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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2021年7月2日
行き過ぎた米インフレ懸念、東京市場は3つの材料から転換点が近い。

米国のインフレ指標が注目されるなか、FRBの金融政策が後手に回る懸念から株式投資家は上値追いに依然、慎重な姿勢になっている。しかし、5月20日に公表された4月のFOMC議事要旨を受けて材料出尽くしとなり、それまで調整色を強めていた米グロース株が上昇に転じた。逆に、エネルギーや素材といった景気敏感株が下落に転じたことからFRBによる過度な引き締めに対する市場の懸念は一旦峠を越えたといえよう。

一方、国内では製造業を中心に景気回復力が強まっているが、ワクチン接種と東京五輪、衆院解散・総選挙の3つの材料がリンクしており、当面の買い手控え要因となっている。このうち東京五輪は「中止の可能性」という悪いシナリオが既に織り込まれているうえ、東京五輪も、衆院選も期限が決まっているため、株式相場の転換点が近づいていると考えられる。

米金融市場のムードが変化したのはいくつか理由がある。第1に、5月28日の4月米コアPCE(個人消費支出)価格指数発表後の米金融市場の反応だ。同指標はFRBが公式にインフレ目標の基準として最重要視しているが、4月は前年同月比+3.1%とFRBの目標(+2.0%)や事前の市場予想(同+2.9%)を上回った。しかし、米債券市場では長期金利が前日比低下(債券相場は上昇)、ナスダック総合指数はプラスで反応した。コアPCE価格指数の上昇は経済再開によるペントアップ(繰り越し)需要の高まりと、供給制約による一過性のものであることに加え、前年対比のベース効果によるところが大きく、一時的な上昇であることはFRBも指摘している。この意味で、今回の結果は想定内といえ、金融政策の変更を促すものではないといえる。もう一つの政策判断材料である米労働市場も改善傾向にあるが、4月と5月の雇用者数が市場予想を下回るなど改善度合いが定着したとはいえない。金融政策を巡る市場の懸念は行き過ぎだったようだ。

FRBの政策への信頼感が回復すればテーパリングの議論を市場は受け入れることができる。前回、テーパリングの議論が起きた2013年の米10年国債利回りの動きをみると、FRB議長がテーパリングを示唆してから金利が急上昇したが、買い入れの縮小を開始した以降は金利の低下傾向が2年以上にわたり続いた。今回もマーケットに対して正しいメッセージを発信し、FRBがインフレに対して適切な対応をしているとの見方が強まれば、過度な金利上昇を引き起こさない可能性が考えられる。

 

中国もインフレ対応、ワクチン接種の進展は日本株に好材料。

 

市場のインフレムードを変えた第2の理由は、中国当局による投機筋への牽制だ。極端なカネ余りと中国のインフラ投資など旺盛な需要拡大を背景に、年初から鉄鉱石など国際商品価格が高騰していた。純粋な需給バランスだけでなく、一部に投機的な動きが強まっていたため、5月10日に中国大連商品取引所が鉄鉱石先物の必要証拠金と値幅制限の引き上げを発表した。12日には中国国務院が商品価格の動向を「監視しており、適切に対応する」との声明を公表した。25日には国家発展改革委員会が第14次5カ年計画の期間(21〜25年)中に主要商品価格の統制を強化し、鉄鉱石や銅、穀物などの急激な価格変動に対処する計画を発表した。国際商品の高騰が沈静化すればインフレ心理も和らぐと見られる。5月27日に対米ドルの人民元相場が一時1ドル=6・37元と3年ぶりの元高水準に上昇し、上海総合指数が2月以来3,600台を回復するなど、インフレに対する中国当局の対応が評価されているものと思われる。

それでも、コロナワクチン接種の進展で世界的に経済活動が正常化する過程で、引き続きインフレ指標への注目は続くと見られる。しかし、一時的とみられる要因が多く、当面は高めの数字が出てもシグナルではなくノイズと捉えるべきと考える。その際に、株式市場にとって重要な企業の利益見通しに変化の兆候がないかを確認したい。ポートフォリオとしては長期成長期待の高いハイテク株への投資に加え、インフレ感応度の高いエネルギーや素材株、金利感応度の高い金融株をポートフォリオに組み入れるなど投資対象を分散しておくことが重要だろう。

米国ではワクチンの接種率が5月末で50%を超えた。コロナ禍で抑制されていた経済活動の加速が明確になりつつある。日本でも欧米と比べて出遅れていたワクチン接種が加速し始めた。5月31日時点のワクチン総接種回数は医療従事者などが705万回、高齢者などが約354万回と全体で1,000万回を超えた。菅首相は5月28日、6月中旬にも1日当たり100万回のワクチン接種を目指すと表明した。エコノミストの試算では仮に1日100万回の接種が継続的に実施される場合、米国並みの接種率50%を達成するのは9月中、「1日70万回」のケースでは11月中と見られる。欧米では1回目ワクチン接種率が20%を超えたあたりから、企業収益の上方修正が強まった。足もとの日本の接種率は10%以下だが、普及が一段と進展すれば日本株の好材料となろう。

今年任期を迎える衆議院議員の選挙日程が、任期満了(10月21日)での衆院解散・総選挙か、それとも菅首相が積極的に衆院解散に打って出る総選挙か、今後のワクチン接種の進展度合いがカギを握っているといえる。同時に、マーケットの一部で東京五輪中止がリスクとして意識されている。ただ、準備段階の設備投資が既に完了していることや、外国人観戦客の入国拒否や五輪開催イベントの中止や縮小が既に発表されていることを考慮すれば、東京五輪が中止されても実体経済へのインパクトはそれほど大きくないと考えられる。ただし、新型ウイルスによる五輪中止は一時的にせよマーケットの心理を冷やす可能性がある。また、事実上の公約を実現できなかったとして菅首相の退任問題などに発展した場合の政治リスクを、海外投資家は警戒している。仮に、無観客でも東京五輪が開催されれば、ワクチン接種の進展とともに政治リスクの後退から日本株の買い材料になると考えられる。

参考銘柄として、外需関連ではスマホや車載向けにセラミックコンデンサが拡大する村田製作所、マリン事業が密回避レジャーとして人気が高まっているヤマハ発動機、半導体不足を背景にしたシリコンウエハの好調と米住宅需要拡大に伴い米国の塩ビの子会社の業績が好調な信越化学。内需関連ではガンダムのプラモデルやコレクターズフィギュアなど、国内外で拡大しているバンダイナムコHD、ワクチン接種の進展でコロナ後の入園者数の急拡大が期待されるOLCなどに注目したい。

(6月11日記)

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