アナリスト・トレーニング

お気軽にお問い合わせください!

TEL 03-3518-9611

受付:土日祝祭日以外の9:00~18:00まで

会員ニックネーム:ゲスト  状態:ログアウト
会員種別:不明  ログインする
会員ID:ゲスト  状態:ログアウト 
会員種別:不明  ログインする 

マーケット見通とポイント

HOMEドキュメント >マーケット見通とポイント >中国で日本車の販売が大きく拡大する可能性

マーケット見通とポイント

2020年10月2日
中国で日本車の販売が大きく拡大する可能性

  中国で日本車の販売が大きく拡大する可能性

 

中国は主要国で最も早く経済正常化に成功した。中国政府の政策の後押しは自動車市場の活性化、インフラ投資、不動産開発が柱となっている。自動車市場の活性化では、中国政府の環境車を優遇する政策にこれまでの「新エネ車」に加え、「低燃費車」も加えたことで、日本のハイブリッド車の販売が拡大する可能性が出てきた。今後、中国における日本車の販売を拡大させる起爆剤になる可能性がある。同時に中国が燃料電池車市場の育成のためにトヨタと合弁会社を設立することを認めたことで、中国では大型商用車で燃料電池車の普及が速まる可能性が出てきた。

 

中国政府の新エネ車支援策は日本企業の強い追い風に

 

中国は新型コロナウイルス感染拡大をいち早く収束させ、経済活動再開に大きく舵を切った。4〜6月期の実質GDP成長率は前年比3.2%増と市場予想(同2.3%増)を上回り、1〜3月期の同6.8%減からプラスに転じた。

中国経済の回復が早い第1の理由は、新型コロナウイルスに対する予防、措置などに対する周知・経験値・マニュアルが整ってきたことから、健康と社会・経済活動を両立させることに成功しつつあること、第2に中国政府の政策の後押しである。政策の後押しとは、①消費を刺激するための自動車産業の強化、②高速鉄道などインフラ投資の拡大、③不動産開発が柱である。なかでも自動車産業の強化は消費を刺激することに加え、最大の製造業として多くの雇用を支える効果が期待できる。中国汽車工業協会(CAAM)によると、中国の新車販売台数は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1〜3月期に前年同期比42%減と過去最大の落ち込みとなったが、4〜6月期は同2.2%増、7月も前年同月比16%増の211万台と3カ月連続で2ケタ成長となっている。トヨタ、ホンダは7月に続いて、8月の中国販売台数も過去最高を記録した。

最近の中国政府の自動車支援策は新エネルギー車(新エネ車)購入補助措置の延長など環境を重視した政策が多いが、日本企業を優遇する政策が目立っている。日本が得意とするハイブリッド車の優遇策導入や、日本が技術的に先行する燃料電池車を、中国市場で普及を加速させるための合弁会社設立認可の動きも出ている。中国の新エネ車に対する市場活性化策で日本企業にとって大きなビジネスチャンスが到来している。

 

中国の自動車市場活性化策の中で低燃費車にハイブリッド車も含まれる

 

2018年以降、中国自動車市場で苦戦する米国車や韓国車を尻目に日本車はシェアを高めている。19年の中国新車販売は前年比8.2%減の2,576万台と大きく減少したが、トヨタは前年比9.0%増の162万台と同社の年間目標(160万台)を超過し、ホンダも同8.5%増の155.4万台と過去最高になるなど日系大手の販売は好調だった。中国における日本車のシェアは13年の10%から19年は21%まで6年間で倍増、ドイツの24%に迫っている。最近も上昇傾向にある。

日本車のシェア上昇の背景には①18年5月の「李克強ショック」(李克強首相が北海道にあるトヨタの苫小牧工場を見学したこと)以来、日中関係の改善もあり、日本車メーカーが中国市場の販売攻勢に本腰を入れたこと、②中古車市場が成熟した結果、中古車価格が適切に反映されることになり、残価率の高い日本車の再評価が進んだこと、③今後の環境規制の全般的な強化を受け、残価率がより意識されるようになったこと、④消費者の燃費に対する意識が進んだこと、などが挙げられる。なかでも「李克強ショック」は中国側が意図して生じさせたわけだが、狙いは日本の技術(ハイブリッド車や燃料電池車など)を欲していることに加え、サプライチェーン全体の技術向上の旗振り役を期待してのことが理由である。

中国政府は景気刺激策の一環として4月28日、「自動車消費の緩やかな拡大のための若干の措置に関する通知」を発表した。具体的には排ガス基準強化の実施時期の延期(従来の20年7月1日から21年1月1日に延長)や新エネ車購入補助措置の延長、老朽ディーゼルトラックの廃車促進、中古車流通の円滑化、自動車ローン金融の利用促進などが柱となっている。中央政府の方針により地方政府も追加的に自動車産業の補助がしやすくなった可能性がある。

中国が自動車市場の活性化策を打ち出すなかで日本企業を意識した優遇策が目立っている。中国政府は6月22日、乗用車の燃費改善や新エネ車の普及を促進する管理規則の修正を発表、ハイブリッド車などの「低燃費車」の優遇策を盛り込んだ。すでに中国政府は19年に電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を「新エネルギー車(NEV)」として普及を後押しする「NEV規制」を導入している。ガソリン車を製造販売するとマイナスポイントを与え、新エネ車の製造販売で得られるポイントで穴埋めするよう求めるものだ。これまでハイブリッド車はガソリン車と同じ扱いだった。

