マーケット見通とポイント
インフレや金融引き締め懸念が燻る先進国を横目に、新興国の景況感が改善している。きっかけとなったのは、22年12月の中国の「ゼロコロナ」政策の事実上の撤廃である。中国ではそれまで感染者が増加するたびに当該地域で経済活動がストップしてきた。しかし、規制解除で状況は改善し、中国の総合PMI(購買担当者景気指数、財新/グローバル公表)は1月に51.1(12月48.3)と好不況の境目の50を5ヵ月ぶりに上回った。さらに3月3日に発表された2月の総合PMIは54.2と一段と改善した。中国の景況感の回復に伴い、新興国のPMIも上昇しており、先進国との差が拡大している。こうした景況感の格差に加え、昨年後半まで続いたドル高の修正などを考慮すれば、新興国市場には追い風が吹いている。
新興国の中でも、アジア圏は急速な経済成長を遂げている地域の一つだ。グローバル製造業の中核を担う中国に加え、インドや東南アジアでは人口増大を背景にした消費拡大に加え、都市化の進展によるインフラ整備需要の増勢も期待される。米国と中国の対立が先鋭化することによる脱中国の流れも、サプライチェーン再構築に伴う投資増などからインドや東南アジアの経済成長を後押ししよう。
例えば22年のタイへの外国企業の直接投資の新規申請は前年比36%増の4,339億バーツ(約1兆7,000億円)となった。台湾のホンハイ精密工業は11月に電気自動車(EV)の完成車工場の建設を着工した。
ベトナムは22年の外国企業による直接投資(認可件数ベース、出資除く)は同15%増えた。韓国サムスン電子は2億2,000万ドルを投じて首都ハノイの研究員ら2,000人が常駐できる研究開発センターを開設した。
デジタル領域を中心に存在感を強めているインドの実質GDP予想成長率(IMF)は、23年に+6.1%、24年も+6.8%といずれもG20で最大の伸びが見込まれる。東南アジア諸国についても、中国との連携強化や内需の発展によって、経済成長率の急速な切り上がりを見せている。1月のIMFの予想ではASEAN5の実質GDP成長率見通しは23年+4.3%、24年+4.7%と、中国を含むエマージング平均のそれぞれ+4.0%、+4.2%を上回る。
インド・東南アジアの需要を取り込む日本企業に注目。
インドや東南アジアの経済成長の背景には人口の増加がある。21年時点でアジア新興国(ASEAN加盟国+中国・インド)の人口は世界全体の44%を占める。国連の予想では、中国が減少に転じる一方、その他地域は増加基調が続く見通しだ。現地の需要取り込みに期待できる日系企業の成長余地は大きそうだ。中でも、日用品事業を手掛ける企業に注目したい。インドでは4歳以下の子供の数が1億人を超えており、その他地域でも紙おむつや哺乳瓶などへの底堅い需要が継続。また生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の増加や教育水準の向上を背景にフェミニンケア製品(女性用生理用品)へのニーズも高まっている。
とはいえ、中国も無視できない。人口規模からは世界の工場および市場として生産・消費の両面で存在感は健在だ。1月のIMFの経済見通しでは23年の中国の実質GDP成長率は+5.2%と昨年10月時点の見通しから0.8%ポイント上方修正された。ゼロコロナ政策の見直しで国境が再開されたことで従来よりも早い回復の道筋がついたとIMFはコメントしている。
日本政府は3月1日に中国からの渡航者を対象とする水際対策を緩和した。出国前72時間以内の陰性証明提示の義務は続けるものの、入国者全員に義務付けてきた検査は無作為抽出のサンプル検査に切り替えた。羽田、成田、関空、中部の4空港に限定していた中国からの航空便受け入れを他の空港にも拡大、増便も認めた。中国からの訪日外客数は一気に増え、インバウンド関連各社にとって大きなビジネスチャンスとなる。日本企業は半導体分野などでは米中対立の影響を受けるものの、地理的・経済的・文化的な近接性からインバウンドを含む中国の生産・消費需要を取り込める立ち位置にある。新興国市場の成長を取り込む銘柄に注目したい。
黒崎播磨(5352)=主力の耐火物部門が好調。コスト増加分を価格に転嫁したことに加え、鉄鋼市場が伸びているインドで事業が拡大している。今23年3月期の営業利益は前期比45%増と4期ぶりに過去最高益を更新し、配当は年260円と60円増配の計画。コマツ(6301)=建機の値上げや新製品投入により粗利益率が改善。物流費・鋼材費の高騰一巡で今後もさらに改善する可能性がある。今期の配当は年128円と、前期比32円増の計画。またPBRが過去10年(2013〜22年)平均の1.54倍より低く、再評価の余地がある。ダイキン工業(6367)=部材費の上昇や中国の行動制限の影響を拡販(含む価格是正)や自助努力で吸収。今23年3月期も営業最高益へ。夏に向けてサマーストックとして注目。中期ではインド市場の成長が期待される。
いすゞ自動車(7202)=今23年3月期第3四半期はアジアにおける堅調な商用車販売のモメンタムが継続。小型商用車は部材不足の緩和が進み、主力市場のタイで販売台数が前年同期比大幅増となった。市場シェアも上昇している。スズキ(7269)=今後人口の増加が期待されるインドでの四輪車の市場シェア41%を誇る(23年3月期上期)。今23年3月期の販売台数を若干下方修正したが、販売車種構成の改善から営業利益は2回、上方修正された。
ヤマハ発動機(7272)=新興国の二輪や欧米の船外機の需要堅調と円安により、前22年12月期は営業最高益を更新した。今23年12月期は円高やコスト増はあるが、増収効果で吸収し、小幅営業増益を確保し、連続最高益が見込まれている。ピジョン(7956)=哺乳瓶など育児用品の大手。売上高全体に占める中国事業の割合は36%。中国のロックダウンの影響を受け、前22年12月期の営業利益は前の期比9%減となったが、今23年12月期は前期比2%増の計画。また、中国事業を慎重に見ており、増額される公算。
伊藤忠商事(8001)=非資源事業に強みを持ち、商品市況高騰が一巡した場合、同業他社比での業績の落ち込みが相対的に小さい可能性がある。今23年3月期の第3四半期決算発表時に上限250億円の自社株買いを発表した。ユニ・チャーム(8113)=アジア圏向けにベビーケア・フェミニンケア製品を幅広く展開。各国市場でシェア№1を獲得。売上高に占めるアジア圏の割合は50%近い。今23年12月期は価格転嫁を進め、コア営業利益ベースで過去最高益を更新する見通し。
(3月16日記)