マーケット見通とポイント
ラグビーワールドカップ2019日本大会が盛り上がっている。同大会は歴史的にオリンピック、FIFAワールドカップ(サッカー)と並ぶ「世界3大スポーツイベント」とも言われ、経済効果も無視できない。「世界3大スポーツ」のうち冬季五輪とワールドカップサッカーは米中間選挙と必ず同じ年に行われる。11月に米中間選挙が実施された2018年は平昌オリンピックとFIFAワールドカップロシア大会が開催された。夏季五輪と米大統領選挙は必ず同じ年に行われる。20年は東京五輪と米大統領選の年回りとなる。世界的なスポーツイベントは最新の映像機器の更新需要につながり、ハイテク機器の需要を押し上げる。ちなみに米大手放送局であるNBCが32年までのオリンピックの放映権を買い切っているから、夏季五輪の最大の顧客は米国民であるといえる。
ところで世界の景気サイクルは主に在庫循環を基に概ね2年ごとに山と谷を付ける傾向がある。とくに五輪と米国の選挙が重なる年に景気のピークを迎え、次の五輪の前年から底入れ・回復に向かうのがパターンとなっている。米中間選挙の1年前の17年12月に成立した巨額の法人税減税を柱とした米税制改革法案や、「中国製造2025」を景気のエンジンに中国経済がピークを迎えたことで、18年前半に世界経済成長率はピークを迎えた。世界的な半導体の在庫調整で18年後半から世界経済は減速局面に入り、今年前半は米中貿易戦争や欧州自動車市場の不振もあり、欧州と中国で景気の減速感が強まった。
世界半導体出荷高の前年同期比伸び率を見れば17年後半から18年前半がピークで、今年前半が最悪となっている。サイクル的には20年半ばのピークに向けて回復が始まるタイミングにある。20年は世界的に次世代通信規格「5G」サービスの普及が加速し、IoTや自動運転の技術革新が離陸期を迎えるだろう。19年に投資の調整期を迎え需要が踊り場にあったデータセンター投資も再開、20年は世界的に半導体需要が刺激されるだろう。
国内では08年の世界金融危機で政府が経済・景気対策として実施した家電エコポイントから来年で12年を経過し、買い替え需要期を迎えている。日本エネルギー経済研究所は、09年度の薄型テレビの総出荷台数(1585万台)のおよそ15・6%(247万台)がエコポイント制度導入により押し上げられたと試算している。
一方、米大統領選まであと1年に迫った。大統領選における国民の最大の関心事は経済であり、株価である。この点で、50年ぶりの低失業率や抑制されたインフレ率、過去最高値に迫る株価などはトランプ大統領にとって有利となる。1952年以降で失業率が低下傾向にあった状況では、ウォーターゲート事件の影響で1976年に敗北したフォード大統領を除けば、現職が再選されている。92年のブッシュ大統領と80年のカーター大統領は失業率の上昇に直面して2期目を果たせなかった。
2019年が米中貿易摩擦や欧州・中国の景気減速で米国の経済も減速傾向にあるため、共和党、民主党ともに今度の米大統領選の最大のテーマは20年以降の米経済回復を実現する政策競争になる。株式市場にとって米大統領選はプラス材料になると考えられる。
大統領選挙自体は20年11月だが、相場的には20年の前半(1~6月)がヤマ場となる。候補者選びは2月3日のアイオワ州党員集会からスタートし、4月28日のニューヨーク州(他5州)まで続く。20年の特徴は3月3日のスーパーチューズデー(予備選・党員集会の集中日)が圧倒的な存在となることだ。民主党の候補者選びにおける選挙人は全体で3768人だが、いつもは予備選を最終盤の6月頃に行うカリフォルニア州が3月に前倒ししたため、3月3日に開票されるのはテキサス州、ジョージア州など合計で1420票(全体の37・7%)に達する。従って早ければこの日に民主党の候補者が事実上決まる可能性がある。民主党の大統領候補者が決まれば、有権者は共和党・トランプ大統領にあと4年間政権を託すのか、それもと民主党政権に変えるのかという選択を迫られることになる。つまり、今から半年間のトランプ大統領の政策判断が米経済や株価に影響を与えることになる。
トランプ大統領は選挙に向けて実績を重視し始めた。イランとの交渉に前向きだったトランプ大統領は、対イラン強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を突如解任した。北朝鮮政策では大統領選に向けて最善のタイミングで非核化に向けた4回目の米朝首脳会談を模索している。日米貿易交渉は意外に早くまとまった印象があるが、対米自動車輸出の数量規制や関税引き上げを避けるため、農業分野で日本がトウモロコシの大量購入を表明するなど一定の譲歩を余儀なくされた。トランプ支持の農業票に配慮した格好だ。
ウクライナ疑惑を巡るトランプ大統領への弾劾訴追は下院の単独過半数の賛成で可決されるものの、罷免となると上院の出席議員の3分の2の賛成が必要で難易度が高い。
米中貿易交渉は18年以降、実務者・閣僚級会合が12回開かれたが、マーケットはことごとく裏切られたため、10月の貿易協議の合意を予想する向きは少ない。しかし、年末までに部分的合意が実現すれば製造業のセンチメントは間違いなく反転することになる。来年前半の米景気のモメンタムは上向きになり、それを先取りする形でNYの株価は新高値を更新する可能性が高い。一方、対中強硬策を継続すれば米製造業のセンチメントが一段と悪化し、「トランプ不況」になりかねない。それを緩和するためにFRBに強力な圧力をかけるシナリオも考えられる。しかしあまりに露骨なやり方は却って金融市場の反乱を招きかねない。「ビジネスマン・トランプ大統領」が選択する最良の手段は実績重視の暫定合意である可能性がある。こう考えると20年の夏季オリンピックと米大統領選は米経済と株式市場に刺激を与える非常に大きな材料となる可能性が高い。