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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2021年12月31日
雇用から物価重視に転じたパウエルFRB議長の真意はどこに。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、2021年11月30日の米上院委員会での議会証言で量的緩和の縮小(テーパリング)加速を示唆し、FRBのタカ派化を鮮明にした。同時に、インフレ率が高いのは「一時的」としたこれまでの判断をあっさり撤回した。FRBは2020年8月に「平均インフレ目標」を導入、インフレよりも雇用の最大化を最重要課題に位置付けた。だからこそ高インフレを「一時的」と繰り返し、利上げを急がない姿勢を貫こうとした。

2021年8月のジャクソンホール講演で、パウエル議長は5つの論拠を挙げて、改めてインフレは「一時的」と説明した。すなわち①インフレは一部の品目であること、②需給のミスマッチは時間とともに解消、③賃金上昇は見えていない、④期待インフレは落ち着いている、⑤ディスインフレ圧力を変える構造の転換材料は得られていない、である。このうち⑤のディスインフレ構造の転換材料以外の論拠は崩壊しつつある。いつまでもこの言葉に縛られると、後々に急激な引き締めに追い込まれ、雇用の最大化どころか景気を腰折れさせる「ワーストシナリオ」に陥りかねない。「一時的」との表現を撤回した背景には、インフレ見通しの間違いを素直に認めることで政策対応が後手に陥るリスクを回避、「意図ある先行的な政策発動」への転換に踏み切ったと考えられる。

FRBメンバーのなかで最もハト派に位置付けられるパウエル議長が豹変した背景には、物価高が政治的に許容できない状況になってきたこともある。11月23日にバイデン大統領がパウエル氏の再任を発表した際の声明では「物価安定」を第一に挙げた。連邦準備法の順番は「物価安定」よりも「雇用最大化」が優先されるが、大統領は「物価安定」を次期FRB議長の最大の命題に挙げたわけだ。FRBがインフレ指標として最も重視するPCE(個人消費)デフレータは10月にエネルギーと食料品を除いたコア指数で前年同月比4.1%も上昇するなどFRBが目標とする「2.0%」を大きく上回っている。物価高は国民の生活を直撃し、不満の矛先はバイデン政権に向けられている。最近の米世論調査平均ではバイデン大統領の支持率は42%前後と大統領就任直後の約56%から急落している。今が投票日なら民主党は大敗という状況にある。議長再任命を受けたパウエル議長の声明もインフレ抑制に重点を置く内容となった。

 

米金利上昇は限定的、大勢上昇トレンドに変化なし、銘柄選別が重要。

 

FRB議長の再任命後の米金融市場では金融政策正常化シナリオの修正を迫られ、一時動揺した。FF金利先物市場では22年の利上げ回数が「1.5〜2.0回」から一時「2.8〜3.0回程度」に引き上がり、史上最高値圏にあったNY株式市場は11月26日に急落。ダウ30種平均は前日比905ドル安と21年で最大の下落幅を記録した。

債券市場で影響力を持つ元ピムコ最高経営責任者(CEO)のモハメド・エラリアン氏は早くから「インフレ高進は一過性のものでない」と警鐘を鳴らし、11月29日のブルームバーグの報道では「22年になってブレーキを強く踏み込むよりも、今からアクセルを徐々に緩める方がずっと簡単だ」と述べている。エンジンブレーキが徐々に効いて高インフレの抑制と、巡航速度での景気拡大が続くと市場が解釈すれば、企業業績の拡大とともに株高トレンドの長期化を促すことになろう。パウエルFRB議長のタカ派姿勢への転換はインフレ抑制に対して後手に回りかけた対応を「先手」に引き戻したとして評価できる。

株式の値動きが大きくなった背景には、ここ1年間の大幅な資金流入も影響している。ニューヨーク株式市場で主要3指数は11月に入り史上最高値を更新した。米バンク・オブ・アメリカと米EPFRグローバルの試算によると、21年に上場投資信託(ETF)など株式ファンドに流入した資金は11月までで8,930億ドル(約100兆円)と過去19年間の合計7,850億ドル(約88兆円)を超えた。運用難で多少割高感があっても、ファンドマネジャーは株式に資金を振り向けざるを得なくなっている。全米個人投資家協会(AAII)が調査する投資家センチメント調査(11月第2週時点)は「強気」から「弱気」を差し引いた指数が「24」と20年2月のコロナ禍以降で4番目に高い数値となっている。ちなみに2000年以降、21年間のデータで投資家が強気一辺倒(同指数がプラス1シグマを超える局面)となった後は、短期的に株価がピーク圏にあることが多い。

この先、投資家が本当に警戒しなければならないのは、引き締めが早すぎて景気後退が視野に入る時だ。長短金利(米10年国債利回りとFF金利誘導目標)の逆転がそのサインとなる。長短金利の逆転は景気に先行し、金利差逆転から数カ月後に経済指標が景気後退を示すことになる。なお11月のISM景況感指数は製造業で61.1、非製造業に至っては69.1と統計開始後の最高を更新しており、景気変調の兆しは微塵もない。

FF金利が米10年国債を上回るためには、利上げが段階的に進むと同時に、債券市場では債券が買われ、10年国債利回りが低下していくことで実現する。10年国債利回りは21年7月に1.2%台まで低下したが、現在は1.4%台だ。FF金利はFRBが0.25%ずつ5回引き上げてようやく1.25%になる。仮に、22年に3回の利上げを想定しても長短金利の逆転は早くて23年頃だろう。先般の株価急落は景気の変調を感じ取ったのではなく、金融正常化に対するマーケットの「シナリオ」が修正されたことで市場のボラティリティが一時的に上昇したことが要因だ。ただし、米VIX指数は11月の高値30ポイント程度から12月8日には20ポイントを下回ってきた。今後オミクロン株の感染拡大次第では利上げ観測が後退し、再び株式市場に資金が回帰する可能性も十分ある。

現時点の米金融政策のシナリオは①テーパリングは22年前半に終える、②22年6月より9月、12月と四半期ごとに0.25%ずつ3回の利上げ、③今回の利上げサイクルでFF金利の天井は前回(2.25〜2.50%)よりも低い、④FRBはバランスシートの規模縮小(QT)には消極的、⑤米長期金利の上昇は限定的。このシナリオでは日米の株式市場に大きな影響を与える可能性は小さく、大勢上昇トレンドは崩れないだろう。ただし、銘柄選別が重要になる。

銘柄選別は業績を重視したい。直近3ヵ月内に過去10年来の高値を更新している銘柄のなかで、今期から来期にかけての予想ROEの改善幅が上位10位内にあるOLC、レーザーテック、アドバンテスト、塩野義製薬、デンソー、味の素、協和キリン、トヨタ、HOYA、シスメックスに注目したい。

(12月15日 記)

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