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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2021年3月1日
日本を大きく上回る米国マネーの膨張だが、バブルではない。

コロナ禍のもとで日本の市中に流通する資金の量が急増している。マネーの流通量を示すM2は2020年12月で前年同月比9.2%増となり、1972〜73年の過剰流動性当時、1989〜90年のバブル時に次ぐ戦後3番目に高い伸び率となった。ところが、米国のマネーの膨張ぶりは日本を大きく凌駕する。米国の20年12月のM2は前年同月比25.7%増と第2次大戦中の1942年8月の同34・7%増以来、78年4ヵ月ぶりの伸び率と、米国のカネ余りは異常な事態となっている。背景はいうまでもなく、コロナ禍への緊急対応で財政・金融両面で巨額の支援策を実施した結果である。米国では20年12月27日、総額約9,000億ドル(約93兆円)規模の追加経済対策法案が成立したことから、M2の伸び率は一段と高まると思われる。

マネーが溢れる中、行動制限のため旅行や外食などサービス消費は制限され、新車や新型IT機器などモノの消費に向かう。さらに膨張したマネーは株式市場に大量に流入している。米証券業界の自主規制機関である金融取引業規制機構(FINRA)のデータによると、機関投資家や個人投資家の信用取引口座を通じた借入残高は20年12月末で7,780億ドル(約80兆円)と過去最高を記録した。極端なカネ余りで副作用も顕在化。1月27日と29日にNYダウが前日比2%を超える大幅な下げをみせた。個人投資家が投機的な売買を仕掛けた一部の銘柄(ゲームソフト販売会社等)の乱高下が波乱につながった。「カネ余り」を象徴する出来事であり、「理由なき」乱高下は今後も繰り返されよう。しかし、これは「局所的」な事象であり、相場の方向性を変えるものではない。相場を支える「幹」は、経済正常化への期待や緩和的な金融政策であり、大局観は見失わないようにしたい。

多少の副作用はあっても現状の金融・財政政策は維持されよう。最大の政策課題が失業問題だからである。米国の雇用統計の中身をみると「27週間以上」の長期失業者数は、20年4月(94万人)がボトムで、12月では395万人まで4.2倍に急増。長期失業者が全体に占めるシェアも37.1%まで上昇した。

米国の雇用の実体を正確に把握しているのはパウエルFRB議長である。1月の米FOMC後の記者会見で、資産価格上昇は金融政策よりもワクチンや財政政策に対する期待が大きいとして、金融緩和がバブルを助長しているという見方を否定した。また、パンデミックによる経済への衝撃は前例がないもので、実質的な失業率が10%となる中では金融政策が非常に緩和的になるのは適切であると指摘。さらに、インフレについて「インフレ率は持続的に2%を下回っているため、しばらくの間2%をやや上回って上昇することを望んでいる」と発言。インフレ率が2%を上回ったとしても金融緩和を続けることを改めて表明した。そして、このような状況においてテーパリング(FRBの資産縮小)の時期について議論するのは時期尚早とし、早期緩和修正の見方を否定した。

雇用が安定するまで景気刺激策継続、株式市場に追い風続く。

一方、日本の雇用問題は対面サービスで働く労働者数が多いことである。総務省の国勢調査(2017年)をみると、サービス業のうちコロナ禍で影響を受ける「宿泊」「生活関連」「娯楽」「飲食」「陸運」「小売」「医療福祉」の雇用者数は雇用者数全体の約36%も占めている。2019年の雇用者数5,660万人に当てはめれば2,000万人もいる計算だ。20年4月の緊急事態宣言の発令直後に休業者数が一時597万人と過去最大に増えたが、宿泊、生活関連、娯楽、飲食、小売(専門店や百貨店)など対面サービス業で働く雇用者が休業の対象になった可能性が高い。7月以降の休業者数は改善に向かったが、20年の平均は256万人(前年比80万人増)と1968年以降の最大となった。

菅政権は12月に財政支出40兆円、事業規模は73.6兆円の大規模な経済対策を閣議決定した。このうち、新型コロナウイルスの感染拡大防止策や経済回復に向けた取り組みなどを加速するための経費を盛り込んだ2020年度第3次補正予算が1月28日の参院本会議で可決・成立した。コロナ不況は過去の一般的な不況と異なり、感染症の拡大防止のために政府の行動制限が引き起こした人為的なものだ。新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、雇用が安定するまで景気刺激策は継続されるだろう。株式市場を巡る投資環境は追い風の状況が続くと考えられる。

カギを握るのはワクチンの接種である。世界最速のペースでワクチン接種が進んでいるイスラエル(1回目の接種が済んだ人は全人口約900万人の37%、2回目も終えた人は2割超)では、優先的に接種した60歳以上では過去3週間で新規感染が41%減り、入院した人は31%減、重症者も24%減と、ワクチンが効くことが明らかになった。
バイデン大統領が今年夏から初秋にかけて全人口にあたる3億人へのワクチン接種を完了させる計画を示したが、1月27日時点でワクチンを接種したのは米国民の6.25%。ただし、ファイザーなどのワクチンは2回接種する必要があることから、完全接種率は依然として1.15%にとどまる。

厚生労働省によると日本では2月中旬から医療従事者へ先行接種1〜2万人、3月から医療従事者370万人、3月末から高齢者3,600万人、基礎疾患のある人820万人、高齢者施設従事者200万人は6月から、またワクチンの供給量が間に合えば60〜64歳の750万人にも6月から接種が始まる見込みである。ワクチンの普及によって経済活動が正常化する見込みであることから旅行関連、外食や百貨店などコロナ禍が逆風になってきた内需企業の見直し買いの余地は大きい。とくに、「構造改革」を断行する企業は利益率の改善効果などで業績が急回復する可能性がある。ただし、日本ではワクチン接種に抵抗感を持つ人は多いとみられ、ワクチンが思ったほど普及しない可能性もあろう。ワクチン普及と経済正常化は現時点で不確実性が高い。雇用不安を抱える経済の回復は「病み上がり」と同じ状態であり、それは緩和などの政策を長期化させる材料となる。年前半は金融相場状態が継続し、後半は業績相場の展開とみる。

決算発表が終わった銘柄から、通信計測器大手のアンリツは米国の5Gの投資需要立ち上がりが少し遅れているが、今後の期待は継続しており、株価的に注目できる。信越化学は半導体向けシリコンウエハの堅調な需要と住宅向け中心の塩ビ事業の回復が確認された。今後はシリコーン樹脂の持ち直しに期待される。OLCはコロナ禍の収束待ちだが、今年は東京ディズニーシー20周年。ワクチンが普及するとともに株価の戻りは早いだろう。
(2月15日記)

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