まっており、市場の評価に満足していなかった可能性がある。今回の自社株買いは新株価指数を意識しているとみられる。大型株でもPBR1倍割れは珍しくなく、自動車ではホンダ0.5倍(5月1日時点、以下同)、日産自は0.4倍と1倍台回復にはかなり努力が必要だが、トヨタは0.9倍と1倍に近く、今後も大胆な資本政策が期待される。総合商社では三井物産は1倍を超えるが、三菱商事と住友商事は0.9倍。エレクトロニクスではパナソニックHDが0.9倍、京セラ0.9倍。金融ではオリックス0.8倍、MS&AD0.8倍などである。PBR1倍近傍の超大型株の今後のアクションが注目される。

さて、インバウンド消費の本格回復で注目される銘柄をチェックしよう。百貨店各社の前23年2月期決算では、人流の戻りに伴う利用客数回復を背景に業界全体で良好な収益環境が継続している。商品別では旅行消費減少の受け皿となったことや、外出機会の増加を見込んだ需要の拡大が寄与し、アクセサリーなど高価格な身の回り品の内需が増加した。今24年2月期は中国人観光客を中心としたインバウンド消費の回復が高単価商品の売上げを支える新たな要因となる見込みだ。Jフロントは前23年2月期の免税店売上げが19年2月の半分に満たず、回復の余地が大きい。会社側は同売上げが今24年2月期全体でコロナ前の7割強まで回復すると見込む。H2Oリテイリングは22年4月にグランドオープンした阪急梅田本店の寄与などもあり、直近の月次売上高はコロナ前を上回った。「ドーミーイン」を運営する共立メンテナンスは5月15日の決算発表でインバウンド需要の回復加速の恩恵が今24年3月期の業績計画にどのように反映されるか注目される。アナリストはドーミーインの稼働率が24年3月期にコロナ前水準並みに回復するとみている。また、JR各社は4月14日に訪日客向け切符の10月頃の値上げを発表した。なかでもJR東日本やJR西日本は新幹線の運輸収入割合が高く、観光レジャーの恩恵を相対的に享受しやすく、注目される。

2019年までの前回ブームの際、小林製薬は中国からの観光客に女性用保健薬「命の母A」や「アンメルツヨコヨコ」「熱さまシート」「サカムケア」「ニノキュア」が"神薬"と呼ばれ人気だった。しかし、その後はブームの反動が出た。今23年12月期についてインバウンド需要を含めない慎重な業績予想をしており、足もとの株価は8,000円台と低い位置で推移している。ブームの再来となれば業績面でサプライズが生じ、株価も水準を高めるだろう。

(5月16日記)

 

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