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マーケット見通とポイント

2020年3月2日
極端なカネ余り相場は楽観と悲観の行き過ぎを繰り返す

極端なカネ余り相場は楽観と悲観の行き過ぎを繰り返す

 

株式市場にとって新型コロナウイルスの感染拡大による肺炎はかなり扱いにくい材料だ。インフルエンザの場合はどんなに強力な感染力があってもそれほど大騒ぎにならない。日本人はいずれ感染が収まることを知っているためだ。しかし、新型肺炎は現時点で未知のショックだから、その不確実性におびえる。日本ではすでに市中感染の段階に入ったと言われていることも人々の不安心理を高める。

昨年末時点で株式市場が20年相場のリスク材料として意識していた米中貿易問題は1月15日に米中首脳による合意文書が交わされ、米中貿易戦争は一旦休戦となった。1月3日の米軍によるイラン司令官殺害で一時的に高まった米・イランの軍事的緊張も短期で収束した。だが、新型肺炎は中国で発症が確認されたのが12月。この材料は地政学的リスクに隠れて見えにくかったので、不意を突かれた想定外の悪材料だった。

日経平均と米S&P500指数は19年9月末から今年1月に付けた高値まで4ヵ月弱でともに10%超上昇した。米中貿易協議合意への期待と、米FRBのレポ金利急騰を抑えるための資金供給の拡大が背景だが、年率換算で3割という驚異的な上昇ピッチだった。今年に入り予想EPSが横ばいで推移する中、予想PERの上昇が株価上昇の原動力だった。いわば、投資家の楽観的な見方が行き過ぎていたわけだ。従って悪材料は何であれ1~2月の株式市場で利益確定売りが出ることは十分予想された。その後、中国で広まった新型肺炎が中国以外に感染が拡大し世界経済に与える影響を懸念して、株式市場が調整することはある意味で違和感がない。しかし、2月後半になり米疾病対策委員会(CDC)が米国内の感染拡大の可能性を示唆すると米国株が急落するなど、逆に悲観論が行き過ぎていると感じられる市場に変わりつつある。つまり極端なカネ余りを背景とした金融相場では不透明材料によって投資家心理が大きく揺らぎ、楽観と悲観の行き過ぎを繰り返すことになるわけだ。新型肺炎の感染が確認された国・地域では感染者の隔離や検査体制の強化、医療体制の整備などあらゆる手法を駆使し感染拡大を食い止める努力をしている。数ヵ月後にこの問題が終息すれば年後半の株式相場の上昇に期待が持てるのではないか。

 各段と大きくなった中国の世界経済への影響

ただし、短期的には新型肺炎の感染拡大が本当に抑え込めるか、そして集会やイベントの自粛、企業活動の抑制、ヒトやモノの移動が制限されることによる世界経済や企業業績に及ぼす影響には最大の注意が必要だ。最初の感染者が確認された昨年12月からわずか1カ月間で2002~2003年に感染が拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染者数(8,096人)を上回った。世界保健機関(WHO)は1月30日にようやく「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言した。WHOによると世界全体の感染者数は2月21日時点で76,196人まで増加。中国の保険当局である国家衛生健康委員会の発表によれば、同日時点の中国国内の感染者数も74,999人まで増加した。日本の感染者数は緩やかな増加傾向にあり、2月21日時点で韓国に次ぐ91人に拡大したが、依然として終息の兆しが見えない。

新型肺炎が世界経済に与える影響は、感染拡大が終息するまでは正確な経済的試算ができない。経済的被害がどれだけ大きいかがわからないことが投資家心理を悪化させる。間違いなく言えることは、前回SARSが発生した03年当時と比べて中国の世界経済における相対的な規模が格段に大きくなったことである。

現在の中国経済(GDP)の世界への影響度(シェア)はSARSが蔓延した2003年の4.3%から18年には16.3%へ実に3.8倍に拡大している。この結果、中国の生産が年間を通じて10%減ると中国を含む世界の生産は対GDP比で約3%押し下げられると試算される。特に「世界の工場」なった中国はいわゆるサプライチェーンの生産拠点として重要な意味を持っている。中国製のスマホを例にすれば、中国の最終需要が大事なのではなく(需要は世界にある)、生産ができないことで需要がある地域に商品が届かないことの方が問題だ。つまり、売るための商品の供給量が減ってしまうことで、世界の需要が満たされず、中国国外の経済成長率が低下してしまう。中国の輸入相手国をみると韓国、日本、台湾、米国、ドイツが多く、電気機器や自動車の部品、一般機械などが輸入される。一方、中国の輸出相手国は、香港を除けば米国、日本、韓国が多く、中国は輸入した国へ輸出していることになる。つまり中国は世界の工場であり、世界の製造業は中国という工場の立地に依存していることになる。ここがサプライチェーンの最大の問題と言える。

