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マーケット見通とポイント

2022年9月23日
パウエルFRB議長の超タカ派発言に株式市場は動揺

8月26日のジャクソンホール会合におけるパウエルFRB議長の講演は異例づくめだった。冒頭から「本日の私の話は短く、焦点を絞り、メッセージは直接的」と切り出した。「物価安定を回復するには時間がかかり、力強い金融引き締めを続ける必要がある」と述べた。そのうえで、「金利上昇、成長の減速、労働市場の軟化がインフレを抑制する一方、家計と企業には痛みをもたらす。これは不幸だがインフレ抑制に伴うコストだ」と厳しいトーンで訴えた。このインフレを完全に封じ込めるまでは強力な利上げを続ける姿勢に、株式市場は動揺した。ナスダック総合指数は同会合後に6日連続で下落し、会合前の戻り高値である8月15日につけた戻り高値から11.4%も急落した(9月2日時点)。

夏の株価ラリーの起点となったのは7月27日のFOMC後のパウエル議長の記者会見だった。パウエル議長は「金融引き締めをさらに進めたら、どこかの時点で利上げペースを緩めることはあるかもしれない」と発言した。しかし、この直前に「景気も労働市場も強すぎるので今後も利上げが必要」との説明をしているのに、株式市場は勝手に早期緩和観測へ舵を切ってしまった。ナスダック総合指数は6月の安値から23.3%も上昇し、S&P500種は下げ幅の「半値戻し」を達成した。この「良いとこ取り」を戒め、インフレ抑制が最優先で、そのためには追加利上げが不可欠で、その結果として景気が若干痛むことは止むなしというメッセージを発することが、今回のジャクソンホール会合の目的だった。今回出現したインフレが予想以上に手ごわいことがわかり、FRBも心してかかるので、市場も理解してほしいということだろう。

現在、FF金利は2.375%(中央値)に対して7月のインフレ率(CPI総合)は前年同月比+8.5%(CPIコア指数は+5.9%)とはるかに上方にある。FF金利からインフレ率を控除した実質FF金利の長期平均(1960年〜22年8月)は1%だが、現在はマイナス6.1%。これを早急にプラス1%以上にしないと引締め効果は期待できない。パウエル議長はインフレが長期化することの弊害を指摘しているだけに、FF金利をいち早く4%程度まで引き上げ、その後インフレ率が2〜3%に近づいてきたら、一気に景気後退回避に向けた大幅利下げに転じる作戦ではないか。ただし、家賃と賃金など粘着インフレが鈍化しないので、最終的に利下げは早くて来年7月か9月開始となり、景気後退のリスクは高いとみられる。

 

米債券市場は景気後退の織り込みが進展。原発関連などに注目。

 

株式市場が警戒するのは、米国が本格的な景気後退に陥るかである。「本格的」とは、失業者が大幅に増える状態だが、不思議なことに、GDP成長率が22年前半にマイナスであったにもかかわらず、米国の雇用は順調に伸びている。7月までに4回の利上げが実施されたが、足もとでは本格的な景気後退の兆しはほとんど見えていない。米国の非農業部門の雇用者数は、今年に入って約330万人増え、7月にコロナ禍直前の20年2月の水準を上回った。一方、パウエルFRB議長は、昨年秋ごろから「雇用はすでに正常化した」と言い続け、雇用はコロナ禍前の水準まで戻る必要はないとしていた。コロナ禍前は「完全雇用」の水準であり、これ以上増えるのは不健康だというメッセージである。そうであれば、FRBは、雇用が現状から約300万人減っても「おかしくない」とみている可能性がある。従って300万人程度の失業者が出ても、インフレとの戦いの手を緩めない可能性もある。雇用が減ると消費が大幅に減少し、企業の売上げも減って株価が下落する。しかし、これはリスクシナリオであり可能性は低い。

米国の家計や企業は負債を増やして消費や設備投資をしておらず、この面では米国景気が長くて深い後退に陥ることはない。メインシナリオは、さほど失業者が増えないなかで、消費者がインフレを嫌がって、例えば光熱費が上昇した分、衣服を買わないことなどで生活防衛し、消費が増えないことでインフレ圧力は低下すると考えられる。

パウエル議長が言及した通り、FRBの今後の政策はデータ次第である。10〜12月期に入ると、民間消費が減速し、インフレが落ち着く可能性が高い。さらに23年に入っても景気の弱さが継続することで、前月比でみたインフレ率がさらに低下していくと予想される。FRBはインフレ率が高水準であるうちはタカ派スタンスを維持しようが、経済成長率が潜在成長率を下回る中、コアPCEデフレーターでみたインフレ率が前年同期比でプラス3%台(7月はプラス4.6%)まで落ち着いてくれば、それまでの超タカ派的なスタンスからややハト派方向に修正する可能性が高い。

米国の長期金利は8月1日に2.57%まで低下したあと、ジャクソンホール会合後に3.25%まで上昇した。しかし、6月につけた2011年4月以来の高値である3.47%に届いていない。長期金利の上昇を促したのは実質金利の上昇である。実質金利は0.8%と6月の0.89%にほぼ近づいたが、債券市場が予想する期待インフレ率がほとんど上昇せず、長期金利の上昇を抑制している。米債券市場で2年と10年金利の逆転=逆イールドが常態化していることが示すように、市場は先行きの米景気後退を織り込み、インフレは早晩ピークアウトすると読み始めているようだ。

これから起きる景気後退はリーマン・ショックやITバブル崩壊時のような手が付けられない不況とは異なり、痛みを承知で当局が引き起こす、いわば人為的なものである。コントロールされた景気後退であれば恐れる必要は全くない。9月20〜21日の次回FOMCではメンバーの経済見通し(SEP)とドットチャートが公表される。9月分から予測期間が1年伸びて25年までとなる。この利上げサイクルのターミナル(最終的)金利(現在3.75%)が引き上げられる可能性は高いものの、先行き予想の視界が大きく開ける可能性が高い。不透明感が後退することで株式市場では次のテーマを探す余裕が出るだろう。

参考銘柄として、原発再稼働機運が高まっており、原発設備の三菱重工や重要部品を手がける日本製鋼所、高温ガス炉の構造材を手掛ける東洋炭素、使用済み燃料の貯蔵などに使われるホウ素10化学品を手掛けるステラケミファに注目したい。ディフェンシブ系からは、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が好調で、尿路上皮がん治療薬「パドセブ」の販売立ち上がりなど主力薬剤が好調なアステラス製薬、好業績かつ配当利回りの魅力を兼ね備える三菱ガス化学、いすゞ自動車に注目したい。

(9月16日記)

 

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