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マーケット見通とポイント

2021年9月30日
米のテーパリングは近づいたが、金融緩和基調は続く

米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和策は出口が秒読み段階に入ってきた。ただ、最初に始まる資産買入れの縮小(テーパリング)は引き締めではなく、緩和の縮小である。FRBのバランスシートは8月末に8.2兆ドル超(1ドル=110円換算で約902兆円)まで膨らんだが、相当の期間、現状の規模を維持することで緩和基調そのものは続く。株式市場には追い風が続く環境には変化がないことを強調しておきたい。
テーパリングやその後の金融政策を探るうえで注目された8月のジャクソンホール会議のパウエル議長講演のポイントは以下の4点である。第1に雇用は回復しており、雇用最大化について見通しは良好、第2にインフレ率の上昇は懸念されるが、一時的な面があり、今後データを点検していく、第3に雇用、物価の安定を受けて年内のテーパリング開始は妥当、第4にテーパリングと利上げは結びつかず、緩和状態は維持される、などだ。パウエル議長は年内のテーパリング開始に言及し、FOMC内の圧倒的多数派が支持した見解に寄り添った。しかしテーパリングの進め方、その後の利上げに続く正常化への道筋についての情報発信はなかった。

一連の流れを分析したメガバンク系のFedウォッチャーは、9月のFOMCで告知を行い、11月のFOMCでテーパリング実施の日程が組まれると見ている。年内に開始するには11月に政策として決定する必要があるためだ。ただし、連邦政府の債務上限引き上げ問題、来年2月に任期がくるFRB議長人事といった不確実性要素がある。
米国のインフレ加速が一時的で今後は鈍化していくという現在の「メインシナリオ」に沿って考えれば、投資家が恐れている「早期かつ急激な引き締め」は実施される可能性は低い。
この「近い将来の急速な利上げ」がないなら、米国の景気後退入りや株式市場の弱気相場入りなどのリスクを現時点で過度に意識する必要はないだろう。過去の例では①FRBの利上げが着々と進むなかで、②「米国の景気後退のサイン」とされる長短金利の逆転が生じ、③失業率が底を打った後に米国の景気後退が訪れている。②の長短金利の逆転はFRBが断続的に利上げを進めていくなかで引き締めの最終局面で起きる。6月のFOMCで開示されたドットチャートでは23年に2回の利上げが示唆されているので、長短金利の逆転は早くて24年以降と考えられる。想定外のインフレでもない限り、多少の波乱はあっても株式市場に対しては引き続き強気スタンスで良いだろう。

デルタ株の感染拡大などが不安要因だが、金利上昇→株高へ。

年末に向けての注目指標は米長期金利である。米10年国債利回りは、原油高によるコストプッシュ・インフレ、それと半導体やコンテナ不足などに起因するボトルネック・インフレを懸念し、今年3月に1.74%まで上昇したが、8月には1.1%台に逆戻りした。金利上昇に備えた投機筋の売りポジションの巻き戻しや過度なインフレ懸念が薄らいだと解説されているが、デルタ変異種による中国と米国の景気減速懸念が大きく影響していると思われる。

8月31日に中国国家統計局が発表した8月の購買担当者景気指数(PMI)は製造業で7月から0.3ポイント低下の50.1と5カ月連続で悪化。サービス業のビジネス活動指数は政府の行動制限などが影響して47.5と同6ポイント近くも悪化し、20年2月以来の水準に低下した。中国のメディア、財新とIHSマークイットが9月1日に発表した中国の8月製造業PMIは49.2と1年4カ月ぶりに好不況の境目である50を割り込んだ。感染再拡大が主に中小企業の経営を直撃しているという。

米国でも、8月のミシガン大学消費者信頼感指数は70.2と、2011年以来、約10年ぶりの低水準となった。7月の確報値81.2から大幅に低下し、ここ50年で3番目に大きな落ち込みとなった。8月31日に発表された8月の米コンファレンスボード消費者信頼感指数は113.8と市場予想の123を下回り、6カ月ぶりの水準に低下した。米長期金利が急ピッチで低下した背景には、感染再拡大を背景とした米中の景気減速がグローバルな需要を低下させることを織り込んできた可能性がある。

「世界の景気敏感株」の異名がある日経平均株価は、米長期金利の変動に影響を受ける。米長期金利の低下は8月上旬まで株価が低迷した日本市場の最大の悪材料だったといっても良い。しかし行動制限の効果やワクチン接種の進展で感染が収束すれば、早晩米中の景況感は勢いを取り戻すだろう。景況感が再び回復して米国のテーパリングのスケジュールが明らかになれば、米国の長期金利には再び上昇圧力がかかると見るべきだろう。年末には2%程度まで切り上がると見るエコノミストもいる。日経平均が今後、強いと見る最大の要因だ。

問題は金利上昇のスピードである。13年5月のバーナンキ・ショックのように急激な金利上昇は新興国の為替や株式市場に影響し、日本株も影響を受ける。米金利上昇のスピードが早いかゆっくりかで資産価格にどう影響を与えたか。JPモルガンアセットは、過去5年間のうち米10年国債利回りが「短期間に上昇」(4週間で0.3%以上の上昇=サンプル数は13)した局面と、「緩やかに上昇」(4週間で0.3%未満の上昇=サンプル数は117)した局面のリターンを調べた。まず「短期間で大幅」に上昇した局面には今年の2月下旬から3月にかけての金利上昇も含まれるが、このような局面では、米国国債にとどまらず、世界株式では新興国株式やグロース株式、生活必需品、公益事業、ヘルスケアといったディフェンシブセクターが下落する傾向がある。反面、金融セクターやエネルギー、資本財、素材、スタイル別ではバリュー株が買われている。地域別では日本株が米国株式よりも値上がりをする傾向がある。ただし、こうした金利の短期的上昇は短期波乱で終わると捉えれば良いため、長期投資家であれば過度な懸念は不要かもしれない。

一方、米長期金利が「緩やかな上昇」であれば日米の株式市場、セクター別では情報技術や金融、スタイル別でグロース株とバリュー株といった、米国国債を除く多くのリスク資産が上昇する傾向がある。とくに日本株はどちらのパターンでも買われていることが注目される。日本株は米金利の低下局面では売られやすい資産であり、金利上昇局面では買われる資産と言える。
9月は有望銘柄を仕込むチャンスと言える。積層セラミックコンデンサで世界的な村田製作所、シリコンウエハと米塩ビ子会社が堅調な信越化学、ハイテク材料が伸びるADEKA、ガンダムのプラモデルなど大人向けホビーが国内外で拡大しているバンナムHDに注目したい。
(9月15日 記)

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