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マーケット見通とポイント

2021年11月5日
テーパリングは11月にも開始、当面は強すぎるアクセルの緩和にとどまり、景気拡大は長期化

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、今後の金融政策正常化に向けた道筋を示した。全体から読み取れるシナリオは、①次回11月のFOMCでテーパリングを決定、月内に実施も(FOMC声明文より)、②テーパリングは22年央までに終了(パウエル議長の記者会見)、③22年末から利上げ開始、④ドットチャート(FOMCメンバーが予測する金利水準の分布図)が示唆する政策金利は24年末で1・75%である。素直に読めば、一段とタカ派的な色彩が強まった。例えばテーパリング開始から終了までに前回の2014年は10カ月(1〜10月)かけたが、今回は恐らく6〜7カ月ほどに短縮されるイメージである。

米国ではコロナ禍で多くのサービス業労働者が職場復帰に慎重で、人手不足から賃金の上昇圧力が強まっている。金融当局としては強すぎる緩和のアクセルを緩めたい意向がある。一方、ドットチャートを素直に見れば、従来よりも遅い利上げペースとなりそうだ。仮に、22年末から利上げがスタートして、従来の利上げサイクルで見られたように毎四半期ごとに0.25%ずつ利上げを実施したとすると、24年末の政策金利2.25%となる。しかし、ドットチャートが示唆する24年末のFF金利の誘導目標は1.75%にすぎず、フルに利上げした場合よりも2回程度低く想定されている。利上げが始まっても、金融環境が急速に引き締まる可能性は低い。

強すぎるアクセルの緩和は景気拡大を長期化させる。当面、市場全体の大きなトレンドは崩れないと見てよいだろう。もっとも、足もとでは不確実材料が多く、今後の経済状況次第ではテーパリングのペースや第1回目の利上げ時期、その後の利上げペースに大きく影響する可能性がある。不確実材料とは①米雇用情勢、②2人の米連銀総裁の辞任問題、③中国経済の減速である。

パウエルFRB議長は利上げ時期について、テーパリング開始よりも厳格な基準を用いて判断すると述べている。この点で議長が最も重視する労働市場では、足もとの米雇用者数(8月)は直近のピーク時から533万人も下回る水準にある。前回のテーパリング開始を決定した2013年12月よりも直前ピークからの未就業者数は3倍近く多い。非農業部門の新規雇用者数が過去6カ月(3〜8月)の平均である毎月65万人増ペースで増えれば22年5月にもコロナ前のピークに達するが、急減速した8月(前月比23.5万人増)並みの増加ペースならばピーク達成は23年6月頃までかかる。また感染症の再拡大で、秋以降の雇用回復が当初の予想よりも遅れる可能性をパウエル議長は記者会見で指摘している。利上げ開始時期の判断については、雇用の回復状況を重視するとみられ、政策金利見通しも幅を持ってみる必要がある。

 

見過ごせないコロナ禍の影響、中国政策による景気悪化は長続きせず

 

労働市場回復の遅れは緩和の長期化を示唆するが、注意を要するのはインフレの主因が経済過熱というよりも感染症による側面が強いことだ。米国では経済活動が徐々に正常化しつつあるが、労働者が職場復帰に慎重なままでは、経営者は賃金を上げざるを得ない。直近3カ月の平均賃金上昇率は前年同月比で4.0%だが、この傾向が長期化するとインフレに直結し、利上げが後手に回るリスクもある。また製造業のサプライチェーンの目詰まりや世界的な物流の混乱も新興国の新型コロナワクチン接種の遅れが原因だ。現在のインフレを抑えるために必要なことは、米国の引き締め以上に新興国のワクチンの普及やコロナ治療薬の実用化がカギを握っているといえる。

米国のボストンとダラスの2つの地区連銀総裁は9月27日、相次いで退任すると発表した。ボストン連銀のローゼングレン総裁は9月30日付、ダラス連銀のカプラン総裁は10月8日付で任期途中に退任した。最近の資産公開によって、株式など金融資産の多額の取引を繰り返していたことがわかり、世論の批判が巻き起こった。偶然にせよ、タカ派色の強い2人が退任することになる。後任の人事にもよるが、FRB内部の「ハト派とタカ派のバランスの変化」は市場の見方に影響を与えよう。FRBの信頼に関する問題がこの辞任で決着し、パウエル議長再任の障害が一つ取り除かれたという見方もある。

中国の国家統計局が9月30日に発表した9月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.6と1年7カ月ぶりに好・不況の境目の50を割り込んだ。原材料価格の高騰と電力不足が中国の製造業を圧迫し続けていることが要因だ。このうち電力の供給不足が製造業の活動の制約となり、経済減速の原因となるのは中国がWTOに加盟し、高成長を遂げた2001年以降では経験のない事態だ。9月末時点で全国の約3分の2の地域で電力供給が制限された。操業停止などで、電力消費量の多いセメントや鉄鋼の生産が落ち込んだ。米アップルや電気自動車テスラに部品を供給するメーカーなどの工場も操業停止に追い込まれたという。電力不足の要因は、第1に石炭価格の高騰により、電気料金を統制されている電力会社の採算悪化で供給を絞り込んでいること、第2に中国政府が「二酸化炭素の排出量を30年までにピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにする」という目標を打ち出したことだ。来年の冬季北京五輪(2月4日〜22日)を控えた大気汚染対策の側面もあるだろう。中国経済の停滞色が強まれば世界経済はエンジンを失うことになりかねない。中国発のショックが世界経済の減速に発展したケースは2015年夏のチャイナショックが有名だが、この時も米金融政策の出口戦略に影響した。22年秋に共産党大会を控える中国政府は政策要因による景気悪化を放置しないとみられる。影響は長期化しないとみるが、米金融政策になおいくつかのハードルがあることは認識しておきたい。

グローバルな石炭価格が値上がりしており、三菱商事に注目。中国政府は20年10月、豪州産の輸入を事実上停止した。三菱商事は豪州に原料炭の資源権益を持ち、国際市況の回復はメリットとなる。9月上旬の豪州価格300ドル/トン(年初は100ドル)を前提にすれば、同社の今22年3月期の税引き後利益は会社計画(3800億円)を大幅に上回る6700億円と過去最高利益を大きく更新する可能性がある。サービス業では、LINEとの統合などによる広告・コマース事業が業績を牽引し、 売上収益が1Qで過去最高となったZHD、外需関連では、自動車の生産抑制はあるものの、今後挽回の可能性があるトヨタとデンソー、アルミ電解コンデンサの需要が強い日本ケミコンなどに注目したい。

(10月15日 記)

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