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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2021年8月1日
米国の出口戦略は不透明要因だが、前例があり、心配無用、ハイテク成長株が物色の柱

グローバルな金融政策はすでにカナダ、英国で金融緩和の調整が始まっている。そして米国でもFRB(連邦準備制度理事会)が6月のFOMC(連邦公開市場委員会)で出口戦略の模索を開始したことで、新型コロナへの緊急対応から正常化に向けた動きが始まった。市中に存在するマネー流通量に関わる重大なテーマであるため、投資家の不安心理は高まり、株式市場は不規則な動きを繰り返すだろう。

ただ、今回の政策には前例がある。しかもパウエル米FRB議長は、「バーナンキショック」の13年当時、FRB理事として資産買入れ縮小(テーパリング)の舵取りをした中心メンバーの一人である。また現財務長官のイエレン氏はFRB副議長(2010年〜)、FRB議長(14年〜)として出口戦略のすべてに関わってきた。この二人はマーケットにも精通しており、政策を間違う確率はかなり低い。むしろ慎重すぎてバブルが拡大するリスクがないとは言えない。前回の出口戦略の経緯を参考にしながら、どこにポイントがあるか、何に注意すべきか考えてみたい。

まず、当面、市場の関心事はテーパリングの開始時期とその方法にある。スケジュールでは7月に予定されるパウエルFRB議長の議会証言や8月のジャクソンホールでの経済シンポジウムで、FRB内での議論の一端が明らかになる可能性を市場は織り込み始めている。FRBは次の行動までに、「複数回」の会合(FOMC)で情勢評価を行うとしている。FOMCは通常、次の会合で政策決定を示唆するので、テーパリングの決定は7月27〜28日、9月21〜22日のFOMCで評価し、その9月のFOMCで次回会合での決定を示唆したとしても最短でも11月2〜3日の決定ということになる。ところが11月のFOMCは経済見通しの公表はないので、恐らく12月のFOMC後にテーパリングを発表し、22年1月から実施という日程が想定される。この日程どおりと仮定すると、前回のテーパリングの13年と発表する月が偶然同じとなり、参考になる。

13年の米経済はシェールガスブームもあり、景気は順調に回復傾向を示していた。そしてグラフ1にみるように、13年5月、バーナンキFRB議長は持続的な回復を示す米雇用市場を背景に議会証言で”近い将来の量的緩和の縮小“を示唆した。しかし、12年9月に開始したQE3から1年足らずの縮小観測は、後に「テーパータントラム」(量的金融緩和の縮小=テーパリングに対する懸念によって金融市場がかんしゃく=タントラムを起こしたように混乱すること)と呼ばれる暴力的な値動きを米金利市場や新興国の通貨市場にもたらした。米金利の上昇は13年9月まで続き、米10年国債利回りは1.6%台から3.0%台まで1%を超す金利上昇となった。結局、FRBは「財政の崖」懸念でしばらく緩和縮小開始を躊躇していたが、13年12月に毎月100億ドルの資産買入れ縮小を発表し、14年1月から実施した。その後も会合ごとに縮小を進め、14年12月に資産買入れは終了した。これと同じ時間軸を今回に当てはめれば、今回は22年12月にテーパリングは終了することになる。

13年を教訓にした出口戦略のポイントをキーワードで示せば政策は「段階的、慎重に、かつ時間をかけて進める」ことである。パウエルFRB議長はこうした経緯を承知しており、マーケット、とくに米長期金利の動向に細心の注意を払い、政策を慎重に進めることは間違いない。

 

雇用重視のFRBは、利上げ局面でも総資産は高水準を維持する見通し

 

グラフ1の13年以降の日経平均と米S&P500種株価指数にみるように、13年5月のバーナンキショックは米S&P500種への影響は限定的だったが、米金利上昇と新興国通貨の急落を受けて日経平均はわずか1カ月足らずで20%以上も急落した。またバーナンキショック(13年5月)から最初の利上げ(15年12月)までの日経平均は米国株よりもドル・円相場に連動している。欧州債務危機を受けた1ドル=75円(2011年)の未曾有の円高で体力を消耗した重要企業の業績は為替変動に極めて脆弱だったといえる。