中国の購買力も格段に大きくなった。所得の上昇によって豊かになった中国人の海外旅行消費額は14年に米国を抜いて世界最大となっている。日本についても19年の中国からの訪日外客数は959万人、月平均では80万人と03年(3.7万人)の20倍以上、13年(11万人)と比較しても7倍以上だ。日本における1人当たり消費額は21万円と平均より約3割多い。20年に予想される日本のインバウンド需要は全体で5兆円(19年は4兆8,113億円)とみられ、中国(除く香港)の需要は約4割(2兆円)と見られる。中国のインバウンドが半減すれば、年間ベースでは実質GDPを0.2%程度押し下げる。今後、企業の生産活動や消費などへの影響、企業業績への打撃などを見極めていくなかで、リスク回避的な動きが優勢になる場面があろう。

しかし、投資家には混乱が広がる中でこそ冷静な視点が重要である。感染がどの程度拡大し、いつ終息するのかを予想することは困難だが、永続するものではない。うまくいけば1-3月期、仮に伸びても4-6月期に事態の悪化に歯止めがかかれば、その後の回復を視野に入れた相場展開となろう。悲観的なムードが広がる局面は、長期的な成長が見込まれる市場や業種、銘柄への投資の好機と捉えることもできよう。

相場が反転するタイミングは全体の感染者数の伸びがピークになる時

株式市場の最大の注目点は、WHOが新型肺炎の終息を宣言するタイミングではなく、WHOへの感染者数報告の伸び率のピークが何時かという点だ。前回SARS時を振り返ると、中国で最初のSARS発症が報告されたのは02年11月16日。WHOが国際緊急事態を宣言したのが03年3月12日で、最初の発症報告から4ヵ月もかかっている。今回のWHOの「公衆衛生の緊急事態宣言」は発症報告から約8週間と当時よりも対応が早い。感染拡大防止のための初動がSARS当時よりは早い可能性がある。中国の武漢以外では感染者数の増加ペースは落ち着いてきていることを踏まえると、適切な措置を講じれば徐々に終息に向かっていく可能性が高いとみられる。

SARSの感染者数の伸び率のピークがWHOの緊急事態宣言の1ヵ月半後の4月29日。WHOがSARSの終息を宣言したのは03年7月5日だった。感染発症の確認から感染報告者数の伸び率ピークまで5ヵ月、WHOの終息宣言まで約7ヵ月かかっている。ちなみに日経平均は感染者数の伸び率がピークを付けた前日(4月28日)に底入れしている。これはWHOが終息宣言を出した7月5日の2ヵ月前である。終息宣言した7月5日には安値から26%も上昇している。こうしたことから今回、感染者報告がピークになりそうな2~3月相場は、新型肺炎を材料とする不透明感が転換点を迎えるか極めて重要と言える。

同時に、新型肺炎が終息すれば経済回復に向けて世界各国は行動するだろう。今回の震源地となった中国は3月5日に開催予定だった全人代を、2月24日の常務委員会で延期することを正式に決めた。全人代を延期してでも国内の新型肺炎の感染封じ込め策に全力を挙げる中国共産党の並々ならぬ覚悟が窺える。今後は経済対策を積み増す検討に入った。国から地方への財源移転を増加させるほか、市中銀行から強制的に預かる資金の比率を示す「預金準備率」の引き下げも検討されている模様。新型肺炎の経済への打撃を和らげると同時に、全人代の延期により生まれかねない政策の空白に備える。

日本は事業規模26兆円の大型経済対策が動き出す。このうち2019年度補正予算では4.3兆円、20年度当初予算は1.8兆円が計上される。2-4月には需要押し上げ効果が出てこよう。また、一般会計総額が102兆円を超え過去最大となる2020年度予算が年度内に成立すれば、5月以降も景気を財政面から支えることになろう。さらに新型肺炎感染拡大防止に伴う新たな経済対策も予想される。

米国は金融緩和継続に加えて、トランプ大統領は米大統領選に向けて中間所得層の減税を行うと発表している。さらに米国の経済環境にリスクが高まれば対中制裁関税率の引き下げという強力な手段を持っている。経済活動の停滞が顕著になれば下支えするオプションを有していることはマーケットの過度な懸念を和らげるだろう。

以上

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