しかし、今回の管理規則の修正ではガソリン車の中に「低燃費車」を新たに設定したことが注目される。車種の対象にハイブリッド車との明記はないが、低燃費車の代表であるハイブリッド車が含まれることは間違いない。この規制上、通常のガソリン車の0.2〜0.5台分と見なす。ハイブリッド車1台を製造した場合に必要となる新エネ車の台数は、ガソリン車を製造した場合の2〜5割で済む計算だ。中国政府の発表は低燃費車に強みを持つ日本企業への事実上の優遇であると考えられる。中国の環境車を優遇する政策にハイブリッド車も加わる可能性が出てきたことで、日本企業のビジネスチャンスとなりそうだ。トヨタは5月、2024〜25年に自社以外の自動車メーカーなどに販売したハイブリッド車システムの搭載車両が年間で約50万台になるとの見通しを明らかにした。世界の新車販売の3割を占める最大市場である中国の方針転換は、日本の環境対応車関連企業にも追い風となり、中国ビジネスの起爆剤となりそうだ。

 

中国は燃料電池車の育成も加速、トヨタ、ホンダ、日本電産などに注目

 

5月22日北京で開幕した全人代で長城汽車や新華聯集団など地場企業のトップが中国における燃料電池車産業の育成・加速を提言し、電気自動車一辺倒からの政策転換を呼び掛けた。中国の19年の新エネ車の販売は前年比4%減と初めて前年実績を下回った。全体に占める比率は5%弱に留まり、「25年に新エネ車が新車販売の25%を占める」という政府目標の実現が困難となった。

中国の新エネ車販売は小型車が多い電気自動車が8割を占める。時価総額がトヨタを上回った米テスラの20年前半の中国販売は富裕層向けに絶好調だが、中国の電気自動車大手、比亜迪(BYD)など地場メーカーは大きく販売を減らしている。中国政府が19年に新エネ車の販売補助金を減らした影響が長引き、電気自動車の大口の買い手だったライドシェア事業者による購入が減っていることが影響している。中国地場企業のトップが全人代で電気自動車一辺倒の政策支援から脱却し、燃料電池車産業の育成を提言したのはこうしたことが背景にある。

中国は次世代の新エネ車としてこれまでも燃料電池車を重視している。燃料電池車は水素と空気中の酸素を反応させて電気を発生させる「究極のエコカー」。中国汽車工業学会が16年に発表した「省エネ・NEV技術ロードマップ」では、25年までにFCVの普及規模を5万台へ、水素ステーションを300カ所に増やし、30年にはそれぞれ100万台規模、1,000カ所以上に拡大・整備させる計画とした。19年の累計販売台数は6,178台と20年の目標(5,000台)は前倒しで達成された。

6月5日、トヨタ自動車は中国大手自動車など5社と燃料電池を開発する合弁会社を設立すると発表した。トヨタが開発した燃料電池車のシステムを、22年をめどに北京汽車集団などの自動車メーカーが開発するトラックやバスに提供していく計画だ。日本はこれまで水素エネルギー及び水素燃料電池の普及を強力に進めてきた。18年末の世界の水素ステーション数369カ所のうち日本は96カ所でトップに立つなど日本企業は燃料電池技術で世界をリードしている。トヨタは一貫して燃料電池車を新エネ車の究極的な目標に定めており、その技術は世界№1だ。乗用車では14年に世界初の量産型燃料電池車「ミライ」を発売し、トラックでは日野自動車と共同開発を進めている。

中国の新エネ車の大半を占める電気自動車は現在小型車が中心だが、車両重量の制約で蓄電池容量が限られるため、航続距離を伸ばせないことが課題となっている。また蓄電池材料調達の観点から今後期待されているほど価格が下がらない可能性も指摘されている。一方、燃料電池で充電しながら走る燃料電池車は、燃料となる水素が蓄電池と比較して重量当たりで2ケタ大きいエネルギー密度を持つ。このため、車両重量の制約を受けずに燃料搭載量を増やすことが可能である。移動手段の低炭素化において重量の大きい中型・大型車両、および走行距離が長くなる用途では蓄電池のみでカバーすることが難しいとされる。電気自動車の一種でありながらエンジン並みの航続距離を有し、水素燃料の充電時間も3分間と短い燃料電池車はそのような領域を補完できる駆動システムとして期待されている。燃料電池車は航続距離の長いバスやトラックなど大型商用車の分野では非常に有望と考えられる。

中国の新エネ車関連銘柄はトヨタ、ホンダが実績でトップを走る。車載用モーターを手掛ける日本電産は年初からの株価上昇率が2割近い。リチウムイオン電池の素材を扱う戸田工業やパナソニックもEV向け電池の供給メーカーとして注目されている。燃料電池の水素を入れるタンクに欠かせない炭素繊維は東レが得意としている。水素ステーション関連で岩谷産業、大陽日酸などが注目される。

なお、ウォール街では今年、水素燃料電池メーカーのプラグ・パワー、カナダのバラード・パワー・システムズ、ブルーム・エナジーといった水素燃料電池車関連銘柄が人気化している。日本市場でも今後注目を浴びる可能性がある。

 

 

(9月17日記)

このページの先頭へ