マーケット見通とポイント
米国の1〜3月期実質GDP成長率は前期比年率4.8%減と金融危機以来、11年ぶりの大幅なマイナス成長となった。GDPの約7割を占める個人消費が同7.6%減、とくに飲食、娯楽、宿泊の不振は深刻でサービス部門全体の消費は同10.2%減を記録した。本来なら安定的に景気を支えるはずのサービス消費が都市封鎖(ロックダウン)の影響で逆に経済を直撃する過去に例のない事態となった。
米議会予算局(CBO)は、感染の影響がフルに反映される4〜6月期のGDP成長率は前期比年率で39.6%減少すると予想しており、大恐慌以来の大幅な経済収縮となる見込みだ。
ただし、GDPや失業率は過去のデータなので3月までの急激な株価下落で、既に織り込まれた材料である。むしろ、4月後半のNY株式市場のモメンタムの強さを見ると、市場の関心は経済活動再開による経済成長率の回復ペースに移っている模様だ。米企業の1〜3月期決算発表では、経営陣が「4月に入り3月下旬に比べて悪化の程度が小さくなっている」と言及するパターンが増えている。同時に米政府およびFRBの政策期待や新型コロナ治療薬に対する期待もモメンタムを支えている。
米国では外出規制など徹底した行動制限の効果を受けて新型コロナ感染者の増加はピ-クアウト、経済活動再開に動く州が相次いでいる。全米一律の行動制限が期限を迎えた4月30日までに米国の30州以上で飲食店や小売店の営業再開を認める方針に転じた。ただし、感染が再拡大するリスクが残るため、人口が2番目に多いテキサス州では他人との距離と取るために施設の占有率を25%に抑える条件を付けた。通常の経済活動からは程遠いが、トンネルの先に出口が見え始めたとも言える。
ひと足早く感染拡大が収束し、経済活動再開が本格化しつつある中国では電力向け石炭消費量や住宅販売床面積、自動車販売のデータは4月末時点で、ほぼ前年同月並みに接近しつつある。中国の新車販売台数は2月の前年同月比79%減から3月は同43%減、4月はほぼ前年同月の水準まで回復している模様。自動車大手は5月から通常の稼働に戻し、トヨタやホンダは中国工場の生産量を前年比10%程度増やすと報じられた。新型コロナ感染に関して、米国は中国に比べて1〜2カ月遅れて推移しているため、6〜7月の米国の経済活動がどこまで回復しているかが最大の注目材料である。
4〜6月期の米国経済指標は1929年の大恐慌以上に悪化しよう。これは政府によるロックダウンが経済の供給と需要を同時に止めてしまったためであり、企業や家計の資金繰りを全力で支えるのは政府の責任だ。
FRBは通常、預金金融機関にしか融資できないが、「異常かつ緊急」の状況では様々な主体への融資が可能(連邦準備法13条3項)であり、これに基づき、銀行だけでなく証券会社や特別目的会社(SPV)を通じて信用供与を促進し、低格付け資産やその発行体を支援する異例の対応を採用した。注目すべきはこうした特別貸出し制度に対して、3月27日に成立した2兆ドル超の新型肺炎対策第3弾が4,540億ドルの損失保証を用意したことだ。パウエル議長は「10ドルの融資には1ドルの損失保証があれば十分」と述べた。つまり、最大4.5兆ドル(約480兆円)超の融資拡大が可能となる。
トランプ政権ならびに米議会の対応も異例の早さだった。3月6日にワクチン・治療薬開発や医薬品調達など感染対策に特化した第1弾の緊急予算(83億ドル)が成立。3月18日には第2弾として100億ドル超の新型肺炎で打撃を受けた「家族優先」のコロナウイルス対策法(総額192億ドル)が成立。3月27日にはFRBと協調した家計/中小企業/地方政府支援に感染対策を含めた第3弾のコロナウイルス支援、救済、経済安全保障法(総額2.3兆ドル超)が成立した。第3弾はGDP比10.7%と単独の対策では過去最大規模となった。
今後の回復の程度は家計・企業の回復にかかっている。循環的なメカニズムや需給の不均衡で生じた経済ショックでない以上、政府・中央銀行の資金支援により所得や資金繰りが維持されていれば、経済活動再開で供給とともに需要も回復することになる。これが、NY株式市場が3月の急落後に、意外なほど粘り腰を見せている最大の要因と言える。
新型コロナ治療薬の開発も注目される。ウイルス増殖抑制機能が高いとされる米バイオ企業ギリアド・サイエンシズの「レムデシビル」は5月1日に使用が認可された。米国は治療薬の開発では世界で先陣を切るため官民が連携し、臨床試験の開始から2カ月あまりという異例のスピードで認可にこぎつけた。同新薬は幅広く使われることになろうが、増え続ける感染者に対応できだけの供給力が課題となる。日本では5月2日に使用に向けた施行令を改正、5月7日に承認された。
一方、軽傷、中等症の患者に効果があるとされる国産の新型コロナ治療薬「アビガン」は日本で5月に治験が終了し、実用化される見通しだ。経済指標の悪化や原油価格が下振れても株価が堅調に推移しているのは治療薬への期待もある。
新型コロナの感染ピークアウトと経済自粛措置の段階的解除の動きを受けて、主要国の株価は戻りを試している。米S&P500種は2月の史上最高値から3月の安値にかけて6週間で34%下落した後、4月の戻り高値(4月29日)まで安値から31%も値を戻した。下落幅におけるフィボナッチの61.8%戻しを達成し、日本株やドイツ株もほぼ半値戻しを達成した。市場のボラティリティも沈静化しつつある。米VIX指数はリーマン・ショック時よりも早く危機水準とされる40ポイントを下回った。株式市場の回復力が早い点も今回の特徴だ。
コロナ関連の注目銘柄は、自社開発の急性膵炎治療薬「フサン」がコロナ治療薬の候補として注目される日医工、コロナ対策で関連製品の需要が伸びているドラッグストアのウエルシアHDなど。
コロナ対応でテレビ会議や遠隔授業、動画配信など大量のデータ通信を伴うネットサービスの需要が急拡大している。この関連では高性能サーバー向けICパッケージが拡大するイビデン、ITサービス大手でテレワーク関連のNECネッツエスアイ、先端半導体製造技術「EUV露光」に対応したフォトマスク関連検査装置を手掛けるレーザーテック、財務が健全でシリコンウエハ大手の信越化学、スマホ向けCMOSセンサーが注目されるソニー、コンデンサの在庫調整が進展しつつある村田製作所などに注目したい。
(5月13日記)