マーケット見通とポイント
ワクチン接種の進展で経済正常化の入り口が見えてきた。2月27日には米下院で総額1.9兆ドル規模の新型コロナウイルス対策法案が民主党単独で可決。3月中の対策発動が現実的なものになった。米債券市場では同法案の下院可決の前から長期金利が上昇ピッチを早め、2月25日には一時1.61%まで上昇(終値は1.52%)、ニューヨーク株式市場ではダウ30種平均が2月25、26日の2日間で1,000ドル超下落するなど市場のボラティリティが上昇してきた。
今後数ヵ月間は投資家にとって事態の変化をより強く意識せざるを得ない時間帯となる。具体的には、①経済活動の制限解除や大規模な景気刺激策を受けた経済、企業業績の行方、②供給制約が残り、需要が顕在化してくるなかでのインフレ動向、③景気回復を織り込む米国の長期金利の上昇ペース、である。投資家が注目するこれらの変化は株式市場のボラティリティを上昇させるが、新たな景気拡大サイクルに入る大きな流れを重視し、短期的な調整局面はむしろ投資のチャンスとなろう。
米長期金利が最も強く影響を受ける指標は物価である。1月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比プラス1.4%と1%台前半の低い上昇率に留まっているが、企業間の物価指数である1月の卸売物価指数は前年同月比プラス2.0%と市場予想の同プラス1.1%を大幅に上回った。コロナ禍で一部の耐久財では需給がひっ迫し、中国のインフラ投資や自動車生産の増加で国際商品市況が高騰。ロックダウンや行動制限に伴う輸送能力の低下、感染拡大に伴う人員不足といった悪材料が重なり、企業の投入コストが上昇した。いわゆるボトルネック的なインフレ圧力である。実際、米企業が生産する過程で使う中間財の価格は昨年12月の前月比プラス1.2%から1月は同プラス1.8%と大きく上昇した。さらに、昨年春の個人消費支出(PCE)の価格指数の水準がコロナショックの影響で低くなったこともあり、前年比で見たインフレ率は4〜6月期に2%を超えることが予想される。
金融市場でもインフレ動向が最大の関心事となっている。米長期金利(10年国債利回り)は1月末の1.062%から2月25日には1.52%まで上昇した。メディアが報じる長期金利は名目金利であり、名目金利は「期待インフレ率」と「実質金利」の和で算出される。長期金利はコロナ後最低の0.50%をつけた昨年8月から今年1月末までの上昇分のほぼすべてが期待インフレ率の上昇(2月16日に2.24%)に伴う金利上昇だった。期待インフレ率の高まりによる金利上昇は経済にさほど問題にはならない。企業の売上高や労働者の賃金も上がるため金利上昇の負担感は小さく「良い金利上昇」といえる。金利上昇が期待インフレ率の上昇によってもたらされたことで、実質金利(名目金利−期待インフレ率)はマイナス1%程度とマイナス圏で推移し、株式市場にとって強い追い風となった。
ところが、期待インフレ率がピークを付けた2月17日以降は実質金利が名目金利の上昇を促す展開に移行している。実質金利はマイナス1%程度からマイナス0.6%程度まで上昇(マイナス幅を縮小)した(2月26日時点)。実質金利の上昇は企業の経済を冷やす「悪い金利上昇」と考えられ、株式市場のボラティリティが上昇する材料となった。ただ、依然としてマイナス圏にあり、市場は過剰反応した可能性がある。
結論として、今後インフレ率が上昇したとしても、物価上昇が米国の実質経済成長率の下押し圧力となるほどのインフレは予想しにくい。市場の期待インフレ率を5年物、10年物、30年物と期間別にみると、5年物の上昇幅が最大で30年物の期待インフレ率を上回って推移している。アンケート調査に基づくミシガン大学の期待インフレ率の調査でも1年先の期待インフレ率は5年先を上回っており、市場参加者の期待インフレ率は物価上昇が一時的と予想している。
FRB内でもインフレに関する議論が行われている。1月のFOMCの議事要旨によると、多くのFOMCメンバーは「相対価格の一時的なインフレとインフレの根底にある変化を区別する重要性」を指摘した。昨年春にマスクの値段が高騰したが、あのような一部の製品価格の上昇は相対価格の上昇に過ぎず、広く一般物価が上昇するインフレとは区別される。一部の品目の価格上昇が米国のインフレ率を一時的に上昇させたとしても、財・サービスの価格が広範囲にわたって上昇するインフレに発展する可能性は低いと見られる。またFRBは2%を超えるインフレ率を許容することにコミットしており、一時的なインフレ率の上昇であれば低金利政策を続けるだろう。
米国を中心に新たな景気拡大局面へ、企業の設備投資の動きがカギを握る。
株式市場の焦点はある程度の実質金利の上昇に耐えうる景気拡大が生じるか否かである。この点で、コロナ後の米景気は新たな拡大サイクルに入ったとみられ、景気回復が力強くかつ長期に持続する可能性がある。カギとなるのは民間設備投資である。2018年以降、3年間抑制されてきた設備投資の再開が景気回復のモメンタムを強める可能性がある。18年初に米中間の関係が悪化し、関税引き上げ競争が始まると、多くの企業はサプライチェーンの見直しを余儀なくされるなかで設備投資を抑制した。19年も景気減速感から設備投資の抑制が続き、さらに、20年のコロナショックで世界的に設備投資が大幅に削減された。しかし、一定の需要回復に直面し、企業は設備不足から供給力不足に直面し始めている可能性がある。過去3年分を取り戻す規模で設備投資が再開する可能性が高い。また、バイデン政権は米国の基幹産業を支える重要部材を中国に依存しない調達体制(サプライチェーン)について100日以内に具体策を示すという。ハイテク素材で日本や台湾、レアアースでは豪州が連携を強める見通しで、新たな設備投資につながる可能性もある。設備投資増を伴う拡大となれば景気の持続性は確かなものになろう。
設備投資関連のアマダは戦略商品のファイバレーザーの消費電力がCO2レーザーと比べ3分の1と小さい。CO2削減への貢献が相対的に大きく、世界的な脱炭素化の流れのなかでユーザーから評価される可能性が高まりそうだ。車両電動化でEVの2次電池向けパワー半導体に脚光が当たっており、富士電機に新たな成長機会が巡ってきた。SUMCOが得意とする半導体材料となるシリコンウエハは、主力の300㎜は高性能スマホ向けに堅調だが、前世代の主力である200㎜も自動車向けが好調で需給が引き締まってきた。業績好転が注目される。
(3月10日記)