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マーケット見通とポイント

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マーケット見通とポイント

2020年1月6日
今後の米中貿易協議と日経平均株価の動向

米中貿易協議は第1段階合意のあと、段階的に関税引き下げか

 

11月7日、米中貿易協議について「段階的関税引き下げも含む第1弾合意が近づいている」とメディアが報じた。当初は中国側からの情報のみであったが、米国側からも確認が取れると、ニューヨークダウ30種平均は7月に付けた上場来高値を大きく更新するきっかけとなった。「債券から株式へ」の資金シフトで米長期金利は3カ月半ぶりに1.94%まで上昇し、為替市場では1ドル=109.26円まで円安となった。

こうした動きの背景となったのが、中国国務院が11月7日に発表した「外資の利用を一層進める取り組みに関する意見書」。これは外国資本の活用に向けて中国政府の方針を示したもので、米中協議に向けた中国側のメッセージともいえる。この中で中国政府は対内直接投資の安定化に向けて、①対外開放の深化、②投資促進の加速、③投資円滑化の深化、④外資の合法的権益保護、の4つの側面から計20条の具体的な措置を打ち出した。この発表に先立つ10月16日、国務院常務会議が外資誘致を一段と強化することを決定していた。

そもそも、米中貿易摩擦のスタートは18年3月に公表された通商法301条に基づく調査結果で、米通商代表部(USTR)が中国による技術移転の強制や、知的財産の搾取を指摘したことであった。すなわち米国が中国に求めていたのは、必ずしも対中貿易赤字の縮小ではなく、「不公正な貿易・投資環境」の是正であった。

国務院が同意見書を公表した当日に米中協議が進展したということは、米国が中国側の姿勢を評価したと見ることができるのではないか。中国の劉鶴副首相は「国有企業の改革や金融セクターの開放、知的財産権保護の強化について説明した」とも報道されており、中国は米国に対して一定の譲歩の姿勢を見せているようだ。米国も20年の大統領選を前にディールの結果を重視している。ただし、早い時期にこれまでの追加関税の段階的引き下げを含む完全合意に至るとは考えていない。

考えられるシナリオとしては、12月に予定している約1,600億ドルの関税を見送る代わりに、米国産農産物(具体的な数値目標を明示)など貿易不均衡の是正、為替の透明性、金融サービスの市場開放などで年内か年明けに「第1段階」の合意文書に署名をする。その後は外資の投資を一層進めるために、「外資の合法的権益保護」を何らかの法律で担保することで合意した上で、夏頃までにこれまでの段階的な関税引き下げを含む合意にまで至る可能性は低くなさそうだ。ただし安全保障に関連するファーウェイ問題や産業補助金など、企業の技術・保護に関わる交渉はいったん棚上げし、長期交渉とするのが現実的な落し所であろう。要するに現時点で双方にメリットがある「一時停戦」である。時間をかけてでも段階的に関税を引き下げる方向で合意が確認できれば、米中交渉を巡る不確実性は低下していくと考えられる。

現在の米国経済の懸念材料は米製造業の設備投資の先送りと輸出の低迷である。製造業の停滞の理由の多くが米中交渉の先行きが不透明なためだ。不確実性が低下していけば企業の景況感は回復に向かい、設備投資を再開するきっかけになるだろう。

中国国務院が発表した同意見書は中国経済の活性化にも寄与する。中国の10月の工業生産は前年比4.7%増と9月の同5.8%増から大きく減速した。実は19年になって顕著に生産を落としているのは中国の「地場企業」よりもむしろ「外国企業」である。中国に拠点を置いていた外国企業が不確実性に直面し、中国における設備投資を控えている。結果として日本企業の機械受注のキャンセルの要因になっている。しかし、米中協議で「第1段階」合意が実現すれば、「外国企業」も中国での生産活動を再開させ、設備投資も拡大に向かう可能性が高い。前述したように中国は対内直接投資を促進するために知的財産や技術保護を強化する方向で動いており、「外国企業」の投資意欲を喚起する可能性があるだろう。

このシナリオでは20年に向かって日本の製造業が活力を回復することになる。東証1部上場の3月決算企業(1,137社)の今20年3月期の経常利益は全産業ベースで前期比0.3%増益の予想だが、内訳は製造業が同12%減、非製造業が同13%増の予想である。製造業の不振の最大の理由は米中摩擦のあおりを受けた電機、自動車、化学など主力企業が中国などアジアで打撃を受けたことが大きい。米中摩擦の緩和と米中企業の設備投資再開は日本の製造業のセンチメントを明るくするだろう。

 

業績減額に耐性を示す株価、新年の日経平均は2万6,000円へ

 

10~11月の今3月期の中間決算発表時に通期業績を下方修正する企業が少なくなかった。しかし株価の反応は下方修正後に下落したものの、事前に織り込まれていたため、下落は限定的だった。アナリスト予想の修正動向をみると、今期業績見通しに対する目線は低下しているものの、来期の増益予想は拡大している。仮に来期に増益が確信できるのであれば株価のバリュエーションに影響しよう。

日経平均の予想PERは13年4月から18年3月までは平均14.9倍だったが、18年4月から19年9月までは平均12.5倍に低下した。米中の追加関税、円高・ドル安、グローバル景気減速で投資家の期待値が低下したためだ。しかし、中間決算をはさんで11月に予想PERは14倍台に乗せるなど回復してきた。米中の合意観測と来21年3月期業績の回復期待が背景にあり、過去平均的なPER水準に回復・正常化する兆候と見られる。13年度から19年9月までの平均PERである14.2倍が今後の軸となり、投資家心理によって13.4~15.0倍のレンジで推移すると予想される。日経平均をベースにした18年度予想EPSである1,762円を基準に、19年度のアナリストコンセンサスは前期比0.5%減の1,753円、20年度予想は19年度見込み比4.7%増益の1,835円である。ここに14.2倍を乗じると2万6,000円が中心的な理論値となる。予想PERのレンジ(13.4~15.0倍)を当てはめると20年度の株価レンジは2万4,500~2万7,500円となる計算だ。ただし、想定以上の悪材料となるテールリスクのが意識される場合のPERは12.5倍とし、この場合の日経平均は23,000円がメドとなる。

(12月7日記)

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