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マーケット見通とポイント

2022年7月28日
政治の安定感、インバウンド消費など日本株は好材料が多い

米国株式市場と比べて日本株は相対的に底堅く推移している。年初来の騰落率はナスダック総合が▲30%、S&P500種は▲21%、NYダウ30種平均が▲15%に対して、日経平均▲8%、TOPIXは▲6%の下落にとどまっている(6月末時点)。日本株の評価ポイントは、①海外からみた政治の安定感、②今後のインバウンド消費に対する期待、③企業業績の回復、④大手製造業の国内回帰と、海外から見た生産基地としての日本の魅力、⑤良好な株式需給と株価の割安感、など好材料は意外に多い。好材料を一つずつ点検してみよう。
まず、NHKの内閣支持率調査(6月)によると、岸田内閣を「支持する」と回答した割合は50%と「支持しない」の27%を大きく上回っており、政権発足時の49%も上回っている。G7の米、独、英、仏の首脳の人気低迷ぶりが目立つなかで日本の政治の安定性は群を抜く。

第2にインバウンド消費に対する期待が高まっている。5月の訪日外国人観光客数は14万7,000人とコロナ前の19年5月の277万人と比べると1ケタ少ないが、3月の6.6万人、4月の13.9万人から徐々に増加している。政府は6月1日から新型コロナの水際措置を見直し、入国者数を従来の1万人/日から2万人/日に引き上げた。同10日からは観光目的の入国も認めた(当面はツアーのみ)ため、6月以降は大幅に増えそうだ。加えて、他の主要国と比較して日本は物価上昇率が鈍く、円安も進んでいることから、訪日外国人にとって日本は「”安全“で、しかもモノやサービスも安い国」と映る。第一生命経済研究所のエコノミストの試算によると、19年平均と22年4月の比較で、日本の円購買力は26%も割安になっているという。

第3に主要企業の業績が回復基調にある。TOPIX500採用の3月期決算(除く金融)の全産業ベースの今23年3月期の営業利益は前期比10.6%増が予想されている。なかでも非製造業は経済活動の正常化を追い風に同23.0%増とコロナ禍前の19年の水準まで回復する見込み。非製造業の事業環境が足もとで強まるなか、製造業は同6.3%増に留まる見通しで、非製造業が業績拡大のドライバーとなろう。ただし、6月日銀短観の今22年度想定為替レートは1ドル=118.96円、1ユーロ=131.60円と実勢より大幅な円高が前提となっており、原材料高のマイナス要因を加味しても精密や自動車、電機、機械メーカーの製造業の足もとの業績には相当な増益要因となっている可能性がある。

人件費の安さなどで製造業が国内に回帰、OLCなどに注目
第4に大手製造業が国内回帰を強めている。例えばルネサスエレクトロニクスは山梨県にパワー半導体の工場を建設するほか、SUBARUは群馬県に国内初の電気自動車(EV)の新工場を建設する計画を発表。TDKは岩手県にEV向け電子部品の新工場、村田製作所は島根県にコンデンサの新生産棟、三菱電機は愛知県にFA製品の生産工場を建設する計画を発表した。新型コロナの感染拡大などでの供給網の混乱に加え、円が対ドルで約20年ぶりの安値水準にある中で、国内の「人件費が安い」ことが製造業の国内回帰を後押ししている。ちなみに東京と米サンフランシスコの製造業の月額賃金を比較すると、サンフランシスコを100とすれば東京の製造業のワーカーでは58、エンジニアは37、中間管理職は35とかなり低い(JETROの調べ)。しかも急激な円安が進む前の22年1月までの3ヵ月平均なので、その後の急激な円安・ドル高で格差がさらに拡大している可能性がある。

世界的な半導体生産会社である台湾のTSMCは、日本で初めての生産拠点を熊本に建設する。ソニーグループとの共同出資で、デンソーも出資する。海外企業からみた日本に投資する理由を考えると、煩雑すぎる規制の問題や高齢化などによる内需の縮小などネガティブな要素もあるが、メリットとして、良質で安価な労働力、低い資金調達コスト、高度な社会インフラ(高速道路、鉄道網、通信など)、政治の安定などが特筆される。
政府も後押しをする考えだ。岸田総理大臣は、5月にロンドンの金融街シティーで講演し、「日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資してほしい。『Invest in Kishida』だ」と述べ、日本への積極的な投資を呼びかけた。具体的な分野としてAI=人工知能、量子技術、バイオテクノロジー、デジタル、脱炭素の5つの領域で近く国家戦略を明示し、これに応じて研究開発投資を増加する企業に優遇措置を与える考えを示した。今後海外企業が日本への投資を増やす動きが強まる可能性がある。

株式の需給関係は良好だ。今年は5月に過去最大規模の自社株買い取得枠が設定された。中長期運用の年金資金は新年度運用(4月以降)の事実上の簿価に相当する3月の月中平均値、すなわちTOPIXで1,885ポイント、日経平均で2万6,000円台前半から買いが入りやすい。一方で日経平均の株価収益率(PER)は割安に評価されているが、解散価値をベースとしたPBRは12年以降の平均値1.2倍を下回っている。何らかのきっかけがあれば日本に投資マネーが流入する可能性が十分ある。

ところで、米S&P500種とドル換算の日経平均は似たような推移を辿るが、時々異常なかい離になることがある。現在は日経平均が過去20年で最大の下方かい離となっている(グラフ参照)。転機到来シナリオとして、電力不足解消に向けて原発再稼働の動きや地政学的要請から日本が中国に代わる重要な生産拠点として台頭する、などがトリガーになるかもしれない。
リオープニング、インバウンド関連でオリエンタルランド、マツキヨココカラ、京阪HD、セイコーHDに注目したい。高効率発電設備の需要回復と原発・軍需関連の三菱重工、ガラス事業の構造改革進展と車載電池材料が拡大しているセントラル硝子、燃料高が収益を圧迫するなか、すでに一部稼働している原発が収益の下支え役となる関西電力、中国電力、九州電力にも注目したい。


(7月16日記)

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