そして15年年央から16年半ばにかけて日米の株式相場並びにドル・円相場が急落している。中国経済の減速を予見して上海総合指数が15年6月の高値から16年1月の安値まで約50%も暴落し、原油先物価格は14年の高値1バレル=105ドルから16年2月の安値まで約75%も暴落するなどマーケットが世界的に大混乱した。15年後半には中国経済が大幅に減速、米国経済にも急ブレーキがかかった。例えば米ISM製造業景況感指数は16年2月までの4カ月間、好不況の分岐点である50を下回っている。こうした世界経済の情勢のもとでFRBがリーマン・ショック後の最初の利上げに踏み切ることへの懸念が広がったことも悪材料視された。

グラフ2は米国の金融政策と株式市場の相場局面を示している。15年12月にFRBの利上げが開始されると、米国株式はいち早く切り返しに転じ、段階的な利上げとともに18年12月の最後の利上げまで株価は右肩上がりで推移した。QE1、QE2、QE3の相場はカネ余りによる「金融相場」だったが、16年以降の株式市場は利上げを乗り越えて力強く上昇した。景気拡大、業績回復を評価した「業績相場」だったといえる。ここでFRBの総資産は19年以降、徐々に縮小していくが、FRBが利上げを段階的に進めている期間は高い水準が維持されていることがわかる。米景気の拡大で企業業績が成長を続けるなかでも、金融面からマーケットをしっかりサポートするとしたFRBのメッセージと受け止められる。このことは、今回の出口戦略でも引き継がれなければならない極めて重要なポイントである。前回のFRBの出口戦略の教訓を踏まえると、注目すべき指標は米長期金利と為替相場、とくに新興国市場、グローバル経済では中国と米国経済に変調がないか、最後にFRBが総資産の縮小を急がない姿勢、などである。

今のところ米国および中国経済が年後半から来年にかけて大きく失速するリスクは小さい。パウエル議長が前回の経験を踏まえてマーケットとの対話を重視して慎重に政策を進めることを前提にすれば、米長期金利並びに為替相場も極端な変動は考えにくい。最初の利上げが意識される頃に株式市場は金融相場から業績相場への移行期にあたる「中間反落」がありそうだが、FOMCによる利上げ見通しは23年とまだ先である。

当面のリスクは、やはりインフレ動向である。4月以降、FRBの主流派にとって大きな誤算となったのは、今回の景気後退後の平均インフレ率が2%になるとみられる時期が従来の24年以降から21年中に前倒しされたこと、二つ目に足もとのインフレ率が急上昇したことで長期インフレ期待が上昇してしまい、一時的であるはずのインフレが高止まりするリスクが台頭したことだ。しかし、“インフレに問題がない限りはマイノリティの人々や低所得者層にも十分な雇用の増加がみられるまで緩和を続ける”という雇用を最重要視しているFRBの姿勢は現在も変更されていない。インフレは一時的であるという見方がメインシナリオであり、FRBが23年後半よりも前に利上げに動く可能性は小さい。こうしたことから年後半はハイテク成長株が注目されやすいと考えられる。7月下旬から始まる4〜6月期決算の発表を前に原材料費などコストアップ要因が意識されるが、ソフトウエア・サービスなど情報技術セクターはこうした影響を受けにくく、保有に安心感があるだろう。

日本株への影響という点では米長期金利と新興国通貨、中国経済の変調の有無を注視する必要がある。物色の中心はハイテク成長株になるが、大苦戦を強いられてきた内需関連の対面型サービス業も、遅れていたワクチン接種が加速しており、業績回復期待から株価復活が期待される。成長期待株では村田製作所、太陽誘電、TDK、富士通、トヨタ自動車、内需関連では6月にアナリストコンセンサス(業績予想)が引き上げられたサントリーBF、7&I-HD、しまむらなどに注目している。

(7月15日記)

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