マーケット見通とポイント
世界で猛威を振るった新型コロナウイルスは英国、ドイツやフランスなどのユーロ圏諸国や日本などの先進国を中心に感染ピークアウトの兆しを見せている。米国は新規感染者数が一時安定する状況となったが、6月中旬以降、テキサス州やフロリダ州など南西部で再び新規感染者が拡大。テキサス州では経済活動の段階的な再開を一時中断する事態となっている。もっとも3,4月に感染者が急増したニューヨークなどいわゆるトライステート(ニューヨーク州およびマンハッタンの通勤圏内であるニュージャージー、コネチカット州を含む3州)では感染者数が減少傾向にあり、米国内で感染が二極化している。ニューヨーク株式市場は経済活動再開に伴う感染再拡大リスクを懸念しつつも、再開の方を評価する見方が依然上回っている印象である。一方、新興国はブラジル、メキシコ、南アフリカなどで感染抑制に手を焼いている。
新規感染が抑制された国では経済活動を再開する動きが広がっている。米国では5月27日時点で自宅待機令を解除した州が全体の約7割に達し、6月中にほぼ全ての州が同規制を解除する見通しだ。こうした中、米国の5月の経済統計では、各連銀発表の製造業景況感指数が上向き、消費者マインドの悪化にも歯止めがかかった。多くの米経済指標は4月にボトムを付けた可能性が高い。ただし、自宅待機令を解除した州でもその多くが社会的距離(6フィート=約1.8メートル)の確保や建物の収容能力に対し、一定割合の人数制限を設けており、正常化は遠い。米最大の経済規模を誇るカルフォルニア州(米国の名目GDPの約15%を占める)は各種制限緩和に動いているが、サンフランシスコなどベイアリア7群・市が自宅待機令を5月31日まで延期した。自宅待機令の解除に伴い新規感染者数の増加が見られる州もあり、経済の本格再開には時間がかかろう。
日本は”3密“回避やソーシャルディスタンスの確保など「新しい生活様式」の定着が不可欠で、コロナ前の経済活動水準からは程遠い。それでも日本は中国や欧米型の都市封鎖(ロックダウン)ではない、行動自粛という緩やかな手法で爆発的な感染拡大と医療崩壊を防いだ。安倍首相は5月25日に緊急事態宣言解除を発表した後の記者会見で「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で今回の流行を収束させ、日本モデルの力を示した」と自信を示した。実際に人口100万人当たりの死者数(5月23日時点)は6.4人と、イタリア(565人)、英国(540人)、米国(292人)と比べて圧倒的に少ない。日本独自の感染防止策に当初は懐疑的だった欧米メディアからは逆に称賛の声が広がった。ドイツの著名なウイルス学者、シャリテ大学病院のクリスティアン・ドロステン氏は5月28日、日本の新型コロナウイルス対策を「近い将来の手本にしなければならない」と語った。感染者数の適正な把握のためにPCR検査能力の大幅拡大は必要だが、同様の手法で今後の感染再拡大にも最小限の被害で抑えられるという自信が持てたのではないか。
経済の回復時期は意外に早い!?信越化学など半導体関連に注目。
新型コロナウイルスの大体の収束が5月ないし6月、遅くとも夏頃と想定することができ、第2波、第3波はあるとしてもさほど高い波ではない可能性もある。人々は新型コロナが、①無症状感染者が感染を広げる、②少数の感染者が多人数に感染させるケースがある、③症状の悪化スピードが早い、④再感染リスクがある、など未知のウイルスの怖さを身に染みて感じた。同時に感染拡大防止にはマスク、手洗いの徹底、”3密“回避、外出自粛が効果的など学習効果も得た。玄関で靴を脱ぎ、ご飯を箸で食べ、毎日のように風呂に入るという日本の「清潔文化」もウイルスを防御する効果が強く、感染再拡大に最も適応能力が高いのは日本人ではないか。
多くの意見は、1918~20年に3波に亘って世界的なパンデミックを引き起こしたスペイン風邪の記憶からリスク管理的な教訓を引き出して、収束に何年も続くと想定しているとみられるが、異なる意見もある。同じコロナウイルスのSARS(重症急性呼吸器症候群)は2002年末から03年6月までの約半年間、なぜか1回だけの流行にとどまった。景気循環分析で有名な嶋中雄二エコノミストは「2003年当時の世界経済は03年6月上旬にSARS感染がほぼ収束すると同時に7~9月期はⅤ字回復している。回復の始まりは意外に早い可能性もある」と分析している。
最先端のワクチンや治療薬の技術開発に先行する米国ではトランプ大統領が5月15日、新型コロナワクチンの超高速開発計画(ワープスピード作戦)を正式に発表した。官民が協働して安全で効果的な新型コロナワクチンを開発・生産し、来年1月までに米国民に広くワクチンが行き渡ることを目指している。米議会はワクチンの研究開発に対して100億ドルを追加拠出。チーフ・サイエンティストには著名な免疫学者であるモンセフ・スラウイ氏、COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)にはギュスターブ・ペルナ陸軍大将が就任する。有名な米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長もメンバーとして参加している。
注目されるのは同計画が今回の感染拡大を受けて俄かに作成されたものではなく、「コロナショック」前からトランプ政権で議論されていたという点だ。大統領経済諮問委員会(CEA)は新型コロナウイルス感染拡大前の昨年9月時点で「ワクチン・イノベーションを通じてパンデミックインフルエンザの悪影響緩和」と題するレポートを公表しており、これらの政策の必要性を分析していた。
新型コロナウイルスの米経済への悪影響が限定的なケースとして、①コロナウイルスの感染拡大が自然と沈静化する、②ワクチンの開発、③効果的な治療薬の開発、④大規模な検査・接触経路の追跡、感染者の隔離が実施される、などのシナリオが考えられる。ワクチンの開発動向が非常に重要なことは間違いない。米国経済の水準が「コロナショック前」に近づくのは来年末頃というのが平均的な予想だが、仮に同計画が成功してワクチンが来年1月までに米国民に広く行き渡るのであれば、それより景気回復ペースが速まる可能性にもつながる。
銘柄選択では「コロナの影響を受けたが今後は回復が期待できる銘柄」に注目したい。半導体・電子部品などのハイテク関連やレジャー関連などで、具体的にはシリコンウエハで需要が回復する兆しがある信越化学、先端半導体製造技術「EUV露光」に対応したフォトマスク材料が注目されるHOYA、長年のリストラが一巡し、基幹システムの刷新需要やスマート工場の需要取り組みなど国内向けの成長、5G関連ネットワーク構築に強い富士通、マテハン機器の最大手でネット通販やハイテク分野向けに自動化機器の需要が期待されるダイフク、ディズニーファンとともにパーク再開を待つオリエンタルランドなどに注目したい。
手洗い習慣が定着するとみられ、「除菌・衛生」の観点からは花王とライオンに注目。医薬関連では新規抗ガン剤が注目されている第一三共、北米の外食向けなどは厳しいが、EPA(魚由来の脂肪酸)の海外医薬品向け展開など期待材料もある日本水産などに注目したい。(6月13日記)