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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2022年4月1日
ロシアのウクライナ侵攻で資源価格高騰も、景気後退の可能性は小さい!?

FT(フィナンシャルタイムズ)紙が年初に発表した「2022年大予測」の6番目に「ロシアはウクライナに侵攻するか?」がある。答えは「No」で「侵攻せずとも、ウクライナを不安定にし、NATOを脅すなど多くの目的を達成できる。ただしクレムリンは、事態をエスカレートさせる名人なのでご用心を」と予測している。一方、ユーラシアグループの「TOP RISKS 2022」では5番目のリスクに「ロシア」を挙げ、「米国とロシアの関係は極めてギリギリの不安定な状態にある。もし米国主導の西側諸国から譲歩を得られないなら、ウクライナで何らかの軍事作戦を行うか、他の場所で劇的な行動を起こす可能性がある」とかなり的確な予測をしている。しかし多くの市場参加者にとって今回の「ロシアのウクライナへの軍事侵攻」は「FRBの予想以上の引き締め加速で米景気後退」と並ぶテールリスクの一つだったと思われる。

2月24日にロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まり、マーケットは大荒れとなった。例えばドイツDAX指数は2月18日と3月7日を比較すると▲14.6%の下落率で、堅調に推移した米S&P500(同▲3.4%)と明暗を分けた。しかしNY株式市場も非常に大きな値幅で上下を繰り返す典型的な高ボラティリティの市場となった。商品市場では原油や金先物、穀物市況の上昇を受けてCRB指数が急激に上昇した。西側諸国による制裁強化によりロシア中銀との取引停止やロシアの大手銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されることが決まり、ロシアからのエネルギーや農産物・鉱物資源輸出が滞るのではという懸念が一気に強まったことがある。

さらにロシアからのエネルギー輸出が滞って欧州などの経済に打撃が及ぶのではという「スタグフレーション的な状況」への警戒感が金融市場で台頭した。期待インフレ率は侵攻前の2月18日の2.42%から3月1日に2.62%まで上昇したが、これはエネルギー・商品市況が長い年月にわたり上昇するという見方を反映したもの。ただ、軍事侵攻後の米債券市場では幅広い年限で利回りが大幅に低下した。インフレ期待が上昇したにもかかわらず米国債利回りが低下したのは、実質金利がマイナス0.43%からマイナス0.90%へ急低下(マイナス幅を深掘り)したことによるものであり、投資家が米国債に資金をシフトしたことを示す。

冷静に考えてみると、今回のウクライナ危機でインフレが上振れたとしても、それによって米国の景気が腰折れするような局面に入るとは考えにくい。ましてや景気後退に陥る可能性は低い。これまでの想定通り、米国経済はオミクロン株による悪影響が落ち着いてくるタイミングで経済再開局面に入り、景気が上向くことが想定される。欧州も景気後退に陥るなら、欧州株はより大幅に下落しているはずだ。米景気後退を懸念した米実質金利の下落はやや行き過ぎていると考えられる。

 

強い金融引き締めになるのを警戒。プラント関連などに注目。

 

第2次世界大戦後の主な地政学的イベントと米国株式市場の関係をみると、株価は比較的早い段階で回復している。3ヵ月以内で元の水準を回復することが多く、下げもさほど大きくない。1990年8月の湾岸戦争(イラクによるクウェート侵攻)でさえ下落率は20%程度である。多くの有事イベントの地域がアジア(アフガニスタン、ベトナム、朝鮮半島)や中東(イラン、イラク)など米国から遠く、米国株式市場では対岸の火事とみなされたり、長期化・泥沼化・膠着化するなかで材料視されにくくなったこともある。

また地政学的イベントが景気後退の「きっかけ」となることは多くない。景気後退のきっかけとなる場合は資源価格の急騰(重要な生産要素の供給ショック)を伴っていることが重要なポイントだ。例えば、1970年代の第4次中東戦争やイラン革命に伴う2回の石油ショックと1990年の湾岸戦争だ。オイルショックでインフレが加速したため、インフレ退治のための急激な金融引き締めが実施された。湾岸戦争時は1989年5月までの金融引き締めが90年7月のS&L(貯蓄貸付組合)危機を招き、90年8月の湾岸戦争による原油価格の上昇が景気後退の引き金になった。こうした点を考慮すれば地政学的イベントよりもそれによって引き起こされるインフレ退治のための強い引き締めを心配するべきだ。

一方、景気に下押し圧力がかかる状況になれば金融を強く引き締める必要性は低下する。前述したように米国の期待インフレ率は上昇したが、最近の高値である21年11月の2.75%を下回っており、先行き極端なインフレを市場が見込んでいるわけではない。今後の原油価格の動向次第だが、米国で1970年代にみられたような過度な引き締めでインフレを抑制する必要性は低下しているのではないか。財政面では米欧で軍事支出を中心とした財政支出や大型財政法案が通りやすくなる可能性がある。新型コロナのパンデミックから経済正常化に向かう軌道は変わらないことから、ウクライナ危機が落ち着けば、年末にかけて株式市場が回復するだろう。

ウクライナ情勢の緊迫化に伴い企業収益の悪化が懸念されている。実際、足もとの株式市場においてロシアや中・東欧で権益を持つ企業、あるいは関りの深い企業を中心に株価下落が顕著になっている。主要株価指数に採用される企業の売上高がどこの地域に依存しているかを見ると、ロシア向けを含む欧州向け比率は欧州の企業(STOXX600に採用される企業の集計)は48.0%と高いものの、米国(S&P500種に採用される企業の集計)が14.2%、日本(日経平均株価に採用される企業の集計)は10.2%と欧州企業と比べて高くない。日本企業の業績全体ではロシア向けの売上げ減少という直接的な影響は限られそうだ。

株式市場の注目銘柄を考えると、三井物産と三菱商事はロシアの資源開発プロジェクト「サハリン2」の行方が不透明になってきた。商品市況高は業績の追い風だが、日本政府エネルギー戦略が”脱ロシア“に舵を切った場合、サハリン2は業績の悪材料になる可能性もある。しかしこの懸念が後退すれば逆に買い材料となる。欧州が期待を寄せるカタールでLNGプラントを手掛ける千代田化工建設、世界各地でLNGプラントを手掛ける日揮HDは注目されそうだ。豪州からLNGを輸入する岩谷産業、豪州で日本向け水素ビジネスを手掛ける川崎重工、関西電力、丸紅、INPEXも注目される。

それ以外ではオイル&ガス分野の周辺機器(ポンプやコンプレッサ)を手掛ける荏原、非鉄金属の権益を持つ住友金属鉱山、金・パラジウムなどのリサイクルを手掛けるアサヒHD。 今回のウクライナ戦争で改めて国防の重要性が意識されている。日本の防衛関連費は増加傾向にあるが、今後さらに拡大されるとみられる。三菱重工、日本製鋼所に加え、サイバーセキュリティーの観点からトレンドマイクロなども注目される。

(3月16日 記)

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