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マーケット見通とポイント

2020年8月2日
バブル崩壊やリーマン危機と比べて株式市場への影響は小さい

コロナショック以降、大規模な金融緩和と巨額な財政出動が世界で実施されている。これによって景気の底割れが回避され、流動性の供給が株式市場を支えている。ニューヨーク株式市場の回復の大部分は金融・財政政策のサポートによるものだ。不景気なのに株価が上昇するのはおかしいとの意見があるが、経済対策の規模の大きさがファンダメンタルズからかけ離れているため、株式市場もファンダメンタルズから離れた動きをする。FRBがハイイールド債を買い入れ対象にしたことや、米政府が実施した給付金が最低賃金を大きく上回っていることが顕著な例だ。今回は感染拡大を防止するために政府の規制が引き起こした不況である。従って政府のサポートは長期間続くとみられ、株式市場のファンダメンタルズから離れた動きも持続する可能性がある。

確かに4〜5月の経済指標は大恐慌以来の悪さになったが、過去の日米で起きた大規模な経済ショックと比べていくつかの相違点もある。簡単に振り返ってみよう。

1990年の日本の不動産バブル崩壊は、過剰流動性のなかで日本中がバブルに酔いしれ、日銀の急激な引き締めによって行き過ぎた資産価格が一気に崩壊したことが背景だ。過剰債務を抱えた不動産業、建設業、卸・小売業が危機に陥り、銀行が大量の不良債権を抱え、多くの上場企業が破綻した。企業の経営でいえばバランスシートの左側の資産の棄損が起点であった。不況の主因は株式・不動産中心の資産デフレである。最終的に大手銀行の一角が国有化される2003年まで不良債権の処理に約13年かかっている。

2008年秋のリーマン・ショックは米国の住宅バブル崩壊が発端だった。住宅価格が下落に転じるとサブプライムローンを組み入れた複雑な証券化商品に投資していた金融機関が相次いで巨額の損失を計上、世界規模で連鎖的に起こった金融危機である。金融システムが大きく棄損したことで「信用収縮」が起き、自動車などの耐久財は”需要が蒸発した“と表現された。とくに米国では過剰債務を抱えた個人の消費が一気に減退、失業が増えた。失業増・危機が約2年続いた後、企業の淘汰と雇用・賃金・消費の回復まで約4〜5年を要し、「失われた7年」と呼ばれるほどの長い道のりとなった。ニューヨークダウがリーマン前の高値(07年10月)を更新する2013年3月まで5年5カ月かかった。

今回は新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に広がり、政府が人々の行動を抑え込んだことで、需要ショックと供給ショックがほぼ同時に起きたことが原因だ。感染を防ぐため、海外渡航を制限したことで今年5月の訪日外国人観光客数は1,700人と昨年5月の277万人から99.9%減少、日本のインバウンド消費も大打撃を受けた。とくに影響を受けた「コロナ打撃業種」としては陸運、小売業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、医療福祉など内需型の企業で、中小企業を中心に売上高が急減したことで資金繰りが一気に深刻になった。行動規制によって売上げが消失、赤字に転落したことでバランスシートの右側の資本が棄損した。こうした業種は労働集約的な形態が多く、雇用など日本経済への打撃は甚大だ。政府は2020年度第2次補正予算で企業の資金繰り対策として約12兆円を計上、中小・小規模事業者の資本注入のために1兆2,442億円を投入するなど、これまでにない政策を採用した。ただし、株式市場からみると別の見方もできる。上述した「コロナ打撃業種」を筆者が独自に東証TOPIX33業種分類に当てはめてみると小売業、卸売業、サービス業、陸運業、空運業、倉庫・運輸関連業の6業種に分類される。東証1部時価総額(6月末588兆円)に占める6業種合計の比率は20%(119兆円)に過ぎず、電気機器と輸送用機器の2業種を合わせた規模(125兆円)より小さい。株式市場への影響という点では日本のバブル崩壊や米国のリーマン危機と比べて小さいという見方もできる。

利益が回復し、材料があり、人気が続く銘柄を探して投資を

コロナショック前まで日本の企業は過剰な投資どころか、過去の借金返済を優先した。投資をしないで資金を溜め込んでいることがむしろ問題視されるなど、日本には過剰な設備や雇用はない。消費者も借り過ぎ、買い過ぎ、使い過ぎはなく日本経済全体でいわば「暴飲暴食」をしたわけではない。今後の経済再生に不可欠な銀行は、貸倒引当金は増えたものの、経営に大きな問題はなく、健全性を維持している。日本経済にバブルが存在しないことと、銀行の健全性が維持されていることは前述した2つのショックと大きく異なる点だ。さらに地震や津波など自然災害と異なり、今回は工場が破壊されたわけでなく、すぐに稼働できる。感染が収束すれば経済活動が正常化し、景気回復は早いはずだ。

問題はワクチンや治療薬ができるまで新型コロナウイルスは制圧できないことだ。それまでは人的接触の回避を続けて経済を回していくことになる。しかし、行動規制は早ければ今後半年で済むかもしれないし、長くても1〜2年だろう。短期的には厳しい状況が続くが、過去、日米で起きた2つのショックが経済に深刻な影響を与え、それを克服するまでの期間(4〜13年)と比べればかなり短いといえる。コロナショックは、市場や経済環境の急変によって短期の投資に大きな影響を与えたが、より長期の経済成長に重きを置く中長期投資家の運用方針を大きく揺さぶるものではないと言える。

「ウィズコロナ時代」に成長が加速する分野もある。相場の物色がグロースかバリューかとの議論があるが、要は利益が回復し、新鮮な株価材料があり、人気が続く銘柄を探すことに専念すればよい。

今回は5G関連や医療関連機器、ESGのテーマなどから参考銘柄を選定した。伊藤忠テクノソリューションズは国内携帯事業者向けネットワーク構築で業界トップ。村田製作所と太陽誘電は、スマホの高速通信機能の強化でRF(高周波)ブロックにおける部品搭載点数が増加することでメリットを受ける。通信量の増大に伴うデータセンター需要の増大で半導体材料のシリコンウエハやポリシリコンの大手である信越化学、SUMCO、トクヤマに注目したい。

医療関連では、ダイキン工業は新型コロナウイルスの影響で、北米でセントラル方式から個別空調方式への移行が進むとすれば追い風となろう。オリンパスは中国における内視鏡普及の高まり、ハイエンド病院からミドルエンド病院への採用が拡大すればメリット。シスメックスは血球計数装置などの診断装置をグローバルに展開。なかでも医療の質的向上を目指す中国は成長ドライバーになる。

大きなテーマとなっているESG(環境、社会、企業統治)関連として、新技術で衛生(感染予防)事業を拡大することを目指すアイカ工業は抗ウイルスメラミン化粧板「ウイルテクト」などの高付加価値品の需要が拡大中。TOTOは環境浄化技術であるハイドロテクトを用いた抗ウイルス性・抗菌性のセラミックトイレや建材の需要拡大が注目される。花王は19年にESG経営を宣言。プラスチック循環社会の取り組み、スキンケア、衛生事業(感染予防)に新技術を搭載し、社会へ一層の貢献を目指す。健康経営を志向するヤクルト本社は、ヤクルトの「免疫力強化」などの機能性が再注目されよう。中国でヤクルトは嗜好性飲料だが、今後日本のように商品の機能性が認知されれば成長余地は大きい。

(7月22日記)

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