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2020年3月31日
米国への「一極集中」に揺さぶりをかける新型コロナ・ショック

米国への「一極集中」に揺さぶりをかける新型コロナ・ショック

 

世界を駆け巡った新型コロナ・ショックは「米国一極集中」の構図に揺さぶりをかけている。昨年の10月以降、超金融緩和を背景に世界の余剰マネーは経済が好調な米国に向かい、2月中旬にかけて「NY株高・ドル高・米国債相場上昇(長期金利低下)」をもたらした。世界の投資マネーが米国に集中する「米国一極集中」である。しかし、2月下旬以降に新型コロナウイルスが中国から欧州、そして米国に広がり始めるとパンデミックを警戒して世界のリスク資産価格は急落。とくに2月中旬まで過去最高値圏にあった米国株の下落が顕著で、2月20日以降のS&P500の下落率は2月末にかけて12%も急落した。これは日経平均(同9.6%)や香港ハンセン(同5.6%)を上回る。

為替市場では、ドル/円相場が2月21日の1ドル=112.22円から2月28日には107.31円に5円近く急落した。米国株の急落でFRBによる緊急利下げの思惑が広がり、2月28日の米10年国債利回りは1.15%と昨年末の1.90%から急激に低下(国債価格は上昇)、一気に過去最低を更新した。日米金利差が大きく縮小したため、景気後退が懸念される日本の円までが「安全資産」として買われる事態となった。しかし、他通貨との相対的な強弱を測るドル指数は18年12月の90割れから2月20日には99.8まで上昇、3月2日時点で97.5台と、依然として高値圏で推移している。

ドル指数が上昇トレンドを維持し、米国債にこれだけ資金が集まっている状況から考えると、これまでのニューヨーク株式市場の過度な楽観論の修正局面と見ることもできる。今後、日本や米国で中国湖北省武漢並みの事態となれば、NY株式相場がさらに下落するリスクは否定できない。しかし2月末時点ではそこまで深刻化はしていない。徹底した感染者の隔離と、外出や移動の制限などで、中国の武漢以外では感染者の増加ペースは落ち着いてきていることを踏まえると、適切な措置を講じれば感染拡大を封じ込めることは可能で、徐々に終息に向かう可能性のほうが高いのではないか。多くの専門家も数カ月で終息するとみており、米国経済が腰折れすることによる「米国一極集中」の崩壊は現時点でメインシナリオではない。いずれにしても世界経済をけん引する米国が新型コロナの感染拡大を抑制できるかが、今後の金融市場のカギになる。

米国内の新型コロナウイルスの感染者数が2ケタ台に乗り始めた2月27日にNYダウは前日比1,190ドル安と過去最大の下落幅を記録したが、下落率は同4.4%と歴代123位だった。ちなみに過去最大の下落率は22.6%を記録した1987年10月19日のブラックマンデーの時だ。当時のNYダウは2,700ドル台だが、今年2月高値は2万9,500ドル台。下落幅が大きくなるのは当然だ。また過去のデータを学習したAI売買やVIXを参照して機械的にアセット配分を決める売買が普及しており、大きな値幅が出現した可能性もある。同様の仕組みから反発時も驚くような値幅が出る。

そもそも、今回の相場暴落の前に今年2月の過去最高値までの半年間に約16%の株価急上昇(S&P500ベース)があった。年率に換算すると3割を超す株価急騰である。米中貿易協議第1段階合意と金融緩和の強化が背景である。カネ余りを背景に投資家が楽観姿勢を強めた結果、S&P500の株価収益率は19倍台と割高な水準まで買われていたが、2月末の急落で16倍台まで低下した。一連の流れを踏まえると数週間前の楽観的な見方が行き過ぎていたのと同様に、現在の状況も悲観の行き過ぎと見ることもできる。投資家心理が激しく揺れ動き、株式市場のボラティリティ(変動率)が急拡大する—これがカネ余りによる金融相場の最大の特徴だ。

米国では感染症といえばインフルエンザが深刻で米疾病対策センター(CDC)によると、2019〜20年のインフルエンザシーズン中、感染者数は2,600万人、入院者数25万人、死亡者数は1万4,000人に上る(2月8日時点)。一方、米国で確認された新型コロナウイルスの感染者数は60人(2月27日)である。未知の感染症である新型コロナウイルスとインフルエンザは現時点で単純に比較できないものの、米政府は米国人の中国全土への渡航の警戒レベルを4段階で最も高い水準に引き上げたほか、トランプ大統領は25億ドル規模の緊急予算措置を議会に要請する方針を示した。

 

今回の下げは楽観の修正。中長期で成長が続く銘柄の拾い場

米トランプ大統領は2月26日に新型コロナウイルスへの対応を巡って記者会見し「対策は完璧だ」と強調した。ペンス副大統領を陣頭指揮のトップに据え、渡航制限を中国以外に広げる可能性も排除しないとし、あらゆる対策をとる姿勢を強調した。新型コロナウイルスによる影響で米経済が打撃を受け、NY株式相場の下落が続くと、11月の米大統領選で再選が危うくなる。過去の例ではブッシュ(子)政権が2005年、大型ハリケーン「カトリーナ」への対応をしくじり、後の中間選挙で大敗を喫するなど、共和党として苦い経験がある。トランプ政権は政策を総動員するだろう。政策オプションとして中間層向け所得減税に加え、対中関税引き下げも視野に入るだろう。FRBは3月3日に0.5%の緊急利下げをした。

こうした中で、新型コロナウイルスの感染拡大で1〜3月期の世界経済の下振れは決定的となった。気温が上昇する3〜4月に収束に向かうという楽観的な前提を置いても、生産の立ち上がりに手間取れば4〜6月期も低迷しかねない。世界経済の立ち上がりは4〜6月期以降にずれ込むこととなろう。米国の感染者数が3月以降に一段と拡大すると世界景気の調整局面が予想以上に長引くシナリオがメインとなりかねず、グローバルな投資環境にも急速な変化が加わる可能性がある。短期的には株価のさらなる急落など注意が必要だ。

新型コロナウイルスの経済的影響は①供給面、②需要面、③心理的要因の3点から起きる。供給面は中国の工場閉鎖などサプライチェーンの混乱から供給制約が起きる。需要面では旅行需要や対中輸出の減少、個人消費の減退など。最後の心理的要因は金融市場のボラティリティが上昇することで、企業の借り入れコストの上昇や株価下落による逆資産効果から消費が抑制される。真っ先に表面化したのは心理的影響だが、徐々に需要面と供給制約が表面化しよう。2月の経済指標が発表される3月相場は引き続きアップダウンの大きい展開が予想される。

しかし投資家は、混乱が広がるなかでこそ、冷静な対応が必要だ。感染がどの程度拡大し、いつ終息するのかを予想することは困難だが、永続するものではない。事態の悪化に歯止めがかかれば、その後の回復を視野に入れた相場展開となろう。悲観ムードが広がったことで中長期的に成長が見込まれる銘柄を拾うチャンスともいえる。海外投資家が換金売りを進める場合、良い銘柄もそうでない銘柄も一律に売られ、優良銘柄が魅力的な株価を付けることがある。日本を代表する優良銘柄に割安な水準で投資できるチャンスと言える。ただし、どこが安値になるかは誰にもわからないため、時間分散等で対応することをお勧めしたい。(3月6日記)

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