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マーケット見通とポイント

2020年5月1日
今回の急落はコロナ感染防止のための経済封鎖による「需要ショック」

新型コロナ禍で急落した東京市場は、3月末にかけて急反発を見せたが、4月に入りその勢いは一服した。最悪の危機は乗り越えたが、実際に経済指標や業績底入れ時期が確認されないと、不安感は払しょくできない。

各国政府が渡航制限や国境閉鎖、都市閉鎖、各種イベント中止など懸命の感染抑制策を進めたことでウイルスの感染拡大は時間とともに徐々に収まるとみられる。中国や韓国の感染拡大は収束し、イタリアでもピークアウト感が出ている。現在は感染者数の拡大が続く米国と「ほぼ最後発の感染爆発地」となりかねない日本の対応に世界の注目が集まっている。ただし完全に収束する前に外出の緩和など規制を緩めると、感染第2波、第3波がないとは言えず、ウイルスに対する警戒はまだ続こう。

今回の危機で最大の懸念材料だった企業のクレジット問題は、各国政府の救済措置と金融当局による資金供給の強化で当面の危機は脱した模様だ。シェールオイル潰しを仕掛けたロシアは想定以上の原油暴落に悲鳴を上げ、OPECと米国に大規模な協調減産を呼び掛けた。実現すれば原油価格の一定の回復につながり、エネルギー企業の連鎖的な破綻懸念が後退し、投資家心理の改善につながろう。

今後は雇用や経済の落ち込みの程度、企業業績への打撃などを慎重に見極める必要がある。 暴力的な株価下落で米国のVIX指数(恐怖指数)は3月に一気に80を超え(3月16日、82.69)、マーケットは一時リーマン・ショック級の危機を意識した。背景は新型コロナウイルスの世界的なパンデミック(大流行)の脅威である。しかし、危機に至った本質は政策当局の都市閉鎖、移動禁止という経済封鎖による需要消滅懸念であり、世界的な「需要ショック」といえる。これは金融機関の破綻が発端となった08年のリーマン・ショック(金融ショック)とは危機の根源が異なる。当時は家計を中心とした過剰信用の崩壊、すなわち金融バブルの崩壊だった。

経済閉鎖の影響とは具体的にどういうことか。例えば自動車など製造業は工場で生産し、家庭や企業が消費するなど、生産と消費は別々の場所で行う。しかし、ミュージカルやレストランなどサービス業は生産(活動)する場所に人が来ないと事業が成り立たない。新型コロナの感染拡大防止のための経済活動の強制停止で、サービスを提供する外食、娯楽・宿泊、アーティスト・芸能、小売業(生活必需品以外)などは売上高を失うことになった。

米国のGDPに占めるサービス業の比率は8割近くを占める。日本や欧州など先進国では6割を超え、先進国ほど甚大な経済的影響を受ける。それは時間とともにサービス業に物を提供する多くの製造業に波及していく。自動車販売が落ち込めば在庫を抑えるためにメーカーは減産を余儀なくされる。所得水準が高く購買力の大きい先進国の景気が落ち込めば、モノを供給する新興国の製造業も時間を置いて影響を受ける。

一方で売上げが立たないとキャッシュフローが枯渇し、クレジット市場では急激に信用リスクが高まることになる。3月のクラッシュの際、グローバルに株式、債券、金、原油などほぼすべてのリスク資産が売られた。現金化が加速し、基軸通貨ドルの需要が高まったのは「究極のリスク回避」と言える。強制的な経済閉鎖が長期化すればやがて貸し手の金融機関のリスクに発展しかねない。3月はまさに金融システムリスクが現実化した「リーマン・ショック」の再来まで想定されたといえる。

この危機に主要国の政府・金融当局は戦時モードで対応した。なかでも米国のスピード感は群を抜いた。NYダウが前日比4ケタの暴落を示現し、最初に危機のサインを発したのは2月24日(前日比1,031ドル安)だった。その週末の28日、パウエルFRB議長は声明を発表、緊急利下げを告知し、3月3日に利下げを実施した。12日にはNY連銀が資金供給増加策を発表。15日には緊急FOMCを開催して一気に1%の利下げを実施し、ゼロ金利政策を導入した。同時に米国債とMBSの計7,000億ドルの購入を決定、15日以降の日米欧の中銀によるスワップ取引によるドル資金を融通する政策も決定した。

19日にはバーナンキ元FRB議長、イエレン前議長が共同でフィナンシャルタイムズ紙にFRBによる企業の社債購入策を提言した。

翌週月曜日の23日、FRBは米国債とMBS購入の無制限化と、消費者ローンや中小企業向け融資を担保とした資産担保証券(ABS)を買い入れる措置を決定した。

さらにトランプ政権は3月27日、総額で約2兆ドルというGDPの約10%に相当する史上最大規模の景気対策法案を成立させた。このように財政と金融を組み合わせた大型対策で、FRBによる社債購入も可能となった。失業給付の拡大なども盛り込み、企業と家計の資金ショートを防ぐなど、まさに政策総動員だった。

リーマン・ショックでは金融危機がまず発生し、直後に大規模な景気後退になった。今回は経済封鎖による景気後退が先で、この後に金融危機となれば景気悪化はさらに加速するリスクがあった。異例の早さで進んだ米国の大規模な対策はまさに金融危機阻止にあった。

金融システムの機能不全が主因で景気が悪化した場合、金融システムに公的資金を注入しなければ問題は解決しない。しかしそれには政治が絡むため時間がかかり、しかも金融システム危機を伴う景気後退は深くて長い。逆に言うと金融危機を伴わない景気後退は、早めに景気対策が実施できるため、浅くて短い。この見方は今回の危機にも当てはまるだろう。

株価の底打ちを確認するためには①主要国において新規の感染者数が明確に減り始めること、②経済見通しがこれ以上深刻化しないとの見方が金融市場で支配的になること、③新型コロナ治療薬候補から良好な評価結果が確認されること、などがポイントになる。株価が安値圏にあるがボラティリティが高い状況下では、優良銘柄の下値を時間分散で拾うという株式投資の王道を実践すべき時と考える。(4月10日記)

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