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マーケット見通とポイント

2022年2月1日
FRBの金融政策を巡り年前半の投資家心理は上下に振れやすい

2022年のグローバル株式市場は米連邦準備理事会(FRB)の金融政策正常化が見込まれ、緩和という強い追い風を受け続けたこれまでとは異なるやや難しい局面に入る。前回の金融政策正常化の局面では14年のテーパリングから15年の最初の利上げ、さらに本格的な連続利上げが始まった16年12月までの約3年間、日米株式市場は神経質なもみ合い相場を続けた。ただ、今回は21年のテーパリングから1年以内、もしくはテーパリング終了から時間を置かずに利上げとなる可能性もあり、性急な正常化への動きに対して株式市場の反応が神経質となる可能性がある。

米FRBの金融政策正常化が加速する背景には、コロナ禍で人手不足や供給制約が長期化し、インフレ懸念が沈静化しないことにある。現状は抑制された長期金利と相俟ってインフレ率を反映した実質長期金利がマイナス1%前後と、依然として景気刺激的な水準で推移している。株式市場にも旺盛なリスクマネーの流入が続く微妙なバランスを形成している。ただし、利上げのアクセルを踏み過ぎると、長短金利差の縮小が進み、景気失速リスクが高まる可能性もある。FRBは難しい舵取りを迫られるだろう。とくに年前半の投資家心理は上下に振れやすく、臆病な性格のリスクマネーの動きに市場は翻弄されそうだ。

最近の米金融政策決定のスポークスマン的役割はFRBのウォラー理事が果たしている。同理事の直近の発言は「テーパリングを終了させて3月の利上げ開始、夏までにバランスシート縮小(QT)に着手することは可能」である。ただ、同理事はFRB内でもタカ派に位置付けられているうえに、債券市場ではこのシナリオの実現性が疑問視されている。21年9月以降の米長期金利は1.4〜1.6%台で安定している(1月7日時点)。冷静な債券市場の反応から、ニューヨーク株式市場は22年年明けに主要指数が史上最高値を更新した。当面、1月に発表される12月米雇用統計、12月消費者物価指数(CPI)を見て、1月26日のFOMCでどういった判断が下されるかが当面のマーケットの注目点だ。

仮にウォラー理事の3月利上げ、夏までにQT開始の見方が中心にあるとしても、22年後半の米国のインフレの見方が固まってくると、前のめりといえる正常化、引き締め路線は転換する可能性が出てくる。インフレについては、FOMCの経済見通し(SEP)も23年に向かって相当に和らぐと予想している。SEPによる21年のPCE(個人消費支出)コアインフレ率見通しは前年比+4.4%から22年は同+2.7%、23年は同+2.3%となっている。バイデン大統領も先般のCPI発表後に「今後インフレ率は下がるだろう」と発言している。

 

米インフレ率鈍化の5つの要因、寅年相場はリスクをとって実利を得。

 

22年後半にインフレ率上昇の勢いが鈍化する理由として次の5点が指摘できる。第1に原油価格は足元上げ足を速めているが、前年同月比でみると1-3月をピークに上昇率は鈍化するだろう。3月以降は原油の不需要期に入るうえに、昨年4-6月の原油価格は平均で1バレル=67ドル程度であり、仮に100ドルまで上昇しても上昇率は鈍化する。第2に半導体の生産が戻ってくるなど供給制約は時間の経過とともに和らぐとみられる。ちなみに価格が他の品目に比べて極端に変動している品目を集計から外したPCEの刈り込み指数の上昇率は前年同月比+2.8%しかなく、商務省統計のPCEコア+4.7%よりもかなり低い。物価上昇は限られた品目で強く起きていることがわかる。

第3に前年の政策効果の反動である。21年は春のアメリカ救済計画(ARP)の1.9兆ドルの財政発動、強い金融緩和による資産価格上昇の資産効果、ワクチン接種が軌道にのったことによる社会経済活動の再開という需要爆発があったが、今後はその効果は鈍ってくる。金融政策からの刺激は解除される。第4に10年国債のブレークイーブンインフレ率(市場が推測する期待インフレ率)でみると、直近ピークの2.75%(21年11月15日)から12月17日には2.37%まで低下した。第5にバイデン政権にはトランプ関税を引き下げることでインフレ抑制に動けるカードがある。とくに製造業からは関税引き下げに抵抗が強いとされるが、引き下げ品目を限ることで対応できると見込まれる。

注意が必要なのは、人手不足の深刻化が賃金上昇を引き起こし、スパイラル的に物価が上昇することである。今後、賃金→物価上昇のスパイラルが抑えられていれば、22年後半にインフレの見方が落ち着くだろう。22年8月下旬のジャクソンホールでの講演でパウエル議長の正常化を急ぐ強硬姿勢が和らぎ、金融政策の方向転換表明もあり得よう。これは年後半の米株式市場にとってかなりハッピーなシナリオになる。

さて新春恒例の干支と経済、株式市場の関係を見てみよう。2022年は十二支でいうと「寅年」、十干では9番目の「壬」となり、干支は「壬寅(みずのえとら)」。「壬」は女性のお腹に子供を宿す「妊」の一部であることから「はらむ」「生まれる」という意味。「寅」はもともと「演」が由来といわれ、「人の前に立つ」、演と同じ読みの「延(えん)」から「延ばす・成長する」という意味をもつ。この二つの組み合わせで「壬寅」には「新しく立ち上がること」や「生まれたものが成長すること」といった縁起の良さを表しているといえる。

ただ、寅年の株式市場は残念だが冴えないことが多い。1950年以降で、年末比較で見た虎年の勝敗は1勝5敗と十二支中最低で、平均騰落率は同+1.8%と午年(同▲5.0%)、丑年(同▲0.1%)に次いで悪い。「寅年」は米国の中間選挙と日本の参議院選挙が重なる年に当たる。とくに米国の中間選挙は与党が議席を減らすことが多く、大統領サイクル4年のなかで中間選挙の年は最もパフォーマンスが悪い。

日本の景気との関連では寅年は不況が絡む。1974年は石油危機を受け戦後初のマイナス成長。86年は円高不況。98年は74年以来2度目のマイナス成長だった。景気後退期が多く、2010年は世界金融危機後の回復局面にあったが、民主党政権のもと1ドル=80円の円高で年後半の景気は「踊り場」だった。ただし、22年はコロナ禍からの本格回復が期待され、過去とは異なる展開となりそうだ。

過去の寅年は景気も相場も冴えないが、その後ろの年からパフォーマンスが好転していく。相場格言に「辰巳天井」とあるように辰年の騰落率は十二支中最高だ。また平成バブルのピークは巳年だった。寅年は値固めから飛躍の直前に当たる年回りのようだ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」でリスクを負わねば成功はつかめない。リスクをとって実のある年にしたい。

注目銘柄はトヨタ、デンソー、豊田通商。ダイキンの今22年3月期は営業利益の最高益更新が見込まれる。塩野義製薬は新型コロナ治療薬とワクチン開発に注目。車載ディスプレイやリチウムイオン電池などニッチなハイテク材料が高成長しているデクセリアルズに注目したい。

(1月7日 記)

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